第1話 ~プロローグ ~
名を黒崎 琉人と言い地方の私立大学を卒業後、そのまま地元の中小企業へと就職し現在システム部として働いている29歳サラリーマンである。
「黒崎君、困るよ!ここ、ここ。ここはこうじゃないっていってるだろ?何回言ったら分かるの?」
今日も早速、部長の田中太からお叱りを頂戴していた。いつもの黒崎であれば平謝りをしてその場をやり過ごすのだが今日は違った。
「しかし、部長。コーディング規約には極力IF文でのループは避けると記載されています。従ってforeachにするのが適切であるかと思われますが……」
反論する黒崎は田中部長の怒りを更に買う羽目となる。
「何時から君は上司に口答え出来る程、偉くなったんだ?何度も言ってるだろう?規約よりも僕を規約と考えて。僕が分からない書き方をするんじゃないよ!保守が大変だろう?何かあった時デバッグ出来ないんじゃ困るんだよ」
(またやってるよ部長。あいつのせいで受注増えないのに)
(黒崎君、可哀想。この案件も彼の信頼でとってきたプロジェクトなのに)
社にいる者は黒崎に対して心の中で同情していた。同業者10人が見て10人が黒崎のコーディングは無駄がなく綺麗な書き方をすると認めるであろうが田中部長はそうではなかった。田中部長は自分が理解できない書き方を極端に嫌う為、黒崎のコーディングは田中部長の考えとは相性が悪すぎた。しかもあろうことかこのプロジェクトマネージャーに部長が入る事になってしまった。
黒崎は軽くため息をつくと何か吹っ切れたように言葉を発する。
「俺、本日をもってここ来るの辞めますわ。今日は有休使って休みます。退職届は明日出しますから」
耐えきれなくなった黒崎はそういうとデスクの横にかけてある鞄を持ち早々に会社を立ち去ろうと出口へと向かった。
「……ふっふざけるな!許さんぞ!」
田中部長も黒崎が抜ける事は会社的に非常に痛い事はわかっていたので黒崎がいなくなるという現状に不安と怒りが同時にこみ上げてきた。感情のコントロールができなくなった田中部長は黒崎の肩を掴むと思いっきり手前に引っ張った。
その際にバランスを崩した黒崎は運悪くデスクの角に頭をぶつけてしまいそのまま頭から血を流し倒れこんだ。
慌てて駆け寄った同僚は黒崎の方へとかけより黒崎の安否を確認する。
「おい!大丈夫か黒崎!意識がない救急車だ!」
周囲が騒いでいる声だけは黒崎の耳に届く。
(あぁ腕が上がらないや。これはダメかな。くそ、こんな事になるんなら一発位、田中をぶん殴っておけばよかった)
黒崎は自身の体が動かせない状況、騒ぎ立てる周囲の状況から自分は死んでしまうんだなと覚悟をした所で意識がフェードアウトした。