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ファイプロのプロレスラーエディットってこだわってキャラを作ろうとしたら、時間がいくらあっても足りない

「カール・ゴッチ? ユーには私の姿がカール・ゴッチに見えるのか?」

 その自称神様は真に尋ねてきた。


「いや、どう見てもカール・ゴッチですよね。確かにカール・ゴッチのニックネームは“プロレスの神様”だけど。アレ? じゃあ、正しいのかな?」


「私は本来決まった姿形を持たない。見る者がイメージする姿を形作るのだ。ユーが私のことをカール・ゴッチのように見えるのであれば私のことをカール・ゴッチ と呼ぶが良い。そして、ここは選ばれた者だけが立ち入ることが許される神界だ」


「はあ、それで神様ゴッチさんは俺に何の用ですか?」

 一気に緊張が解けた真が神に聞いた。


「実はユーに異世界に行き魔王を倒してほしいのだ」


「え! 何で俺がそんなことをしなければならないんですか?」


「理由などない。ただ運命がユーを選んだだけだ」


「つまり適当に選んだだけなんですね」


「うむ、そうとも言う。それにユーは暇そうだったからな」


「冗談じゃない。俺だって暇じゃないんですよ。プロレスを観戦しなければいけないし、プロレス雑誌やプロレス関連の本も読まなければいけないし、プロレス関連のイベントにも行かなければいけないんだ」


「ふむ、予想通りユーは相当なプロレスバカだな。さすが『ファイプロG』のストーリーモードをプレイするとき、VIEW JAPANでスタートしたときはライオンマークの新日本Tシャツを着て、FWOルートに入ったときはわざわざnWoTシャツに着替えてプレイするだけのことはある」


「くっ。俺のプライベートな時間も全て把握されているというわけか」


「それに、異世界に行くのも悪いことばかりではない。異世界に行けばユーはユーの理想とするプロレスラーになることができる」


「何ですって!」

 それは、なんという魅力的な提案だ、と真は思った。


「どうだ。これは決してユーにとっても悪い取り引きではないと思うのだが」


「でも、魔王とか魔王軍ってどれくらいの強さなんでしょうか?せめて、はぐれ国際軍くらいならなんとかなりそうだけど、維新軍とか蝶野とグレートムタがいた頃のnWoJAPANとかが相手なら手強そうですよ。その上、魔王軍四天王とか言って全日時代の四天王レベルの強敵が現れたらお手上げですよ」


「その辺は、心配いらないどんな強敵にも負けないように一人の超大物レスラーがユーを鍛え上げるからな」


「エッ……、そ、その超大物とは!?」


「わたしだよ。それともカール・ゴッチは超大物ではないかな?」


「ゴ……、ゴッチさん!」


 このときの感動を一生忘れないだろう!

「神様」カール・ゴッチが自分を鍛えてくれる、その感動に私は自分の身体が戦慄(わなな)くのを感じた。

 ──デストロイ早乙女(談)


「ただ教えるのではなくこれは勝負だ。わたしも全力をあげて、ユーと一緒にプロレスの真髄をもとめトレーニングする! どっちが先にバテるかの勝負だッ!」


 強い視線で熱く見つめ合う二人。


「……って、何でこんなところで『プロレススーパースター列伝』ごっこをしなければいけないんですか!」

 真はツッんだ。真がツッコまなければいつまでもこのノリ

 が終わらないと思ったからだ。


「自分だって、途中までノッてたくせに~。それでどうする? やれんのか?」


『やれんのか』その言葉を聞いたときアントニオ猪木の名言が真の頭の中によぎった『やる前から、負けること考えるバカがいるかよ!』その瞬間、真は「やってやるって! どデカい花火を打ち上げてやるって!」と越中詩郎風に答えていた。

