第4話 とんでもない謁見
何時もなら目を覚ますとリュートは朝食をとり父の書籍に入り浸り好きなだけ本を読んで過ごすという生活をしているのだが今日はご近所の付き合いという事で母リーネと一緒に近くのお家にお邪魔する事になっていた。
なので今日は昨日、リーネが用意した服を着て食卓へと向かう。
「おはよう」
「おはよう、リューちゃん。似合ってるわ」
「えへへ、恥ずかしいよ。お母さんも綺麗だよ」
「あら、ありがとうリューちゃん」
リュートは母親に褒められた照れくささを隠すように人差指で鼻の下をさすっている所、外からお呼び出しの声がかかったのでリーネに手を握られ外へ出た。すると立派な馬車が目の前にあり馬車の運転手であろう人が気をつけをした姿勢で待っていた。
「クロノス様、お迎えにあがりました。」
「あら、随分と早いわね」
「時間は早いとは思ったのですがあの方を待たせる訳にはいかないと思いましたので」
「それもそうね。ではいきましょうか。リューちゃん気をつけて乗ってね」
「うん、大丈夫だよ」
リーネとリュートが馬車に乗り込んだ事を確認した運転手はドアを丁寧に閉め馬車をゆっくりと走らせた。書籍によると馬車などの高級な乗り物はレンタルもしくは一部の大貴族しか持ち合わせていないものでありクロノス家にも当然そんなものはなかったのでリュートは馬車の中から見える景色に少し興奮していた。
「おおぉすげーーー!お母さんあの丘の上にある立派なお城ってどんな人が住んでるのかな?」
「ふふふ、今に分かるわよ」
「へぇーそうなんだぁ。あのお城には王様がいるのかなぁ」
リュートはリーネの会話をぼんやりとしか聞いていなかったが向かっている先がまさかそこであるとは思ってもいないため、あまり深く考えていなかった。しかし次第にあのお城の近づくにつれリュートも流石に気付いたようで驚きを隠せないでいた。
「お母さん!この馬車どんどんあのお城に近づいてるよ?」
「そうよ、今日向かうのはあのお城なのよ」
「ええええぇええええぇーーーーー!!」
会話の一部始終を聞いていた馬車の運転手は堪え切れず笑い出してしまった。
「ははは、坊っちゃんは感情豊かですねぇ。久しぶりに面白いお客さんを乗せられましたよ」
「だって僕、今日初めてあそこに向かってるって知ったんだよ?僕にだって心構えが必要だよ」
「ふふ、そうですか。坊っちゃんは立派な男性となるでしょうな」
「ええ、そうよリューちゃんはこんな可愛くてもいずれは格好よくなるんだから」
そういってリーネに強く抱きしめられたリュートは両手をばたつかせて息が出来ない事をアピールした。そうこうしている間にお城の中へと馬車は進んでいき入口の所で馬車は止まった。リュートはピョンと馬車から飛び降りると城の大きさに圧倒されていた。西洋風の赤い屋根に真っ白な壁、ところどころに穴が開いておりそこから大砲がひょっこりと顔を覗かせている。また屋上のところどころに立ててある風に靡く旗も更に見る者を圧巻した。しばらく立ち尽くしていたリュートとリーネの元に1人の軽装備の鎧を着込んだ兵士が現れた。
「リーネ様でよろしいでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「会食のご用意ができましたのでどうぞこちらへ」
兵士がそういうと城の奥へと入っていくのでリーネとリュートは兵士についていった。中に入るとすぐに大きな階段が左右にあり会食は右の階段を上がった2階の謁見の間とされる場所で会食が開かれる事となっていた。部屋に入ると円卓の上には見たこともないようなご馳走が並びテーブルクロスから椅子まで飾られている装飾品1つとっても想像もできない位高い物なのだろうという事はリュートにも予想できた。
「こちらとなりますのでお好きな席に座ってお待ちください」
「今日は私達以外は呼ばれていないのかしら?」
「ええ、今回は何でもリーネ様だけに伝えたい事があるようでして」
「そう、案内ありがとう。リューちゃん座りましょう」
「はい、兵士さんありがとうね」
「立派なお子さんをお持ちですね。それでは失礼します」
リーネとリュートは適当な所に座って待つ事にした。リーネは何度か来た事があるようで落ち着いた様子であったがリュートは内心、心臓がバクバクしていた。そこへ遅れてこの城の主達が円卓へと集まってきた。
「おーリーネ、久しいな。遅れてすまなかったな。国政の仕事が思ったより多くてな」
ぞろぞろと集まってきた主達の中から温厚な顔をした白い顎鬚を生やしたおじいさんがこちらに向かって手を振ってきた。
「いいえ、お気になさらず。まずは自己紹介しますわね。これは私の息子のリュートです」
名前を呼ばれたリュートはドキッとして椅子から急いで降りると気をつけの姿勢をしてお辞儀をした。
「ほぉこれは立派なお辞儀だ。よく教育しているのだなリーネは」
「私はそんなに教えてはないのよ。この子ったらお父さんに教わったのかしら?」
気前よく笑うおじいさんにリュートは頭をなでられた。
「では私のほうも自己紹介をしなくてはな。私はこの国の王アレク・グライスじゃ。」
「……やっぱりここは国王様のお城だったんだ」
「ふふふ、流石のリューちゃんもびっくりしたようね」
それはそうだよと慌てふためき両手をブンブン振るリュートの様子を笑いながら見ている人達から少し離れた場所でその様子を見ている者がいた。
リュートの容姿はサラサラの髪に大きなまつ毛、高い鼻とはいっても顔全体のバランスが取れており道行く人にこの子は将来イケメンになるぞと太鼓判をもらうほど綺麗な顔立ちをしておりここにまたその容姿に魅了されたものがいた。
「ねぇ、あの子誰?おじいちゃんの知り合い?」
「多分ね、あの子メアがもーらう」
「あっずるい!あの子はミアが先に見つけた」
「あんた妹なんだから自重しなさい」
「ほんのちょっと早く産まれたからってお姉ちゃん面しないでよ」
喧嘩をしている2人に気付いた2人の父親、現王子リーグ・グライスが2人を脇に抱えて食卓の中へと連れてきた。
「一体2人は何で喧嘩をしてるんだ?」
2人は一瞬リュートを見た後、お互い目を合わせるとそっぽを向いた。それを見て困ったリーグは苦笑しながら謝った。
「客人が来ているというのにすみません。お恥ずかしい限りで」
「いいのよ、まだリュートと同じ3歳でしょ?大人のようには振舞えないわ」
「そう言っていただけると助かります。せっかくですからまずはお食事にしましょうか」
――食事の間
リュートはどれも食べたことのない料理で興奮気味にバクついていた。食事を1時間ほど取った所で本題といったところでリーネに国王から話が出る。
「リーネよ、ここに来てもらった理由じゃがリーグの妻ガーネットの症状を見てもらいたいのだが」
「ええ、構いませんよ。食事はまた後で楽しませてもらうとして先に本題を片づけましょうか」
「かたじけない」
「ありがとうございます」
「リューちゃん、お勉強を兼ねて私についてきて」
リュートは返事をする代わりにコクコクと何度も頷くと口にあるものを全て飲み込むと国王とともに歩いていくリーネの後へと続いた。別の部屋へと移動していく3人の後ろ姿を心配そうにミアとメアはずっと目で追いかけていた。リーグは2人の頭に手をおき優しく撫でた。
「今まで黙っていてごめんよ」
「お母さん病気なの?」
「よくなるよね?」
「ああ、大丈夫だ。何せ彼女はこの国で1番の魔法使いだからね」