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寝る前に少しだけファイプロやろうと思っていたら、いつの間にか夜が明けてたりする

 突如、銃声が鳴り画面の中に『To be continued?』という文字が浮かびあがった。


 早乙女(まこと)は、その画面を見ながら首をひねった。


 自分は今まで『ファイヤープロレスリング(以下“ファイプロ”)G』のストーリーモードをプレイしていたはずなのに、いつの間にか『スーパーファイプロスペシャル』のストーリーモードのエンディング画面が映し出されているようだ。



 ここで、一言説明をしておくと“ファイプロ”というのはその名の通りプロレスを題材にしたコンシューマーゲームソフトのことであり1989年に記念すべき『ファイプロ・コンビネーションタッグ』が発売されてから現在にいたるまで、続編が発売されている人気シリーズである(アーケード版の『ファイプロ外伝 ブレイジングトルネード』があったがそれは例外とする)。


『ファイプロ』シリーズはその新作が発売されるたびに進化を遂げ、エディット機能を使い自分が想像したプロレスラーを作ることができ、またそのプロレスラーをデフォルトで登場している実在のプロレスラーを連想させるキャラクターと闘わせることなどもできる。もちろんデフォルトプロレスラー同士を戦わせて現実ではありえないドリームマッチなどを設定することもできる。


 世紀をまたいで発売されているこのゲームは、いまだにキャラクターを2Dのドット絵で表現しており、それだけに画面の中のキャラクターたちの戦いをプレイヤーが想像力で補うという仕組みになっている(一度、『ファイプロアイアンスラム´96』で3Dポリゴン仕様のゲームが発売されたことがある)。


 プロレスファンなら一度はこのゲームの名前を耳にしたことがあるはずであり、その中の多くがプレイしたことがあるはずである。


 ちなみに、一度このゲームにハマったことがあるプロレスファンの多くが、脳内で『ファイプロ』をプレイすることができるという能力(スキル)を持つ。


 例えば、暇なときに脳内で『ファイプロ』のエディット機能を想像して、自分なりのプロレスラーを作り出すことができ、またそのプロレスラーたちを独自のアングル(“アングル”については後述する)の下に戦わせることができる。


 眠る前にこの能力を使いながら横になるプロレスファンも多いことであろう。



 早乙女真が不思議に思って画面を眺めていると、今度は周囲が暗くなり、身体が完全な闇に包まれた。


 □□□


 まず第一に早乙女真は、プロレスファンである。

 また、大槻ケンヂ氏がかつて述べたように、「プロレス会場にはモテないオーラが立ちこめている」といったような発言に反するように、早乙女真はモテる。


 なぜなら美少年だからだ。

 真は、幼い頃はよく女の子に間違われた中性的な美しい顔と身長175cmの細身の身体で周囲の異性たちを魅了せずにはいられない外見をしていた。


 また、頭脳の方も在籍している名門私立ウェスト・テキサス学園でも常にトップの成績である。真自身は特別勉強しているわけでもないのに、成績が落ちることはない。


 ウェスト・テキサス学園が男子校でなければ、真を取り巻く環境は大きく変わっていたことだろう。


 事実ウェスト・テキサス学園の近隣の中学高高校では、女子生徒を中心にする“早乙女真ファンクラブ”なる非公式の団体が存在する。


 ラブレターを渡されたり、メールやLINEで連絡をとろうと試みる女子は後を経たない。

 もちろんバレンタインデーなどは大変な騒ぎになる。真にチョコレートを渡そうとする女性たちが校門の前に列をなしているのだ。


 だが、真はこのような周囲の状況をうとましく感じていた。真とて健全な17歳の男子だ。異性に対する興味がないと言ったら嘘になる。

 しかし、現在真の心の中の大部分を占めているのは、プロレスのことであり、それ以外のことにはあまり興味が湧かないのである。


 ちなみに、真の好みのタイプの女性はOVA『綾音ちゃんハイキック!』の主人公、三井綾音である。あれで女子プロレスだけではなく男子プロレスにも興味を持っていてくれたなら理想的なのだが、と真はいつも思う。なので、真は自分に告白してくる女性たちに対して、まず「10・9(ジュッテンキュー)と聞いて何を連想する?」と尋ねることにしている。ほとんどの女性がこの言葉に答えられない。

