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1章その1

タイトル詐欺です。狐はこの章には全く登場しません。

 僕は最上千鶴。学業も運動も平平凡凡な中学三年生だ。所属は帰宅部で、友達と呼べる人はそこまでいない。やっぱり彼女は今までにいたことないし。

はずだった。大変だ。僕の一生が大きく、変わった。

全く想像もしていない奇怪な日常生活の始まりだった。


 話をする前に、ここで僕について説明しよう。小学校の時そこそこ成績が良かったので私立の中学校に通っている。私立天草学園という学校だ。天草、と言ってもキリスト教の学園ではないぞ?創始者が天草ってだけだから勘違いするなよ?

 友達は片手で数えられる程度。男子でよくつるんでいるのは明るく、常にクラスの中で中立を保っている幼馴染の椎橋天音。天音と僕はずっと仲がいい。天音なんて、女子みたいな名前だが本人は気に入っている。

 うん、それくらいだ。女子の友達はゼロで、同じグループになった人と少し話すくらいだ。授業では指名されれば答える、テストの成績は学年350人中40位前後、クラスにもいるだろ?そういうやつ。

その中の一人だ。

そんな風な生徒です。

 

話を戻そう。


 「奇怪な日常生活の始まりだった。」

と、中二病が混ざった僕の痛い一文について少し語ってみよう。

 あの日は七月にしては暑く、


「プール日和だ、楽しみだろ?」


と、担任の体育教師が語っていた日だった。廊下に出るのも暑くて嫌になるぐらい、蒸し暑かった。そんな日は教室でじっと本を読んだり、話すくらいの友達と雑談したりするのがベストだ。または天音と話したり、な。

 だがその日はそういうわけにはいかなかった。なぜかというと、僕は僕らしく、図書委員を務めていて、今日はカウンター当番の日だった。重い腰を持ち上げ教室を出て、廊下を歩いた。

 その時だった。

 通りかかった階段を多分駆け上がってきて走っていた女子生徒と、運悪く衝突してしまった。

 

「いったあ…今日は最悪な日だなあ。あっ、ごめんなさい!怪我はありませんか?」


 起き上がって女子生徒は僕にそう言った。明るい口調に快活な笑顔、黒髪ロングヘアーを一つ結びにしていて、特徴的なのは丸眼鏡。そうだ、ハリーポッターなんて呼ばれていたっけな。ああ、思い出した。同じクラスの七瀬紬さん。学力は、そう、一位だ。運動もできて、毎回リレー選手になっている。


 「ああ、大丈夫だよ。それより君は大丈夫なの?」


 僕はそう言った。大丈夫、というのには二つ意味がある。一つはもちろん怪我についてだ。紳士だね。もう一つは当たったときに違和感をおぼえたことさ。


 「私は大丈夫だけど…」


彼女はそう言って言葉を詰まらせた。そして、あちゃーと軽く頬を搔いてこう言った。


「今日の放課後、時間ある?」


なぜそんなことを?別に僕の心の声がダダ漏れだったわけではなさそうだが。可愛いかもしれないとか僕はそんな風に言葉にしたわけではないし、彼女が僕に好意を持っていたとは到底考えられない。けど、少しだけ嬉しかったので何か力になれることがあれば、と思い、


 「あいてるよ。それじゃ、僕は仕事があるから。」


と、返事をして図書室に向かった。

 廊下の熱気が僕の熱と混ざり、さらに暑さを増した。


五、六限もそれとなく(と思いたいが天音によるといつもより上機嫌で笑顔だったらしい)授業を受けて、とうとう放課後になってしまった。案の定、七瀬さんは僕の席に来た。少しギャラリーが騒がしいがいいだろう。いや、よくないんだけどね?


