第46話 神の間
神殿の中を進み、大いなる翼を持つ天使の前までやってきたアーシュ達。
この天使がアルフ王であるとすれば、後ろにいる青年が神?
マリアは青年の存在を気にしながら、すぐに結界を張れる準備をしておく。
「ようこそ。我が子供達よ。神と共に世界の終わりを祝福しよう」
天使は満面の笑みでアーシュ達を迎える。
「貴方がアルフ王ですね? 私は地上世界のラインハルト。天界を治めしアルフ王よ。なぜ世界は終わりを迎えようとしているのですか?」
「勇者よ。全てに始まりと終わりがあるのです。そして今は終わりの時……ただそれだけです」
「世界の終りは神が決めたことなの? 貴方の後ろにいるのが神?」
「……私の後ろの玉座にお座りになられているお方こそ、この世界を創りし神です」
アーシュの問いに神とだけ答えるアルフ。
「答えが半分だけですよ。神は世界の終わりを望まれているのですか?」
マリアが再び問う。
「……神は何も望みませんよ。世界が終わるのも、始まるのも」
「なら、どうして聖樹王が崩れているの?! 世界が終ろうとしているの?!」
ニニが三度問う。
「……私は世界が終わることを望みました。私の思いは世界の崩壊に繋がっているでしょう。同じく滅びを望む者もいるでしょう。そして、いまこうして私の目の前までやってきた貴方達のように、世界を救うことを望んでいる者達もいるでしょう。全ては等しく公平です。貴方達は、自分達の意思を示せばそれでいいのです」
「つまり、貴方を倒せと?」
「私を倒すことが出来るのなら倒せばいい。それで世界の崩壊が止まるのか……それは私にも分かりません。私は世界を調整する者ですが、この世界に生きる1つの命でしかまたありません」
どんな質問も結論の無い答えばかり返ってくる。
「私は貴方を倒してルシラを取り戻す。それを邪魔するなら神も倒す!」
「待って! アーシュ!」
手に持つ黒い木の棒を床に置くと、
白銀の電光石火を身に纏い、アーシュが跳躍する。
アルフの首を斬り落とそうと。
カキン!!!!!
マサムネの刃はアルフの首を斬った。
斬った感触はあった……でもアルフの首は落ちていないどころか、傷一つない。
この力、アーシュは覚えがある。
「なぜ、お前がお母様の力を使える?」
「ほ~森羅万象を知っているのですか? アマテラスのように言霊をのせて樹木の楯まで作ることは出来ませんが。母親に見せてもらったことがあるのですね」
アーシュの後ろで2つの力が高まる。
ベニが鬼神、ラミアが白蛇を発動する。
「ふむ、純粋種の力を宿す……面白い」
「はぁぁぁぁ!!! 金剛撃!」
「ゆけ! 水蛇!」
ベニがラミアのフォローをもらいながら、アルフに殴りかかる。
アーシュも再び電光石火で跳躍する。
ラインハルトは聖属性を身に纏い、アーシュ達の動きに合わせて突っ込む。
アルフはその全ての攻撃を受ける。
森羅万象の結界が崩れ、己の身にダメージを負っても、その場に立っているだけだ。
「咆哮を上げろ、ルドラ!」
アルフの目の前に、嵐と共に赤褐色の肉体に黄金の防具を身に着け、弓矢を持つルドラが現れる。
その嵐にアーシュ達が吹き飛ばされる。
「あれはお父様の弓? ……光も、闇も、生命もなく! アブソリュートゼロ!」
ニニが現れた男を氷漬けにする。
一瞬動きを止めるが、すぐにその氷は割られて、ルドラは弓矢を放つ。
その弓矢からさらなる嵐が吹き荒れる。
「義と共に麒麟、安らぎと共に鳳凰、吉と共に霊亀、幻と共に応竜!」
マリアの超魔法により4霊が召喚される。
「……本来は神が使役する霊を人が使ってはいけませんよ」
「これはこれは……申し訳ございませんこと」
4霊の霊力が、ルドラとアルフを襲う。
ルドラは消滅こそしないまでも、戦闘不能の状態となり、
アルフも見た目から大きなダメージを負ったことが分かる。
「サンクチュアリ」
アルフの傷が一瞬で治る。
そして、その言葉は10年前に地上世界を救ったあの魔法であった。
「ホーリー」
アルフから聖なる光が溢れる。
マリアはすぐに結界を展開する。
「くっ……」
マリアの結界の内側に、ニニがスヴェラを展開する。
さらにその内側に、ラミアが水の楯を展開する。
その全てを貫き、聖なる光がアーシュ達を襲う。
「素晴らしい……言霊無しとはいえ、ホーリーを受けて生きているとは……そして」
聖属性を纏いホーリーを抜け、アルフの心臓を貫こうと、ラインハルトがエクスカリバーを突き刺す。
ガキン!
「ぐっ……な、なんだと」
エクスカリバーはアルフを貫くことなく、またアルフの身体に傷をつけることもない。
「聖属性を身に纏うか……聖魔法を使える人間はいつ以来か。だが勇者よ。我は聖なる存在そのもの。聖属性で我が傷つくことはありませんよ」
アルフの強さの前に、アーシュ達の心を絶望が支配していく。
そして、その時……後方から大きな力を感じ、そして2つの力が消えた。
「友よ眠れ……私もすぐにいこう」
「お、お父様?」
アーシュが戦闘中にも関わらず後ろを振り返る。
消えた力の1つは、父ハールであった。
「オーディンの子よ。悲しむことはありません。君もすぐにいくのだから」
アーシュ達は立ち尽くす。
そして、またあの声が聞こえる。
ウオオオオォォォォォン!!!!!!!!!
その声と共に、崩壊が一気に加速する。
アルフが満面の笑みで立っている。
アーシュが、か弱い声で囁く。
「……ルシラ」




