魔王の目覚め
「この僕が魔王…」
そばにいる女性の言葉を上手く呑み込めず、呆然とする。
「えぇ、そうです。貴方様が魔王様です。」
ただ単に事実として言葉を紡ぐその女性は跪き僕を敬う。
「僕はさっきまで勇者として魔王と戦っていたはず、そして魔王の呪いで死んだ…」
自分の中で理解していることだけを呟く。
「いいえ、さっきまでという事は無いです。前回の魔王様が亡くなってもう10年経つのですから。」
跪いていた女性は立ち上がり触れられる距離まで近づく。
「今回は早いお目覚めで嬉しいです。ですが、早すぎる影響か記憶に混濁が見られますね。」
女性は両手で僕の顔を優しく包む。
触れた手から光が溢れている様子から何かしらの魔法を使っているようだった。
「特に身体に問題は無さそうですね。時間が経てば記憶も落ち着くことでしょう。」
女性は触れていた手を離しどこかへ歩いていく。
「どこへ行くんです?」
何も分からない状況で唯一理解をしてそうな女性が離れていく姿を見て不安になり、つい声をかけてしまう。
「魔王様はお目覚めになられたばかりで衣類を来ておられませんので、持ってこようと思いまして。」
そう言われて体を見ると人のような形ではあるが全身が黒く染まっていた。
更に体を確認すると背中には飛べそうな羽が生えており、意識すると動かせるようだった。
手はよく見ると爪が鋭く伸びており、顔を触ると頭に先程の女性と同じような角が生えていた。
「こんな姿…僕が魔王…」
幼い頃から勇者として活動していたのに急に魔王と言われても何も信じられない状態だった。
呆然と立ち尽くしていると先程の女性が服を持って帰ってきていた。
「魔王様、こちらをどうぞ。」
手渡された服はシャツとズボンだけで下着といったものはなかった。
おもむろにその服を着てみるとサイズがちゃんと魔王用に作られており、ピッタリだった。
背中の羽の部分も穴が空いており問題なく着れた。
「流石魔王様お似合いです。」
女性はとびきりの笑顔を向け魔王の姿に感激している。
「ありがとう、そういえば君の名前は?」
褒められててれながらもそもそも名前も知らなかったと思い出し女性の名前を聞いてみた。
「? 魔王様であれば蘇った時に私の名前は知っているはずなのですが、ここでも記憶の混濁が影響してるみたいですね。」
不思議な顔をしながら仕方ないかと言った感じで教えてくれる。
「私はアリサです。改めてよろしくお願いいたします。」
名を名乗り深々と綺麗なお辞儀をするアリサの姿に感銘を受けた。
魔物とか関係なく言葉が通じるものは素敵な存在なのだと理解する。
「アリサ、こちらこそよろしく。ちなみに僕の名前は知っているかな?」
なんて名乗ればいいのか分からない魔王としての名前を聞いてみたらすんなり教えてくれた。
「魔王様の名前ですか?それはもちろんこの世界の王となる方ですからもちろん知っております。貴方様はユーリ・ノヴァクです。」
この名前に聞き覚えがあるようなないような不思議な感じになったがとにかくその名前を飲み込む。
「ユーリ・ノヴァク…」
魔王との戦いに勝ったが呪いにより亡くなった勇者がいきなり魔王として生き返ったかと思うと何をどうして良いのか分からないけれど、ここはアリサに色々確認することにした。