七夕の幽霊と旧校舎
初投稿です。
みなさんは旧校舎を知っているだろうか?旧校舎と言えば怪談が有名だが、ここ、△県○×市にある七夕高校には旧校舎がある。ここの旧校舎も例によって幽霊がでるらしく、テンプレ通りに少女の霊がでるらしい。
僕は星見辰彦七夕高校に通っている2年生だ。
「よお、辰彦。夏休みになったことだし、今日は例の旧校舎に行くぞ〜」
そう言いながら近づいてきたのは笹川一馬。
オカルト好きの僕の友人だ。まぁ、僕はオカルトは信じない派なのだが。
「今年も行くのか?去年に行ったときはなんにも無かったじゃないか。」
「まぁそういうなよ!今年は圭太も一緒に行くし、何より明日は7月7日だ!なにかあるかもしれねぇぜ?」
圭太というのは三崎圭太。彼も僕たちの友人だ。ちなみにオカルトは好きらしい。
「行くのは構わないんだけど....七夕となんの関係があるんだ?僕には何の関係性もないと思うんだけど?」
僕が疑問に思ったことを聞くと、一馬はわかってないなぁ。といった感じで首を横に振り僕に言った。
「なんだ知らねぇのか。いいか?七夕ってのはな、もともとはお盆行事の一つだったんだぜ。んで、お盆といえば幽霊だ。だからお盆と関係のある七夕は幽霊が出やすいんじゃないかな、と俺は考えたわけだ。」
一馬の言いたいことはなんとなくだけどわかる。でも...
「.....一馬。それだいぶ無理がないか?言いたいことはわかるけど。」
「うるせぇ。こまけぇことはいいんだよ!とにかく!今日の夜の11時に校門前に集合な!圭太にはもう話してあるから。じゃあな!」
「え!?僕、まだ行くとは一言も言ってない....っていっちゃった..はぁ。しょうがないなぁ...」
今日ぐらいは付き合ってあげるかな。どうせ幽霊なんているわけないんだし。
時間は飛んで午後11時僕は校門前にいた。
ほどなくして圭太と一馬がきた。
「うし!全員来たな!それじゃあ行くぞ!」
と、一馬の号令で僕たちは旧校舎に入っていった。
「それで、一馬くん。まずはどこから探索するのかな?」
期待に満ちた表情で一馬に問うのは圭太だ。
「そうだな...まずは一階からだな!それでいいか?」
「わかった。今年こそは幽霊が出てくるといいね!」
「まったく...幽霊なんているわけが無いんだから期待するだけ無駄だと思うよ?」
「また辰彦くんはそういうこと言う...辰彦くんはロマンがないなぁ。[いるかもしれない]それがいいんじゃないか。」
そういうものなのか?僕にはイマイチ分からない。
「そういうものなのです!」
そんな他愛ない話をしながら僕たちは探索を進める。
木でできた床が軋む音を聞きながら一つ、また一つと部屋を探索する。一階には何もなかった。二階にも何もなかった。
そして三階。最後の部屋である科学実験室。
「ここが最後の部屋だな。みんな用意はいいか?」
緊張した面持ちで一馬が問う。僕はこの部屋に違和感を感じていた。
「ねぇみんな。なんか感じない?..気配みたいなの。」
「そうか?俺はなにも感じないけど。」
「僕もなにもかんじないね~。」
気のせいかな?と、僕が考えていると、パリン!と何かが割れるような音がこの部屋から聞こえた。
「!!なに、今の音!?」
「今なにかが割れたような音がしなかったか!?」
「僕も聞こえたよ!この部屋、科学実験室から聞こえた!」
僕たちは皆一様に驚きながら科学実験室を見た。
「...入るぞ、準備はいいか?」
僕と圭太は首を縦に振った。一馬がドアをあける。
中には薬品の臭いが充満していた。
「誰もいないな...」
床にはなにかの破片のようなものがちらばっていた。さっきの音はコレが落ちて割れたときにしたようだ。だけど...
「ねぇ一馬、圭太。この破片の位置おかしくない?薬品棚は隅のほうにあるのに、なんで部屋の真ん中に破片が落ちているんだ?」
そう。破片は部屋の真ん中にちらばっていたのである。
「本当だ...でもなんでだ?」
「わからない。...幽霊のしわざなんじゃ?」
「まさか。幽霊なわけがない!」
僕たちは三者三様な反応をしていた。探したけれど部屋には誰もいなかった。
「....本当に幽霊のしわざなのか?」
結局、幽霊が見つかることはなかった。
「ちっ。今年も収獲なしか〜」
「来年こそは....!」
どうやら一馬と圭太は来年もこの旧校舎を探索するらしい。まぁもちろん僕は行かないが。
「ほら、何もなかったんだからさっさと帰るよ〜」
僕が持つ腕時計はもう午前1時。つまり夜中を指していた。
「な、なぁ辰彦。もう一回探さな「ダメ。」...わかったよ..」
まったく.......ん?これは...
