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モブの極み

モブの極み

作者: すみっこ

モブみたいだね、と笑顔で言われた事のある人!はーい…

モブ、という言葉はご存知だろか。



言ってみるとモブっていうのは、漫画とかアニメとかの、主人公やサブキャラ

以外の奴らだ。

ザワザワしたり陰口叩いたり、そういう役目を受け持っている。

吹き出しなんて貰えないし、酷い時には顔が描かれないなんて あるあるだ。


そんな私、C乃は完全なるモブ。

名前だって一応あるけど、AでもなくC。極めてるわコレ。


え?見た目?

期待しない方が良いよ、美形とかじゃないから。

言ってみれば中の中。髪型も黒のセミロングとありきたりである。


で、話に戻るけど

「悠斗は私の事、どう思ってるの?!」


…………。

気にしない、気にしないよ。

今は少女漫画『超平凡に恋したいっ!』に出演中。

タイトルの割にはヒロイン超美人だしヒーローだってちょっと目つき悪いけど

なかなかじゃないかと思うし、全然平凡じゃないし、まあでもそれもまた別。

『辺りがザワザワし始めた。』

この一文に私らは命賭けてるんだからね、ザワザワしないとね、うん。


シーンで言うと、ヒーロー【悠斗】に告白して、仮付き合いをゲットできたものの

彼の煮え切らない態度にヒロインがついに答えを要求する、ってシーンだ。

ここ廊下なんだけど、彼女目立ちたがりなのだろうか?と思わざるを得ない。


「どう思ってるって……何が言いたいんだよ。」

「私の事好きなのかって事!」


ああ、良いよね君たちはカギカッコ貰えて。

これがあるのと無いのとじゃ声の通りが全然違うって事も多分知らないのだろう。

声が小さいキャラだって吹き出しさえあればそれはもうちゃんと聞こえてる

事になるのだ。モブからすれば喧嘩を売ってるような設定だろう。


でも確かこの後は、「じゃあどうすれば満足なんだ?」っていうヒーローの

問いかけに、ヒロインが「今ここで抱きしめて」って無茶振り言って、

向こう側の読者の言う“イイトコ”でこの回は終わる。

ああなんか気分悪い。早く帰りたい。早く。



「別にお前の事はどうも思ってねえよ。俺もう帰るわ。」



え?


ちょ、ちょーっとヒーローさん?プロット通り動かないと駄目じゃないですか。

ヒロインさんも唖然ですよ早く止めて!


他の人達モブが道をあけるために横に開き始めたので自分も慌てて

右に逸れる。

ヒーローさんはバッグを左肩に引っ提げて、右手をこちらに伸ばし、



パシッ

        はい?



待て待て待て待て待て!ヒーローさんっ?! 何で私の手掴んでるんですかっ

むしろナチュラルすぎて気付くの遅すぎたよコンチクショウッ!

ヒロインさん睨まないで!私ワルクナイヨッ!ホントダヨッ!


「あ~もう隣でボソボソうるせえな。もうちょっとハッキリしゃべれよ。」

モブだからカギカッコも吹き出しも貰えないんですよ?こちらからすると今

普通に叫んでました。

「ふ~ん……お前らも色々大変なんだな~」

おっ分かってくれましたか!嬉しいんですけどこの手離してー?


「それは無理。俺お前に興味あるから。」


ヒーローさん?私モブですよ?その好奇心はヒロインに向けてあげて?

ていうか、えっちょっと待ってこのまま私どこに連れて行かれるの?!

誰か助けてぇぇ~~っ!!


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


ヒーローさんの部屋に連れて行かれました。

ずーん………


「おいおい、何へこんでんだよ。」

………なんで此処に連れて来たんですか。

「だからお前に興味が湧いたって言っただろ。」

それでも!私モブだよっ?! そこらの景色と何も代わり映えしないのだよ?!


「じゃあ言うけど。」

グッと眉を潜めて顔を近づけてきた。

「お前、クラスメイトだよな?」

はい。一応は(他の作品も掛け持ちしてるから何とも言えないけどね)

「じゃあ、遥香(ヒロイン)が俺んトコ来た時に色々ツッコんでるのも、お前だろ?」

はい。………はい?



「この前遥香が俺の分の弁当を作ってきた時も『どんだけ貧乏に思われてるんだ』

って言ったり、体育も俺の目の前であいつが怪我したら『気を引くために転ぶとか

女子こわー…あ、私も女子か』なんて自分でツッコんだり、あとあの時も 」

うわああああああああああああああっ?!

なんで知ってるっていうか聞こえてるの?! モブの声は格別小さいのよ?!


「だって俺 地獄耳だし。もうそれ聞いた瞬間、俺がどんだけ笑うの我慢したか

お前知らないだろ。」

えっじゃあ何?! 少女漫画でよくある『無愛想な彼がようやく私に笑いかけて

くれた』っていうテンプレ展開、あれ全部もしかして………


「ああ、遥香にじゃなくて、全部お前の発言に笑ってた。」


どああああああああああっ?!

消してっ!その時のセーブデータ今すぐ消してぇぇぇぇっ!


