雑談部の日常
「ねぇ睦月〜、これやろうよ!」
「あぁ?なんだそりゃ」
「これ?IFAって言うんだ〜…ほら、睦月の分」
入学してから、もう二ヶ月が経つ。仮入部も終わり、今俺は一つの部活への入部届けを持っている。
今からその部の部室に入り、この入部届けを出せば俺もあの部の一員だ。
「失礼しまーす…」
「ええい!呪文発動!【タンスの角に小指をぶつける】ッ!如月の幸福値に四百ダメージ!」
「ふ…甘いね!反撃呪文!【そこにまさかの半分出てる釘が!】ッ!睦月の幸福値に四百足す八百の千二百ダメージ!」
「ぐぅっ…!……まだだ…俺は、まだ負けてねぇ!」
「ハッ!残り五十の幸福値で一体何ができると言うんだい!?」
…なんか闇のゲームが始まってるんだけど…
「……何してるんですか」
「ん?ああ、皐月じゃねぇか」
「え?ああ、皐月くんじゃん。君もやるかい?最近本当に極一部でほんの少し話題のカードゲーム【一生分の不幸を貴方に】略してIFA」
「名前からして鬱ゲーってかなんか略がかっこいい!?てか知名度低っ!?」
「馬鹿め!隙を見せたな!俺はこれで勝利を掴む!祝福!【ズボンのポケットから五百円!】五十回復だ!」
「あ、それでも無理。反撃呪文【それ実は爆弾】百ダメージ」
「ぐわぁぁあ!!」
どうやら勝負の結果は付いたようだ。最後までカオスなゲームだった。
「うう…なんか地味な呪文で削り殺された…」
「年季が違うんだよ。3日の重みは伊達じゃない」
「いや3日は伊達でしょう……」
そんなツッコミを当然の如く無視する如月さんはそのままインスタントコーヒーを三つ入れた。
「ほい、皐月君」
「いや、俺コーヒー苦手ってここに来るたびに言ってますよね?聞いてましたか?」
「言ってないし聞いてないね!」
「言いましたよ!?聞いてないのはまあ百歩譲っていいとしてそこは否定しないでくださいよ!!」
「まぁまあ…コーヒーでも飲んで落ち着こうよ」
「落ち着けるか!」
「……そんなんどうでも良いんだよ。皐月、お前何の用だ?入部届けを出す以外の用なら帰れ。土に」
「俺殺されるの!?」
「ってことは入部届け以外の用なんだな?よし、ちょっと待ってろ…備品倉庫に良い断頭台があるんだ」
そのまま外に出て行こうとする睦月先輩を必死の思いで止め、その目の前に一枚の紙を突き出す。
「入部届け!入部届け持ってきましたから!ほら!」
「……っち」
「今舌打ちした!?」
「またまたぁ、嬉しいくせにねぇ?」
「如月!余計なこと言ってんじゃねぇよ!」
「おお怖い…如月君、入部してくれてありがとう。歓迎するよ」
「…ま、一応迎えてやるよ。ありがたく思え」
「全く、素直じゃないねぇ…これが噂のツンデレってやつかい痛い!」
俺が入る部活、それは「雑談部」。この部活は其の名のとおり、雑談をすることを主としている。部室は学校の四号館C区域四階資料室。多分だが、この学校で最も知名度の低い部活である。
「さぁて、それで、今日の議題だが…『この議題言うのって必要か?』だ。みんな、存分に議論してくれ」
「うん…そもそも議題言うのってこれが初めてだよね?」
「いやそこから!?」
「まあな…しかし、俺たちとしては…俺としては最初に議題とか言った方が外聞的にサマになると思うんだわ」
「いやまあ「雑談部」とか言ってる時点で外聞とか下の下…体力満タンの時に出てきちゃう時間経過で消える回復ハートくらいの価値しかないけどね」
「何気にひどいこと言いますね…ってか外聞の価値低っ!?」
「ふふ…いいね…皐月君のツッコミ…やっぱり雑談部にはこれが必要だよね…前は先輩が其の役をやってたからなぁ…この半年、ひたすらカオスに走っていく会話を続けるのは辛かったよ」
「ああ…容易に想像がつきますね」
「血反吐を吐くほどの苦行だったな、あれは」
「それは想像つきませんよ!?どんな会話してたんですか!」
「馬鹿野郎、如月なんかあまりの辛さに空中三回転バック宙しながら血を吐くほどの辛さだったんだぞ。思い出させんな」
「如月先輩に一体何が!?」
「あ…やばい、トラウマが復活してあの大空へと羽ばたきそう」
「だからあんたに一体何があったんだよ!」
そこで一息ついて、既に枯れつつある喉をコーヒーで癒す……あ、やっぱコーヒー嫌いだ、不味い。コーヒーで喉は癒せない。
「ちょっと購買で水買ってきます」
「ああ、それならここに皐月君用に水の買い置きがあるよ。そこの冷蔵庫」
「最初からそれ出しゃいいでしょうが!!なんで俺のために無駄にコーヒー入れたんですか!あんたの思考が時々理解できねぇわ!!」
「皐月…お前時々って事はほとんど理解できてるのか…すげえな…」
「ちょっと睦月〜、それは酷くない?」
「何が酷いんだよ。IFAなんて謎のゲーム仕入れてくる時点で結構おかしいぞ…俺がボードゲーム好きって知ってるだろ?」
「ああ、そうだったね。じゃあ今度はみんなでこっちやる?「人生ゲーム〜転落・地獄編〜」途中で通常の三倍ある借金手形がなくなる確率が95%を超えるという最凶にして最狂の人生ゲームだよ」
「うっわぁ………」
「おおぅ…ふ…」
其の人生ゲームのパッケージは、漆黒だった。艶消しの黒で塗られた表面に白い小さな文字で人生ゲーム、とだけ書かれている。
「なんか…負のオーラを放ってるような気がするぞ?」
「ああ…実はそれ曰く付きでさ、やった者は一週間以内に非業の死を遂げるらしいよ」
「誰がやるか!」
「絶対嫌ですよ!」
「まあまあ…みんなでやれば怖くない、ね?」
「怖いわ!怖いに決まってんだろ!」
「っていうかなんでこんなの持ってるんですか!!」
「いやぁ、うち実家がお寺でさ…本堂の奥にある隠し倉庫の中に注連縄と魔除けの札と厄除けの札とで完全梱包されてたものがあって…気になって全部はがしたらこれが出てきたんだ!」
「それ開けちゃダメなやつぅぅう!!!」
「あれだ!今すぐ燃やしてこい!今すぐ!」
「もう無理…だって、もうこの中にはいないもん」
「…………は?」
「…え?」
「今度は何に取り憑いたんだろうねぇ……って事でこれはもうただの激ムズ人生ゲームだから大丈夫だよ?」
「大丈夫じゃねぇよこのボケがぁぁあああ!!!」
「睦月先輩、取り敢えずお祓い行きましょう!」
………本当にこの部活でよかったのだろうか。不安だ…
「IFAには何も付いてませんよね?」
「さっきまではね?今は人生ゲームのがここに憑いてるよ」
「皐月!そいつ今すぐ燃やせ!」