「誰かに見られてる?」
僕はどこからか視線を感じたので足を止め辺りを見渡したが、話ながら前を歩く二人以外に人影はみあたらない。
「どうしたの?辰彦くん。なにかあった?」
「う、ううん。なんでもないよ。さ、早く帰ろうか。」
いつの間にか感じた視線はなくなっていた。
あれはなんだったのだろうか。僕は気のせい、ということにして二人と別れ、家に帰った。
翌朝、両親が海外にいて僕しかいない家はいつも通り静かだった。
朝ごはんを食べるために、一階に降りるとテレビの音がする。どうやらつけたまま寝てしまったみたいだ。
リビングのソファに足がない女の人がいた。
ん?女の人?足が....ない......?
「うわああああああぁぁぁぁ!!!だ、だ、だ!?っていうか足がない!?!?」
僕が混乱していると、女の人は笑みを浮かべながら
「どうしたの?幽霊でも見たような顔をして。」
これが僕と彼女の出会いだった。
ひとまず冷静になった僕は幽霊の女の人、(織村姫香と言うらしい)にいろいろと質問をした。質問の内容と答えをまとめると、
1.なぜここにいるのか
=僕が始めて気配を感じられる人だったから。
2.旧校舎にいた理由は?
=旧校舎がとり壊されてしまうと依り代がなくなり消えてしまうから、人が来ると、ピアノを鳴らしたり、瓶を落としたりなどのことをして、追い返していたらしい。去年は観察していたみたいだけど。
3.ここにいても大丈夫なのか
=大丈夫らしい。旧校舎から離れてもとくに支障はないらしい。最近は僕たち以外は旧校舎に近づいていなかったようだ。
4.僕以外の人にも姿は見えるのか
=わからない。今のところ見えるのは僕だけらしい。
5.ものに触れたりできるのか
=できる。食べ物も食べる必要はないが、食べられるらしい。ちなみに味覚はあるそうだ。
他にも質問をしたが、このくらいでいいだろう。
「話はだいたいわかったけど...それで?僕にどうしろと?」
「うんとね、私はね、楽しいことがしたいの。だから君に憑いていっていろいろしたいなって。」
「僕が断ったら?」
「そのときは、勝手についていこうかな!」
どうやら断っても無駄なようだ。
「はぁ....わかったよ。勝手にしなよ。」
「やったあ!それじゃあさ、君!名前はなんていうの?」
そういえばまだ名前を教えていなかったな。
「僕は星見辰彦。幽霊を信じていなかった普通の高校2年生だよ。」
「辰彦くんか。私は織村姫香。姫香ってよんでね。これからよろしくね!」
そうして僕たちの夏休みが始まった。
始めはお互いにギクシャクしていたが...
海にいったり
「これが海か〜!綺麗!冷たい!しょっぱい!」
「姫香さんは海にいったことなかったの?」
「うん。体が弱かったからね。ありがとね!辰彦くん!」
夏祭りに行ったり
「お祭りといえばりんご飴だね!」
「...姫香。それって周りからみたらりんご飴が宙に浮いてるようにみえるんじゃない?」
「大丈夫だよ。多分、おそらく。メイビー。」
「周りが気にしてないところをみると大丈夫...なのかなぁ」
「そんなことよりさ!辰彦くん!早く行こうよ!花火、始まっちゃうよ!」
「わかったから!そんなに手を引っ張らないで!」
焼き芋を食べたり。
ハロウィンをしたり。
お正月を過ごしたり。
その他にもいろいろなことをした。
そうやって彼女と過ごしているうちに僕はだんだん彼女に惹かれていった。
決して実らない恋と知りながら。
告白できないまま.......
そして冬休みが終わろうとしていた。
冬休みの最終日の夜。姫香の様子がおかしいことに気づいた僕はなにかあったのか?と聞いてみた。
「姫香。なにかあったの?僕でよければ相談にのるよ?」
そう姫香にたずねたが....
