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童話

長靴をはいた猫……猫に可愛さ以外期待しても無駄!

作者: 梨香

 裕福な粉屋が亡くなった。


 粉屋は3人の息子に、水車小屋、ロバ、猫を残した。


 長男は水車小屋、次男はロバを取り、三男のハンスには猫しか残されなかった。


「猫では役に立たないよ……」


 しっかり者の兄達と違いハンスは、顔は良いけどぼんやり者だった。


 猫はこのご主人では餌も当たらないのでは? と見捨てたくなったが、父親の粉屋には子猫の時に拾われた恩がある。


「ご主人様、私に長靴と麻袋を用意して下さい。

 猫を貰ったのがラッキーだったと思わせてあげます」


 ぼんやりしたハンスだが、もしやそれは『長靴をはいた猫』では! と喜んで、長靴と麻袋を用意した。


 長靴をはいた猫が、兎を取って麻袋に入れてお城に持って行き、カラバ公爵様からですと王様にプレゼントして、逆玉の輿に乗れると浮き浮きする。


「何を甘っちょろい事を考えているのですか?

 私は猫ですよ! そんな働き者ではありません。

 ほら! サッサと兎を狩って来なさい」


 そう言うと猫は日向で丸まって眠ってしまった。


 ハンスは物語と違うと愚痴りながら、肉体だけは鍛えていたので、どうにか兎を狩って麻袋に入れて戻った。


 ふぁ~ぁ! と伸びをした猫は、長靴をはいて、麻袋を担ぐとお城へ向かった。


「やったぁ! これでお姫様ゲット! 逆玉だよ~」


 浮き浮きと猫の帰りを待っていたハンスに、猫パンチする。


「ご主人様、そんなに上手く逆玉の輿になんか乗れませんよ!

 ちょっとは頭を使って下さい!

 兎を1羽貰ったぐらいで、王様が感謝するとでも……」


 毛繕いしながらの猫に叱られて、ハンスは森に兎を狩りに行く。


「ちょっとぉ~! いつになったら逆玉の輿に乗れるんだよ~」


 狩りを続けて半年が過ぎた頃、ぼんやりしたハンスも変だと、やっと気づいた。


「ご主人様、そんなに簡単に逆玉の輿なんか乗れませんよ。

 でも、ご主人様は父親が亡くなっても、ちゃんと食べていってるでは無いですか?」


 毎日、狩りに行っていたハンスはベテランの狩人になり、その獲物を猫がお城に売りに行って、小さな家の家賃が払えるようになっていた。


「でも、俺はお姫様と結婚したいんだ~」


 猫は食べれるだけで幸せだと感謝しないのかと呆れたが、やれやれと溜め息をついて、海に泳ぎに行くように勧める。


「やったぁ! 俺が溺れる振りをして、猫が王様とお姫様にカラバ公爵が泥棒に服を盗まれて、溺れてますと言いに行くんだね!

 あれ? 海じゃ無いだろ?」


 後頭部に猫キックを受けて、痛いなぁ! と頭をさする。


「何処の馬鹿な王様が、そんな間抜けをお姫様の婿に選ぶのですか?

 池じゃなくて、海で泳いで伊勢海老や鮑を取るのですよ!

 ご主人様ほど手のかかる人はいませんね~」


 そう言うと猫はまた寝てしまった。


「長靴をはいた猫の物語と違う気がする……」


 今度は毎日海で海女修行をさせられて、秋になって潜るもの辛くなってきた。


「猫や! そろそろ魔法使いの城を手に入れてくれよ~」


 夏の間に伊勢海老や鮑をたっぷり取り、産地直送で城に高値で買い取って貰って、結構楽な暮らしが送れているのに、全く感謝知らずのハンスに猫は呆れる。 


「ご主人様、何処の百姓がこの土地はカラバ公爵の物ですなんて嘘をわざわざ王様に言ってくれるのですか?

 それに猫に食べられる為にネズミに変身する馬鹿な魔法使いなんて、世界中探してもいませんよ。

 お城に住みたいなら、お姫様は諦めて下さい」


 ハンスは話が違うとは思ったが、お姫様を諦めて、お城に先ずは住ませて貰うことにする。


「お城に住めば、お姫様ゲットできるだろう」


 ほくほくして待っていたハンスを、猫は馬鹿者め! と見捨てたくなる。


「ご主人様、あちらのお城へ向かって下さい」


 猫に案内されて、ハンスは小綺麗なお城に着いた。


「小ぶりだけど、管理の行き届いた城だなぁ!

 猫や、ありがとう!」


 粉屋が亡くなって、初めてハンスから感謝の言葉を聞いた猫は、やれやれとお城の暖炉の前で眠りについた。


「まぁ、日に焼けたハンサムさんだこと!

 お名前は何て言うの?」


 城の女主人にベッドに連れ込まれて、ハンスはたっぷりと御奉仕させられる。


「猫や! 俺はホストじゃないよ」


 暖炉の前でぬくぬくしている猫にハンスは苦情を言う。


「じゃあ、お城から出ていけば?

 私はほとほと貴方の世話をするのに疲れましたよ。

 幸い、このお城の女主人様は猫好きですから、此処で飼って貰うことにします」


 真冬に暖かいお城から出て行く気持ちになれず、ハンスは女主人のツバメになった。


 女主人は亡くなった男爵からこのお城を遺されて、しっかりと管理していたが、寂しい日々をおくっていたので若いツバメをゲットできて満足する。


「ハンス、貴方は猫に何を期待していたの?」


 女主人にベッドに連れ込まれ、一仕事終えたハンスはぐったりとして答える。


「物語の『長靴をはいた猫』のように、俺を逆玉の輿に乗せてくれたら良いなぁと思ってたんだ……」


 女主人はお馬鹿さんね~と笑う。


「猫に可愛さ以外を求めるなんて……」


 ハンスにもベッドの上の御奉仕しか期待しない女主人に囲われて、結構幸せに暮らしました。



 勿論、長靴をはいた猫もお城で可愛い雌猫と幸せに暮らしましたとさ……


 

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[一言] >三男のハンスには猫しか残されなかった >ハンスは、顔は良いけどぼんやり者だった >肉体だけは鍛えていた この導入部、いいですね 今回短編作品ですが、長編小説も可能ですね >ハンスは女主人…
[一言] なんてシュールな!!ヾ(o´∀`o)ノ あくまで棚ぼた的幸運を狙おうとする主人に、猫パンチや猫キックを入れる猫ちゃんが、ものすごく可愛かったです!! 最後は本当にお城に?!と思ったら、オ…
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