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デンジャラス・プリンセス登場!

 真が目を開けて、周りを見回すとそこはテレビや雑誌の写真などで見たことがあるような豪華な宮殿の中の巨大な大広間の一室のようだった。


 その部屋の中には、豪奢な金銀で作られたと思われる彫像や、華美な装飾品などが数多く飾られていて、豪華な礼服とも思えるような服装をした数十人の男女が規律正しい姿勢で口々に驚きからきたと思われるどよめきの声をあげながら、真に視線を向けていた。しかし、その中の女性のうちの何人かは真の姿を見て恥ずかしそうに目を背けた。


 何しろ今の真の姿は黒のショートタイツに黒のリングシューズのみという、その姿を見慣れない者にとっては、突然半裸の巨大な変態男が現れたと思われても仕方がない状況である。


 だか、真はそんなことは意にも介さない。

『俺たちゃ裸がユニホーム』とかつて放送されたテレビアニメ『アパッチ野球軍』の主題歌にも歌われているように、プロレスラーにとってはこの姿こそが正装なのだという信念を真は持っていた。


 真には過度に派手なコスチュームを身に付けずに、一切の装飾を排除して、黒のショートタイツと黒のリングシューズのみを身に付け、己の肉体のみを武器にして戦いながらパフォーマンスを行い観客を魅力するのが(しん)のプロレスラーであるというこだわりがあった。

 だから、真は今の自分の姿が他人からどう思われようとも全く気にはならないのだ。とはいえ、できれば見たものが一目今の真の姿を見ただけで、その怪物的な迫力を感じ取ってくれればいいがとも思っていた。


「よく来たな。異世界からの勇者よ」

 真のヘソの上辺りから、可愛らしい声が聞こえてきた。

 真は頭を下に向け、声がしてきた所を見下ろした。

 そこには大きな青い瞳が印象的な美しい少女が両手を腰に当てて慎ましやかな胸を反り返らせるようにして、立っていた。

 今の真にとって、その少女はあまりにも小さすぎて最初その存在に気がつかなかったのだ。


(わらわ)がこの神聖アルバトロス王国の王女シャルロッテ・ヴォルテーヌじゃ」

 シャルロッテと名乗ったその小さな少女は気の強そうな目で、真の顔を見上げながらそう言った。


 シャルロッテはまるで神が趣味で美しい人形を作り上げたとしたら、このような姿になるだろうと思わせるような可愛らしい外見をしていた。

 艶やかな潤いを含んで輝くような金髪の長い髪はツインテールに結ばれ、頭にはよほどの熟練した職人が作ったと思われる繊細な意匠が施された金色のティアラをつけていて、体は純白のドレスを身にまとい、首から真珠で作られたと思われるネックレスを下げていた。


「妾が、許す。名を名乗るがよい」

 シャルロッテが言った。


「えーと、お嬢ちゃん。ここはどこなのかな?」

 いまいち現状を理解できていない真は、シャルロッテに思わずそう尋ねた。


「あー! 今、妾のことを“お嬢ちゃん”と言ったな! 妾を子供扱いしおって! 妾はもう16歳なのじゃ! 立派な大人のレディーなのじゃ! 次にもう一度妾を子供扱いしてみよ、その時はアントニオ猪木がタイガー・ジェット・シンの腕を折ったときのような目に合わせるぞ!」

 冬木弘道のように地団駄を踏みながら、怒るシャルロッテの口から“アントニオ猪木”や“タイガー・ジェット・シン”の名前が出てきたことに真は驚いた。


「なんで、異世界の王女様が“アントニオ猪木”や“タイガー・ジェット・シン”の名前なんて知っているんだ?」


「その辺の話はおいおい話すが、まずはそなたの名前を名乗るがよい」

 ひとしきり怒ってから、冷静さを取り戻したシャルロッテが言った。


「俺の名前は、早乙女真……、じゃなかった。俺の名前はデストロイ早乙女! 人呼んで“地獄の暴君”デストロイ早乙女だ!」


「ふむ。なるほど“デストロイ早乙女”か。いかにもプロレスラーらしい強そうな名前じゃな。よろしい、デストロイ早乙女よ、そなたは異世界から召喚された勇者の特権として特別に妾のことをシャルロッテと呼ぶことを許そう」