 「ここじゃ話しずらいからさ、ちょっと先の公園でアイスでも食べながら話さない?」


彼女は全く気にもしない、と思っていたので少しだけびっくりした。


 「公園って、小学生かよ…。公園で話すなら駅前のカフェにでも行って話そう。奢るよ。」


 まるで漫画のデートみたいだなあと思いつつそういった。浮かれてる?初めてだから許してくれ…。


 「小学生みたい?へへ、なんか照れるなあ」


 「褒めてないからな!?」


元々僕はツッコミ気質だから反射的にそう言ってしまった。結果的にはよかったのだが。


 「最上君面白いね!!ますます話したくなったよ!さ、いこ!!」


 半ば強引に連れ去られた。外野、すげーうるさいな。やっぱり普段そこまで仲良さそうにしていない人たちが仲良くしてたらびっくりするもんなんだなあ。

 カフェについて、真っ先に彼女は期間限定のホイップがたっぷり乗ったドリンクをスマホの画面に出して僕に突き出してきた。


 「奢ってくれるんだよね?」


 にたあ、と効果音が付きそうなくらい悪そうに、笑いながら言った。


 「もちろん、嘘はつかないよ。それでいいのね?おっけ、先に座ってていいよ。」


僕は頼まれたドリンクとコーヒーとワッフルを買って席に着いた。


 「さて。私が最上君を呼び出した理由はね。」


いきなり本題を話し始めた。まあ、手っ取り早くてこちらは安心だ。


 「最上君さ、ぶつかったときに違和感なかった?というか、あったよね。」


いつも見る七瀬さんの表情から一変、少し真剣な表情になった。


 「ああ、思ったよ。言っていいか?」


 「どうぞ、お願いします。」


 「お前さ、いつからそんなに病んでしまったんだ?」


 「は?」


ああ、遠回しに言い過ぎた。軽くキレられた。


 「いや、そのね。ぶつかったときにかなり軽かったのと、長袖の下に見えた入れ墨みたいなのと、一瞬、頭が痛くなったんだけど、まあそれは普通に当たっただけだろう。」


 「それが聞きたかったのさ。今から私の言うこと信じてくれる?」


 「内容による。宇宙人じゃない限り信用する」


 やっぱり、勘違いじゃなかったのか。気になるが信じてくれる?って相当のオカルトじみた話を聞かされる予感がぷんぷんする。


 「宇宙人だったら信用してくれないのね…。実はね、強制的に契約をされてしまったのですよ。」


 「強制的な、契約。」


僕は彼女の言葉をなぞるようにそう言った。


 「えっと、それは詐欺師だったり、変なセールスだったりするのかな?それなら相談に乗れなくもないけど…。」


 「いや、契約してきたのは人間じゃなくて、人間の形をした化け物だったの。絶対。」


どうやら僕はとんでもないことを聞いてしまったみたいだ。確かにこれはにわかには信じがたい話だ。


 「まだ、親にもいってないんだけどね。あんまり人にぶつかったり触れないようにしてきたんだけど、まさか最上君と当たってしまうとは思いもしなかったよ。」


 「これは信じろ、と言われても難しいな。今の七瀬さんの状態とか、その時のこととか、化け物について詳しく教えてくれるかな。」


 「そ、そんなに深く関わるの?大丈夫?狙われたりしないかな?解決というより、話聞いてくれるぐらいでよかったんだけどなあ。」


 「それについては大丈夫だ。」


なぜかって?前書きの平平凡凡を取り消さなきゃいけないかも、いや、消さなきゃいけないか。この話を聞いたとき、直感的に化け物系だなって、思ったよ。僕も“似た体験”をしていて、“似た状態”だからな。まあそれは、後々話すとしよう。まずは目の前の七瀬さんの話だ。


 「始業式の日の夜、そうね、八時くらいだったかな。松永塾からの帰り道に、大きな本屋さんがあるじゃない?そこで少し受験用のワークぐらい買ってみようかなって、足を運ぶ途中に起こったの。

 

「普通の住宅街を一人で歩いていたんだけどね、あ、猫もいたわね。急に街灯が消えたの。私に見える光が全部なくなったの。おかしい、と思った時だった。今まで人が一人もいなかったのに、私の目の前には背の高い男の人が立っていた。逃げようとしたんだけど身動きが取れなくなって捕まってしまってね。それでその人は言ったの。


『願いを一つ叶えてやろう』


 馬鹿げてるよね!捕まえて願いを一つ叶えてやろうだなんてはた迷惑だわ!!」


 彼女は持っていたプラスチック製のカップを、テーブルに勢いよく置いた。


 「『今の願いはただ一つ、あなたから逃げることよ』

って言ったの。そしたら何が起こったと思う?