「ううん。なんでもないよ。大丈夫だから。心配かけちゃってゴメンね?」
と、返してきた。...そんなふうに返されたら僕からはなにも言えない。
「わかったよ。でも、なにかあったら絶対に言ってね。」
「....うん。」
翌朝。僕がリビングにいくと、いつも通り姫香がいた。
「辰彦くん。用事があるから少し外に行って来るね。」
姫香が朝から出かけるのは珍しいな。そんなことを思いながら僕は見送りの言葉をかけた。
「りょーかい。いってらっしゃい。気をつけてね。」
「.....うん。いってきます。」
今日は始業式で午前中だけで学校が終わる。
帰ったらなにをしようか。そんなことを考えていた僕は校長先生の言葉で現実に引き戻された。
「みなさんにお知らせがあります。本日、旧校舎を取り壊すことが決定しました。危険ですので生徒のみなさんは絶対に近づかないようにしてください。」
頭が真っ白になった。
そこからのことはあまり覚えていない。
一馬や圭太によると、僕は始業式が終わった後青くなった顔で先生たちに取り壊しを止めるように言ったらしい。
何度も、何度も。だけど取り壊しを止めることは出来なかったそうだ。それを一馬たちから聞いたとき、僕は昨日のことを思い出していた。
そう。姫香の様子がおかしかったことだ。あのとき様子がおかしかったのは旧校舎が取り壊されることを知っていたからなのではないか。僕はそう考えていた。
なぜ相談してくれなかったのだろうか...僕はそんなに頼りなかったのだろうか?そんな考えが頭をよぎったがすぐにふりはらった。
違う。姫香は僕に心配をかけないように言わなかったのだろう。なぜか僕はそう思えた。
そう思うといてもたってもいられなくなり、姫香を探しに外へと走り出した。
夏祭りがあった神社を捜し、花火を見た丘を捜し、一緒に行った海も捜した。見つからないように夜中に旧校舎も探した。
何度も、何日も。
でも、姫香は見つからなかった。
失意のまま月日が流れ、高校三度目の春がやってきた。
いつの間にか旧校舎も完全に取り壊され、旧校舎がそこにあった、というのを示す石碑がぽつんとあるだけだ。
僕は毎日その石碑へ行っている。風が強い日も、雨の日も。
また日は流れ7月6日。明日は7月7日だ。
僕は今日も旧校舎があった場所へ向かう。
あのとき伝えられなかったことを伝えるために。今はいない愛しい人に伝えるために。
その夜。7月6日、午後11時50分。空は雲ひとつないきれいな夜空が見える。
「ねぇ姫香。君と出会ってからもうすぐ一年がたつよ。」
返事はない
「僕はね、ずっと前から君のことが好きだったんだ。」
返事はない...
「あはは。笑えるよね。君がいなくなってから言う決心がつくなんてさ。」
返事は...ない
「ねぇ...あいたいよ..また君と話したいよ...」
返事は.....ない
「姫香...あいたいよっ!ひめかぁぁ!!」
返事は.........ない
「お願いだよ神様っ!もう一度、もう一度ひめかにあわせてよっ!七夕なんでしょっ!僕の願いをかなえてよっ!あいたいよ...あいたいよぉ...ひめかぁ...」
返事は............
「たつひこ...くん...?」
「え...ひめ..か?...ひめか、姫香ぁ!!!」
「ごめんねっ!辰彦君っ!心配かけて!ごめんねっ!」
あの日伝えられなかった。伝えることができなかった愛しい人に好きを伝えるために。迎えの言葉を伝えるために。
「ばかぁ!心配してたんだよ!」
「ごめんね...ホントにごめんね...」
「なんで、なんでなにも言わずに僕の前からいなくなっちゃったんだよ!」
「それは....辰彦君に迷惑をかけたくなかったし、私がいると迷惑だと思ったから.....」
「!!そんなことない!姫香が僕の家に来てから毎日が楽しかった!姫香がいない日々なんて考えられないんだよ!だから...だから!ずっと僕と一緒にいてよ!!」
「辰彦君..ありが...とう.....!でも、なんだか告白みたいな言葉だね。えへへ。」
泣き笑いのような表情で姫香が言った。
「ほんとだね...でも、さ。姫香。聞いてほしいことがあるんだ。」
決心はついた。僕はもう、逃げない。
「なに?どうしたの?」
「姫香。僕は、君のことが好きです。付き合ってください!」
「!?.....うん。私も、好きです!幽霊だけど、私なんかでよければ、お願いします!」
「よかったぁ!!振られちゃったらどうしようって内心怖かったんだ。それと、さ。」
「なぁに?」
「...おかえり。姫香」
「...うん。ただいま!」
再会を喜び、お互いに特別となった二人の上では、二人を祝福するかのように天の川が流れていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この小説は私が入っている部活で出す、部誌(短編小説集)の作品です。
今回のテーマは[旧校舎]でした。
ええ。完全にテーマが七夕になっていますね。
まだまだ至らないところが多々ありますが、これからも部誌として執筆していきますのでよろしくお願いいたします。
次の部誌は秋。文化祭で出すものです。
テーマは[機械]。難しいです…
それではまた次の小説でおあいしましょう。ありがとうございました。