0章 最後の時
魔王との戦い、勇者は最後の力を振り絞りその剣を魔王に突き立てた。
その瞬間、魔王は断末魔をあげ苦しみながら倒れ込んだ。
戦いは終わった。
4人のメインパーティと1人の控えは共にその瞬間を喜んだ。
しかし、勇者の様子はおかしかった。
まるで命が消えゆくような儚い雰囲気が漂っていた。
「やっぱりこうなったか。」
勇者は諦めたようにつぶやく。
「ロイ、僕のそばに来てくれないか?」
パーティの中でただ1人控えだったその青年は勇者の側へ行く。
「どうしたんだい、戦いに疲れて肩を貸してくれってことかな?」
「君に渡すものがある。」
そう言って勇者はロイの手を握り、精一杯勇者の力を込めた。
ロイの手には勇者の紋章が移っていた、勇者の証で世界にただ1人しか現れない紋章だ。
ロイは分かっていなかった、何故これが自分の手にあるのか。
不思議に思っているロイを尻目に勇者は残りのメンバーに声をかける。
「スライド、今までありがとう、戦士として誰よりも頼りになる最良の友だったよ。アーミ、王妃である君が魔法使いとして共に来てくれていつだって助かった、スライドと仲良くね。そしてレイ、僧侶の君が後ろにいてくれたからどんなときも心強かったよ、ありがとう、そして幸せになってね。最後にロイ、君には僕の代わりに勇者としてこれからの世界を守って欲しいんだ、君ならきっと出来るから、僕からの最後のお願いだ。」
そう言って勇者はその場に倒れ込む。
勇者は知っていた。
魔王にトドメを刺したものはその呪いにより命を落とすと、事前に女神から話を聞いていたのだ。
その事実を隠したまま勇者は見事に魔王を討ち取りそしてその命が消えようとしていた。
もう目もほとんど見えず、耳もよく聞こえなくなっていた。
4人は精一杯勇者に呼びかける、しかしその声はもう届かない。
魔王が死んだことで魔王城が崩れようとしている。
死んだ勇者と最後まで一緒にいようとするレイを無理にでも引き離し、4人はアーミの魔法により魔王城から抜け出した。
気配で4人が出て行ったことを感じ取った勇者は笑顔でその生涯を終えた。
魔王を討ち取った歴代最強の勇者の物語はここで幕を閉じた。
・・・
次に気がついた時には違和感を覚えた。
勇者として死んだはずなのに何故かその時の記憶はあるし、身体も普通に動かせる。
現状を把握出来ないまま辺りを見渡すとどこか見覚えのある景色だった。
「お目覚めですか、今の気分はいかがですか?」
すぐ横から声が聞こえた。
横を見ると美人な女性が立っていた。
ただし、角は2本頭から生えているし、よく見ると尻尾も出ている。
口には牙があり、まるで人間とは思えないその女性の次の一言で勇者だった人間は今までにないほど驚き、そして狼狽した。
「再び目覚めて頂けて良かったです、魔王様」
勇者だった人間は宿敵である魔王へとその姿を変えてしまっていた。