『あっ、もうあなたの願いは叶えられそうですね。それではこちらのお仕事料として、代償にあなたの体重の半分をいただき、不利になる能力とそのしるしの刻印を刻ませていただきます。』


「おかしいよね、私の願いは叶えられてないし、体重の半分って何だし、刻印とか意味が分からないし、おまけに不利になる能力って、どこがどう不利なのよって、問い詰めようとしたの。けど、その声は届かなかった。なんでかっていうとね、その男の人が人間、みたいなのは変わらなかったんだけど、急に目が赤くなって、八重歯が鋭くなって、とても怖かったから。なんとか怖さを振り切って言おうとしたときにはもう明るくなってて、姿は見えなくなっていたの。


「で、急いでかえって体重測ったらあらびっくり、元の体重のぴったり2分の1。お母さんに言おうとしたんだけど、お母さんは口を開いていないのに声が聞こえるのね。おかしいよね、で、ちゃんと内容を聞いたんだよ。そしたら、ずいぶんと仕事に行き詰ってるみたいで、別れたお父さんに頼るかどうかを悩んでいたみたいなの。私の体重なんかはほっておいて、お母さんに聞いたの。


『大丈夫?』

って。何が起こったと思う?そこで初めて気が付いたよ、自分が異端になっているってことがね。話しかけられて私の存在を確認したお母さんは私の目を見て座っていた椅子から落ちたよ。


 目が赤い、大丈夫か、ってね。そう言葉を発した。でもそれは耳からの情報。頭に流れてきたお母さんの声は怖い、恐ろしい、こんなの娘じゃない、有り得ない、恐い、なんでこんな風になったんだろう、なんで私をこんなに怯えさせるんだ、一度死ねばいいのに。今でもはっきり覚えてるよ。あれがお母さんの頭の中だってことをそこで理解したんだ。で、聞いてしまった。本音を。お母さんの本心を。何が願いを叶えただ、一方的に悪くなっているだけじゃないかって憤りを覚えたね、その時。ずっと赤色なのはこまるから今は黒のカラコン入れてるんだ。」


 七瀬さんはそう言って窓のほうをふっと見た。その目は何かに取り憑かれたように光のない目だった。


 「なるほど。話はちゃんとメモしておいたよ。安心して。僕は君の敵じゃないし、僕は君の話を信じる。そして、絶対に助けるから。」


絶対なんてないことわかっていたが言葉が先に出てしまった。


 「ありがとう。じゃあこれからよろしくね。」


駅まで七瀬さんを送っていった。この時間には僕たちの同級生はもういないみたいだったから少し心配だったけれど、特に何も異常なし。よかったよかった。


 「七瀬さん、っていうのみんなの前の時だけでいいよ。二人のときは下の名前で呼んで。」


なんてタイトルの恋愛マンガのセリフなんだろう。恋人同士の会話だろ、これ。


 「どこの漫画からの出典だ…。学校でもまた話そう。紬。」


 「あっ、名前知ってたんだ。まあ同じクラスだしね。あ、あとこの話誰にも内緒だよ?二人だけの秘密、だよ!千鶴君!」


 「ああ、わかってるよ。」

そうして僕ら二人は別れた。彼女が視界からいなくなるまでずっと目で追いかけていた。これが恋だというのなら、どうして今、彼女の危機を相談されただけで、こんなにも簡単に落ちてしまうのだろうか。



狐は次出ます。ロリババアだよ。

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