「やー、だからどんな奴かと思ったらさ。やっぱ面白いわお前。」

いやいやいやいや!私なんかに構わずヒロインに構ってあげて下さいよ!

「………やっぱ聞こえづらいな、お前の声。」

話を聞きなさい!



「っていうか!貴方は少女漫画のヒーローなんですからちゃんとヒロインと……

______あれっ?!」

今までの人生の中で感じた事が無かった感覚にたじろぐ。

「ああ、やっと声が通るようになった。そうかこうすれば良かったのか。」

「えっえっえっえ?! な、何コレ……?!」


一音一音の声が部屋に響く。

嘘だ、だって。

私はモブの、モブの中でもモブの、C乃だよ?!


「ああ、お前C乃っていうんだ。珍しい名前だな。」

「それはモブ同士で呼び合う用の名前ですっ!実質名前は無いようなモンです!」

「そうか。じゃあ、C乃……志乃だな。」

「安直かっ?! 世界中の作品の志乃さんが迷惑するから止めなさいっ!」


バタバタと暴れる私を、軽~くヒーローさんが押さえつけた。

えっ確か【悠斗】って美術部員じゃなかったっけ?運動部じゃないよね。

すっごい力強いし正直痛い。


「お、おう悪ぃ……ちょっとイラッとしてさ。」

「それはこっちのセリフですよ?! 私は平穏にモブ人生を送りたかったのに

なんで貴方が乱入してくるんですか!」

「別に、お前とダチになりたかったからで……」

「そーゆーデレは遥香さんに回しなさい!ヒーローさんのばかっ!」

「ヒーローさんって何だよ……普通に悠斗って呼べっつうの。」


ちょっとだけ不機嫌になったので、とりあえず大人しくする事にした。


「………まあ、その。お前がモブの事ばっか五月蝿いからムカついただけで、

別に怒ってはないからな?」

「モブの事ばっかって…だって私モブですもん。」




「じゃ、お前本当に【モブ】って役が、好きでやってんのか?」

「!」




好き………では、無かった。

どんなに叫んでも私の声は主人公達には届かないし、噎び泣く人に容赦なく、

聞こえるように悪口を言うのは一番辛い。


モブは皆そうだ。自分の立場を僻んで、だからちょっとだけ歪んでる。


「_____やっぱ答えづらいか。」

「……ヒーローさんだって、主人公が嫌になる時があるでしょう?」

「ああ、そうだな。無条件にハプニングがやってきて、うんざりする。」


ちょっと苦笑いした。

二次元は何でも出来るだなんて思われがちだけど、多分、こういう事なのだろう。


「そろそろ6時か……送っていこうか?」

「いや、平気です。どうせ近所のマンションなので。」


モブっていうのは、主人公達が住んでいるアパートや町に住居を構えているものだ。

私みたいに、よく出る作品が決まってたらいいけど、漂流者なんて言われる

モブはあちこちの作品住居を転々と移動する。


「そうか。じゃあまた明日な。」

「…?」

「何不思議そうな顔してんだよ。明日も学校だろ?」

「………私、午前中はバトル漫画の仕事が入ってるので。」

「じゃあ午後だけでも来いよ。」


それじゃ、と目の前の玄関が閉められた。

オレンジの空を見上げて、あ、と声を発してみたらやっぱり響かない。


それでも良い。だって私は、モブのC……



『じゃあ、C乃……志乃だな。』

「っ!」



とくん、と初めて心臓が動いたような気がした。


「しの………」


すぅ、と息を吸って、一歩進む。

世界中のモブ達に、ざまぁみやがれと叫びたい最高の気分だった。



「悠斗ぉ~、なんで昨日は帰っちゃったの~?電話も出てくれないし~。」

次の日の昼休み。

懲りもせずこっちのクラスに来た遥香は、半分べそをかきながらそう言った。


「それもモブ子なんかお持ち帰りしちゃって!何?私よりあんなのが良いの?」

赤い糸を信じる彼女には、信じられない事なのだろう。

ちらっとだけ、大きな瞳に小さな炎を灯して俺の返事を待つ。

さん、にー、いち、


「そうだけど。」


あ、固まった。

「てかさぁ、実は俺 お前みたいな奴、あんまりタイプじゃないんだよな~」

「えっ」

「悪いけど、もう別れよ?一ヶ月楽しかったぜ。」



ひらひらと手を振って自分の席を立つ。

立ちすくんだ遥香を見ないようにして廊下を見渡すと、やっぱりいた。


「よっ志乃!なんだよプリント運びかぁ~?」

ヒーローさん、あのですね。その名前は此処では使わないで頂きたく…

っていうか話しかけちゃ駄目でしょう!モブは目立っちゃ駄目なんですよ!


相変わらず志乃の声は聞きにくい。

でもそれでも良いのかな、となんとなく思ったのだった。











「何よ、あの女ッ………!」



続編出しました。


感想待ってるですよ……?(チラッ

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― 新着の感想 ―
[良い点] モブ設定うまうま(笑) [一言] 続編…………!読みたいです!
[一言] モブが急に登場人物に見なされるようになるとかヒーロー何したw 好きですこういうストーリー。 続編、待ってるですよ……?(チラッ
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