最終話 世界樹
新たな世界に聖樹王はない。
世界の中心には立派な木が立っていた。
聖樹王に比べればとても小さいが、普通の木と比べればとても大きい。
その木の根には泉がある。
とても綺麗な泉。
その泉の中に1本の木の棒があった。
泉の中心に浮かんでいる木の棒。
その木の棒は徐々に形を変える。
ゆっくりと、ゆっくりと。
意識が戻る。
身体が冷たい……水の中にいるようだ。
俺は確か……新たな世界を支えることになって……。
目を開けて状況を確認しないと、目を開けて……あれ?
何かおかしくないか?
手と足の感覚が、
いや、そもそも頭が……ある?
思考することは出来ている、脳は大丈夫ってことだろう。
手足の感覚はやっぱりある。
頭を動かそうとしても……何て言えばいいのか、何かが動いている気はする、これは頭なのか?
いったい俺はどうなってしまったのだ?
最初にそれに気付いたのが誰なのか、それは分からない。
みんなが彼を感じた。
1番最初に駆けだしたのは彼女だった。
きっと、彼女が最初に気付いたに違いない。
彼女が向かった先には、立派な木があった。
その根に綺麗な泉があった。
そして、彼がいた。
彼は泉に浮いて横たわっていたが、やがて起き上がる。
まるで生まれたばかりの赤ん坊のように、己の身体を上手く動かせないのか。
かすれる目……徐々に、はっきりと視界が開けてきた。
そして、彼女がいた。
目と目が合う。
彼女は泣いていた。
彼は笑っていた。
彼女が泉の中にいる彼に抱きつく。
服が濡れることなんて構わない。
彼の温もりが彼女を包む。
この世界で、初めて貴方が聴いたのは私の声 ルシラ
この世界で、初めて俺が声にしたのは君の名前 アーシュ
この世界で、初めて囁き合う2人の言葉 愛してる
やがて、みんなが集まってきた。
泉の中で抱き合い唇を重ねる2人を見守る。
2人はいつまでも愛を囁き合う。
世界樹の下で。
新たな世界に生きる全ての生命に祝福を。
緑色の両手を天に掲げ、新たな世界のどこかで、緑色は喜びのダンスを踊りながら叫んだ。
「ゴブッ♡」
読んで下さった全ての読者様へ
ありがとうございます。
後日談など、いくつかの話を書く予定でいます。