「わかった。よろしくなシャルロッテ」


「うむ。よろしい。それと私の異名は“デンジャラス・プリンセス”だ。どうだ、自分で考えたのだが、我ながら良いニックネームだろう?」

 シャルロッテは満足そうに頷きながら、真に握手をするための右手を差し出してきた。


「ああ。わかったよ“デンジャラス・プリンセス”シャルロッテ」

 真は差し出されたその少しの力を加えただけで砕け散りそうなガラス細工のように繊細で美しい華奢な手を軽く触れるように握り返して握手をした。


 ちなみに、この時真が握手をしながらケンドー・カシンのように、そのまま飛びつき腕十字をかけたいという衝動に駆られたのを耐えたのは内緒の話である。


 真は内心目の前と言うより眼下にいる、神の祝福をその身に一身に受けたであろうかと思われるほどに、可愛らしい容姿をしたシャルロッテの“デンジャラス・プリンセス”なとどいう物騒なニックネームが、その姿形からは数万光年もかけ離れたものだと内心思ったがツッコミたいのを我慢してここはスルーしておいた。

 何しろここは異世界で相手は王女だ、しかも自称16歳とは言っても真が今までいた世界の16歳の女子に比べてもその平均身長に到底届かないと思われるほど小さな少女だ。


 この世界の人間の平均身長が、真のいた世界の人間の身長よりも低いのかと思ったが、大広間に列した他の人間たちの身長を見てみるとそうでもないようだ。

 やはり、シャルロッテの身長はこの世界でも小さい方なのだろう。


 とにかく、そんな相手、しかも初対面の人間相手にツッコミを入れるのはさすがの真も気が引けた。


 特に今の真は超一流のプロレスラーの肉体と技術を持っている。もしも条件反射的にツッコミを入れようものなら、思わず三沢光晴ばりのエルボーや、小橋健太ばり逆水平チョップを入れかねない。というわけで真はツッコミを入れるのを自重したのだ。


「ところでアングル、いや現在の俺の置かれている状況について説明してくれ」


「うむ。異世界から召喚されたばかりで、今の状況がわからないのも無理はない。説明しよう現在この世界の人間は恐るべき魔族との間でお互いに争いあっている。だが、我々人間と魔族は無用な戦争による戦死者を出さないために、人間代表と魔族代表を一人づつ出し合い衆人環視の前で戦わせるという方法をとっているのじゃ」


「なるほどな、そこで俺の出番というわけか」


「そうじゃ。今までに我が王国から12人の戦士たちを送りこんだが、魔力に長けている魔族に歯が立たず皆敗北を喫しておる」


「うむ。それで次の人間側の代表が俺というわけだな。それにしても“13人目の刺客”というのは中二心をくすぐられる良いネーミングだ」


「話が早くて助かるぞ」


「それにしても、その魔族というのは悪い奴らなのか? 俺はヒールでもベビーフェイスでもどちらでも良いのだが」


「魔族が悪い奴らかという質問についてじゃが、奴らが悪いかどうかというと勿論悪い奴らじゃ! 特に魔王コワルスキージュニアは悪の中の悪! 極悪そのものと言っても差し支えないほどの悪い奴じゃ!」


「それほどまでの悪い奴なのか。例えばどんな悪行を働いているのだ?」


「むう。思い出すだけでも忌々しい」

 そう言うとシャルロッテは、相手レスラーから攻撃を受けても体を震わせながら立ち上がるハルク・ホーガンのハルクアップのように怒りのために全身を震わせて体を震わせて顔を真っ赤にして唇を噛んだ。