 プロレスファンならば言うまでもないことだが、10・9(ジュッテンキュー)とは1995年10月9日に東京ドームで行われた新日本プロレスvsUWFインターナショナルの伝説的な対抗戦が行われた日であり、その通称なのである。真にとってはこの程度のことはわざわざ口に出すことすら恥ずかしい常識的なことなのだが、それに答えられる女子は今のところいない。なので価値観が合わないとして女性からの告白は全てお断りしていた。


 いっそのこと、かつて伝説の空手家マス大山が修行中にそうしたように片方の眉毛を剃り落としてしまおうかと考えたことも一度や二度ではないが、そのことを教師に相談すると職員室にいた女教師に泣いて止められたので諦めることにした。


 このような周囲の状況とは、裏腹に真は自分の外見に対してコンプレックスを持っていた。

 真は多くのプロレスファンの少年が一度は、心の隅で思うプロレスラーになりたいという夢を抱いたことがある。


 しかし、現実の真の外見は真の理想とするプロレスラー像から、かけ離れたものであった。


 真の理想とするプロレスラー像とは強いのはもちろんのことであるが、怪物的な外見をしていて、大きくなくてはならないというものであった。だが、鏡に写った自分の姿はその理想からはほど遠いものであるということは真自身も認めざるを得なかった。


 その上、真には絶望的なほどに格闘技の才能がない。

 中等部にいたころ、柔道部に在籍していたが人一倍練習したにも関わらず結局三年間黒帯を取れなかった。更には中等部三年のころ入部したての一年生にも負ける始末。他にも色々と試したが、全て真には完全に格闘技の才能がないと思いしらされる結果に終わった。


 真は運動神経が決して悪いわけではなく、むしろ良いほうなのにこれは不思議なことだった。


 結局、真はプロレスラーになることは諦めプロレスのファン活動に専念することにした。


 その日は、真は自分の部屋で『ファイプロG』のストーリーモードをプレイしていた。

 現在ではより高度な進化を遂げたファイプロシリーズが、発売されているのに、真がいまだに1999年に発売された『ファイプロG』をプレイするのにはわけがある。もちろん真もファイプロの最新作を既に入手済みであり、プレイもしているのだが、『ファイプロG』のストーリーモードは自分の好きなプロレスラーのキャラクターを作りそのキャラクターに、90年代のプロレス界の様々な事件や出来事を追体験させるストーリーになっている。


 真はその自分の作り出したキャラクターに、自分を重ねてプロレス界を暴れまわる妄想にふけるのが好きだったのである。


 余談だが、ギャルゲーやエロゲをプレイする際、システム上可能ならばデフォルト名などを使わずに迷わず自分の本名を入力するのが(しん)の男というものであろう。真もプロレスファンとして(しん)の男を自負していたので『ファイプロG』のストーリーモードで使用するキャラクターには自分の本名をつけていた。

 その名前も最初は単純な“早乙女真”なのだが、ゲーム内でストーリーが進みキャリアを重ねるとリングネームを“デストロイ早乙女”と変える。ニックネームもデビュー時点では“ビッグユニット”だったのだが、それが“プロレス界の暴君”、ストーリー終盤になると“地獄の暴君”へと変える。キャラクターの体型も同様であるゲームスタート時はただの長身の痩せた青年だったのが、徐々に身体に厚みを持たせていくというこだわりようである。


 □□□


 その真は、ゲームをプレイしている最中に突然暗闇に包まれてしまった。

 気がつくと真は横たわって目を閉じていた。

 どうやら自分はゲームをプレイしながら眠ってしまったようだと思うと真の耳に声が聞こえてきた。


「目覚めよ。早乙女真、いや“地獄の暴君”デストロイ早乙女よ」


 その声に反応して真は目を開いてから身を起こして辺りを見回した。

 周囲は柔らかい光に満ちていて何もない。真はこのような場所に見覚えがない。


「目が覚めたかデストロイ早乙女よ」


 立ち上がった真の目の前には一人の男性が立っていた。


「あなたは誰ですか?」

 真は混乱しそうな状況に対して、努めて冷静さを保つようにして男性に尋ねた。


「私は神だ」


 そう言われて真は改めて目の前の男性の姿を眺めた。


 ロマンスグレーの髪に立派な口髭、見覚えのある顔つきは西洋人のようで、鋭い目付きをしている。

 長身で筋肉に覆われた均整のとれた体つき、身に付けているのは黒いショートタイツとリングシューズのみ。

 両手を腰に当てて胸を張りポーズを取っている。


「あなたが神……、ってカール・ゴッチじゃねーか!」

 真は全力でツッコんだ。

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