「それに俺は今年に入って既に闘道館の商品券を1000円分貯めた男だ! どんな相手でも怯んだりしない!」


 “闘道館”とはJR山手線巣鴨駅北口から徒歩一分の距離にある格闘技、プロレス関連のグッズを専門に扱い買い取り販売をする店である。

 ちなみに、真は初めてこの店に足を踏み入れたとき、ここはこの世の天国か!? と思ったという。


「ふむ、その自信の根拠はよくわからんが、よろしい。では、これよりユーをユーの理想とするプロレスラーに変えてやろう」


「え? トレーニングとかはしないんですか?」


「さっきは、ノリでああ言ったが正直面倒臭いので手っ取り早くユーを私の能力(ちから)でユーをユーの理想のプロレスラーにしてやろう」

 そう言うと神様は軽く手を振った。


 するとその一瞬後、真の目線は高くなり今度は神様を見下ろしていた。


「ほれ、これが今のユーの姿だ」

 突如真の前に巨大な鏡が現れた。その姿は真が憧れていた巨大な姿で狂暴そうな顔をしていた。体もボディービルダーのような見せるための筋肉ではなく、分厚い筋肉の上に脂肪が覆っている。身に付けているのは黒いショートタイツとリングシューズだけだ。


「196cm126kgの肉体だ。どうだ? 気にいったか?」


「はい。でもちょっと待っていてください」

 真は上機嫌で、鏡の前で様々なポーズを取ったり、表情を変えて見たりしている。


 あらかたポーズを取り終わると、真は嬉しさのあまり両手を上に上げて「俺は、自由だー!」と叫んだ。


「“野良犬”高野拳磁の真似をしているところ悪いが、そろそろ話を続けてもいいかな?」


「ああ、すみません。嬉しさのあまりつい我を忘れてしまって」


「それにしても、高野拳磁とはな。私にとって“野良犬”と言えばキックボクサー小林聡だが」


「そうですねー、小林聡はカッコよかったですねー」

 真はシュートボクシングvsUWFインターナショナル対抗戦、吉鷹弘vs大江慎の名勝負を見てから立ち技格闘技も多少わかるのだ。


「小林はオスマン・イギン戦とかもよかったが、やっぱり小林といえば対ムエタイだな」


「そうですねー、テーパリット戦が良かったのはもちろんですけど。なんと言ってもサムゴー戦の衝撃といったらなかったですね、あの左ミドルの連打で小林の右腕が破壊されるシーンなんか、マンガの『アキバシュート』や、『KOセン』に載っていた読み切りとかで再現されてますからねー、やっぱり当時は衝撃的だったんでしょうね。でもそれでも闘志むき出しで向かっていく小林……ってこれじゃあ話が進まないじゃないですか!」

 真はノリツッコミをした。


「ノリツッコミは良いが、ユーのノリツッコミは“ノリ”の部分が長いな」


「それは、普段プロレスとかの話をする相手がいないので、つい嬉しくなってしまうんです」


「そうか、では話を続けよう。ユーの頭脳には経験値として様々なプロレスラーの記憶が刻まれているはずだ。どうだ? 記憶を探ってみろ」


「そう言われてみれば……、絞め落とされて浴槽に沈められて、上から蓋をされてその上に兄弟子に乗られた記憶とか、兄弟子がエアガンで雀を打ち落として、その雀を丸焼きにして食べさせられた記憶とか、トイレの個室に入っていたらロケット花火何十発も打ち込まれたり、スクワット2000回やった後先輩に『もう1000回くらいできるんじゃない?』と冗談で言われたら『できません』って言っちゃってボコボコにされた後スクワット1000回やらされたり …… ってロクな記憶がないな。やっぱり天コジはすげーわ」