「あれは、今からおよそ1年前のことじゃ。我が王国と魔族の間の平和を祝い更に親睦を深めるために我が父国王と我が母王妃と王女である私の王族と先代魔王コワルスキーとその息子現魔王当時王子であったコワルスキージュニアと各々の国の重鎮たちで食事会とパーティーを催したのじゃ、その宴も終わりに近づき全員でカメラの前に立って記念撮影をしようとしたときのこと──」


「ちょっと待ってくれ。カメラ? 写真? ここは異世界なのにそんなものがあるのか?」


「なんじゃ。そなたのいた世界にはカメラもなかったのか? 随分遅れている世界じゃのう。正確には“魔法写真撮影機”というのだがのう」


「いや、カメラはあるにはあるけど、魔法なんかはつかっていないぞ」


「なんじゃ、魔力も使わずにどうやって機械を動かすというのじゃ?」


「いや、電気とか石油とかガスなんかをエネルギーにして機械を動かしているのだけど」


「“でんき”? “せきゆ”? “がす”? そう言えばそんな物をエネルギー源として供給する研究している学者もいるらしいが、結局魔力の方がエネルギーとして効率がいいというので、あまり普及してはおらんがのう」


「何だか、俺が想像していたようなアニメや漫画に出てくるような異世界とは違うな。まあ、日本語がそのまま通用している時点でその辺のことは気にしないでおこう」


「うむ。何だかわからんが納得してくれたようで、結構じゃ」


「それじゃあ、さっきの話の続きを聞かせてくれ」


「そうじゃ。それで皆で記念撮影をしようとしていたときのことじゃ。妾とあの(にっく)きコワルスキージュニアが隣になって立っていたのじゃ、そこでいよいよ写真を撮影されようとしていたとき、近くでオナラの音がプーっと鳴ったのじゃ。すると隣に立っていたコワルスキージュニアが優しげに微笑みながら妾を見て小声で『大丈夫ですよ。姫、今の音は聞かなかったことにしておきます。心配しなくてもこのことは誰にも言ったりはしませんよ』と言ったのじゃ! それを聞いていた周りの者たちは皆クスクスと笑ったのじゃ! お陰で妾は大切な場面でオナラをした王女だと思われたのじゃ! 妾は絶対にあの時おならなんかしていないのじゃ! これは冤罪じゃ! きっとあの時本当にオナラをしたのは、コワルスキージュニアなのじゃ、それをごまかすために妾にその罪をなすりつけようとしてあのような、偽善的な行いをしたのじゃ! これを極悪非道と言わずしてなんと言おう!」


「はあ」

 真はなんと言っていいのかわからなかった。


「それに、魔族の奴らは平日の夜中に夜更かしして深夜アニメをリアルタイムで見たり、3時のオヤツの時間やデザートの時間でもないのにお菓子を食べたり、食事に出されたニンジンやピーマンを嫌いだと言って残したりするのじゃ。妾ですら頑張って食べているというのに。どうじゃ? 奴らは悪い奴らじゃろう。それ以外にも奴らの悪行は枚挙に(いとま)がないぞ! そうじゃな皆の者よ!」

 そう言いながらシャルロッテは同意を求めるように後ろを振り返り大広間に列している人々を見た。だが、見られた人々はどことなく気まずそうに一斉に目をそらした。


 ──ああ、この人たちはみんな何か心当たりがあるんだな。

 と、真は思った。


「まあ、そこら辺のことはどうでもいい。俺は闘えればなんでもいい。今の俺の肉体の中には放出できない巨大なエネルギーがマグマのように煮えたぎっている。速く俺の力を爆発させる場を与えてくれ」


「うむ。頼もしいぞデストロイ早乙女よ。この国の命運はそなたに託された。頼んだぞ」


「いつ何時(なんどき)、誰の挑戦でも受ける」

 真は人生の中で一度は人前で言ってみたいと夢見ていたセリフを言って、胸を張り腰に両手を当ててポーズを取った。

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