01.
乃木坂46時間TV観てます。
大都市パラデュンバロン。
九条士郎は今日も就活に精を入れていた。
「また、落ちた」
目の前に映し出されたディスプレイの不採用という文字に目を向ける。
30社目の就活の不採用が確定した瞬間である。
異世界に転生された九条は、嘘の履歴書で就活する他なかったのだ。ボロが出てしまうのは当然のことだった。
異世界転生される前はごく普通の高校生だった。
就活という鎖に縛られることなく生活していた当時に戻りたいという感情が脳裏をよぎる。
異世界転生されて1ヶ月。九条はバイトで生計を立てている。
「また、落ちたんでしょ」
アイリッシュに当然のことのように言われる。
肩にかかるくらいの艶やかな白銀の髪。
澄んだ青い瞳。
万人受けの美少女だ。
「高卒認定も貰えてない俺に与える仕事はないってさ」
この会話も何回したことか……
ーーーー
バイトも終わり、辺りも暗くなっている。
アイリッシュとも別れ自宅へ向かう。
眠らない都市パラデュンバロン。
ここオフィス街はビルや街灯によって橙色に染められている。
人も車の通りも、こころなしか昼時より多い気がする。
ただ、
ゥウウウウウゥゥゥ…………!
パトカーの紅くけたたましいサイレン音が橙色を切り裂いていく。
大都市パラデュンバロンは犯罪が多い。
この光景も見慣れたものだ。
「世知辛い世界だねぇ」
先程買ったコーヒーを飲みながら、そう愚痴る。
少し歩き、人気の少ない路地に入る。帰宅時はいつもここを通る。
「はぁはぁ、」
荒い呼吸の音が聞こえる。
音の方に目を向ける。
目線の先にはボサボサ頭で黒スーツの男が壁にもたれかかっている。
目が合う。足音でこちらに気づいたようだ。
「こんばんはー」
引き攣った笑顔で挨拶をしてみる。
ふいに男が胸のホルスターから拳銃を取り出す。
「僕は一般人ですよ。通行人ですよ」
必死のアピールをする。
必死の抵抗も虚しく男が銃口を向ける。
そして……
……バァン……
銃声が重く響く。
バタン……
倒れたのは俺ではなく、相手の男だった。
「あ、……あれ?」
自分の身体をみる。どこも怪我をしていない。
確かに銃声も聞こえた。
何故だ?
倒れている男のそばに近寄る。
どうやら気絶しているようだ。
ーーーー
「なるほど……状況は理解できました」
大都市パラデュンバロンには国家の秩序、平和を維持する責任を課された機関が存在する。
大都市情報機関「Metropolis intelligence agencies 」
通称【MIA】
今、俺はMIAで事情聴取を受けている。
さっき起こった現状を理解してくれるとは思っていなかったが、意外と理解が良いようだ。
「少し待っててもらえますか?」
そう言って席を立つ。
5分ほど経っただろうか……
さっきの人
ではなく、中年のおじさんが部屋に入ってくる。
「事情は聞かせてもらった。落ち着いて聞いてほしい」
ーーえ?
耳を疑った。
俺が能力者?
中年のおじさんはそう言った。
「倒れた男は我々が追っていた強盗犯だ。男を附属病院で検査をおこなったところ身体中に電流を帯びていた」
そう言いながらこちらをひどく神妙な顔つきで見つめる。
「いいか? 君はこれから国家所属の組織の一員になってほしい」