「最後のは田村潔司だけどな」


「それに『竹刀ごっつぁんです』どころか木刀でボコボコにされた記憶まであるんですけど」


「まあ、ドージョーでのヤングボーイの扱いなんてそんなものだ。とにかくこれでユーはプロレスラーの肉体だけではなく、精神までも手に入れたのだ」


「そういえば、神様。俺は死んだんですか?」


「ユーは本当に頭が残念な子だな。そういうことは普通は最初に聞くもんだぞ。学校の成績は良いはずなんだがなー」


「いや、いきなり。目を覚まして目の前にカール・ゴッチがいたら誰だってこうなりますよ」


「いや、ユーは珍しい方だと思うがな」


「俺は、死んでないんですか?」


「うむ。精神を一時的にこの世界に飛ばしただけだ」


「何だー。良かった」


「なんだユーもやはりあっちの世界に未練があったのか」


「それは、やっぱりさっきも言った通り闘道館の商品券が1000円分たまってますからね」


「なんだ、そんなことか」


「そんなことって言っても俺には大切なことなんですよ」


「まあ、いい。ユーと話をしているとなかなか話が進まないから手っ取り早くアングルを教えるぞ」


 アングルとは、プロレスにおけるストーリーや仕掛けのことである。選手の乱入や、それをきっかけにはじまる抗争などである。日本一有名なアングルといえば新日本プロレスvsUWFインターナショナルであるが、ファン目線からアングルを作り出すこともできる。例えばここに“修行僧”前田尚則vs“太陽の虎”ソルテティグレ・ヨースケというキックボクシングの好カードがあったとする。両者ともアグレッシブなファイトスタイルで好勝負が期待できる。ところが、前田尚則は“藤原道場”所属、ソルテティグレ・ヨースケは“UWFスネークピットJAPAN”所属。つまり、見方を変えれば伝説の“藤原道場”vs“UWF”の末裔という素敵なアングルが出来上がるというわけだ。


「うむ。今その世界では人類が魔族たちに蹂躙され危機に陥っているという。私はその世界の人類との千年の盟約により、その世界を救うべく一人の勇者を送り込むことになったのだ」


「それが、俺ってわけですか」


「うむ」


「まあ、今の俺なら怖いものなしですよ。魔族なんて目をつぶって30秒ってところですね」


「谷津嘉章並みの自信だな。頼もしいぞ。だが、これだけは言っておく。ユーはまだヤングボーイにすぎん。だから戦いで使えるのは基本的な地味な技だけだ。唯一許されるのはドロップキックだけだ」


「えー、そんなヤングライオン丸出しの戦いしかできないんですか? ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスとかしてみたいんだけどなー」


「ユーは渋いところをついてくるな。ならばよろしい必殺技を一つだけ授けよう」


「え、なんですかそれは?」


「本物のカール・ゴッチがマイサン(私の息子)と呼ぶ木戸修のキドクラッチだ!」


「いや、戦いの中で丸め込んで3カウント奪っても仕方ないかもしれじゃないですか。それならせめて脇固めにしてくださいよ、そっちの方がまだ汎用性が高そうだし」


「ふむ、贅沢なことを言うな。それならばユーの望む必殺技とは何だ?」


「ピープルズエルボーです」

 真は即答した。

 ピープルズエルボーとは、現在では俳優として有名なドゥエイン・ジョンソンがプロレスラー時代に大一番の時に使っていた必殺技である。

 リングの中央に倒れた相手の頭側に立って踊るように両手を振り肘のサポーターを観客席に投げ、それからローブに走り、倒れている相手を飛び越えて逆側のロープに走りまた相手の側に来ると立ち止まって体を揺らしながらエルボーを落とすというスポーツエンターテイメント界一シビれる技である。


「ユーは本当に残念な子だな。戦場でピープルズエルボーなんてしてる暇はないだろう」


「それなら、どんな必殺技がいいんでしょうか?」


「とりあえず本物のカール・ゴッチが必殺技にしていたジャーマンスープレックスでいいだろ」


 ジャーマンスープレックスとは、プロレスの芸術品といわれるメジャーな必殺技である。

 相手の背後に立って、両腕で相手の腰をクラッチしてそのまま後方に反り返って相手の頭部をマットに打ち付ける技である。

 ちなみにこのときのブリッジの美しさでそのプロレスラーの力量が観客に判断されるという諸刃の剣のような技でもある。


「それじゃあ、ジャーマンスープレックスでいいです」


「それではこれからユーを異世界に送り込むぞ」


「はい」


 真がそう答えると自分の身体が光に包まれて、異世界へと転移された。

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