第41話 叫ぶもの
聖樹王の頂上付近に着くまで1時間弱。
上昇する大地の上で、天使達との戦いが始まった。
翼を持ち自由に空を飛ぶ天使達は、高さの利を最大限に使った戦法を取ってきた。
決して近づきすぎない距離から、光の弾丸を放ってくる。
マリアが結界を展開し、天使達の光の弾丸を弾く。
ラミアも大量の水の防御盾を作る。
空飛ぶバイクを持ってきていないため、ほとんど人々が空を飛ぶ天使達に攻撃出来ない。
その状況を変えたのはニニとリンランディア。
ニニは氷竜を、リンランディアは氷鳥を作りだし、それに乗って騎士団、魔術師団は上空の天使達に攻撃を始める。
しかし、神々しい天使達を攻撃することに人々は戸惑った。
その迷いを打ち砕いたのは、シュバルツとミリアだ。
「ぬおおおおお!!!」
「はあああああ!!!」
一閃のもと、天使達を斬り捨てる2人。
「相手が誰であろうと、我らは進む! 騎士団前へ!!!」
「おお!!」
シュバルツの号令のもと、一気に動き出す騎士団達。
騎士団に合わせるように魔術師団も動き出す。
この日のために、大いなる意思の導きより鍛えられた人の力が発揮される。
天使達は倒しても倒しても、空から次々とやってくる。
終わりの見えない戦いが30分以上続いた。
さすがに疲れの色が見え始める。
頼りのハールとアマテラスは人々の戦いをフォローしているだけ。
その力を振るうことはない。
何かに備えて力を温存しているかのように。
「ちょっと押されてるんじゃないか?」
「そうね。上空から狙われ続けるこの状況は、天界側が常に有利。持久戦では敵わないでしょうね」
「数が多すぎるな。リンランディア1人では対応しれきないか」
氷の羽で自由に空を飛ぶリンランディアは、まさに獅子奮迅の活躍を見せている。
だが、相手も1人1人が雑魚ではない。
中にはリンランディアが手こずる相手も混じっているのだ。
地の利、数の利、共に相手にある中では、いずれ消耗してこちらが負けてしまう。
「地の利は仕方ないとして、数の利は……貴方がどうかしたら? フロプト(叫ぶ者)」
「都合の良い名前で呼ぶのはやめてくれ。まったく」
ハールが詠唱を始める。
「汝ら、我がもとで永遠の命を得て叫ぶ者達よ。フロプトと共に歌え!!!」
ハールの詠唱と共に、50近い“何か”が現れる。
それは人型だったり、植物のような形であったり、動物のような形であったり。
それらは空に向かって叫び始める。
それらは、過去にハールが倒した者達の中でも、ハールが己の力として契約した者達である。
ハールの魔力によりその姿を構成されると、与えられた魔力が尽きるまで叫び歌い続ける。
そして“敵”としてハールが認識した者達に向かって、生前に己が持っていた能力を使い攻撃し続ける。
「カラス共よ。連れていけ!」
現れた叫ぶ者達をカラスが乗せて飛び立つ。
ハールが己の力として認めたほどの者達だ。
その能力の高さは折り紙つきだ。
「な、なんだ?!」
騎士団達は飛んでくるカラスと、その背に乗る異様な者達に最初驚くが、天使達を攻撃するそれが、自分達の味方であるとすぐに分かると、一気に攻勢に出る。
「まぁまぁね」
「へいへい。働くのは俺だけかよ」
「私も数を減らしてくるわ。スレイプニールを貸して頂戴」
(自分で跳躍すればいいだろお前は)
「なにかご不満でも?」
「いえいえ、滅相もございません。アマテラス様に乗って頂けて我が愛馬も幸せでございます」
8本脚の軍馬にアマテラスが乗ると、スレイプニールは空を飛び駆け抜ける。
アマテラスの参戦により、状況は一気に優勢となる。
叫ぶ者達も、ハールから与えられた魔力はまだ尽きず、叫び歌い続ける。
アマテラスの一振りで、天使達は次々に斬り捨てられていく。
アーシュ、ベニ、ラインハルトも足場を上手く使い、天使達を倒していった。
ラミア、ニニ、マリアは水盾、氷盾、結界を使い、多くの仲間達を守っていった。
戦闘開始から1時間弱……ついに聖樹王の頂上付近へと到着する。
天使達は戦力投下をやめ、防衛線を下げたのか姿を見せなくなった。
「被害状況を確認しろ」
ラインハルトの指示で、新たな部隊編成が進む。
傷ついたとしても、戻る場所などない。
いつ天使達の襲撃があるのか分からないのだ。
地上世界に安全に戻れる保証がない以上、前に進むしかない。
それでも、傷ついた者は後方部隊としフォローに回す。
「さてと、いよいよ本番だな」
ハール達の目の前には大きな穴が開いている。
この穴を通った先が天界。
大罪の日以降、決して人が足を踏み入ることが許されなかった天界である。
「事前の打合せ通り、アルフ王と神のいる神殿に一直線に向かいます。悪魔達との無用な戦闘は避けます。襲いくる天界の兵達に対しても深追いする必要はありません」
アマテラスの言葉と共に、穴に向かって歩み始める人々。
「リンランディア。サタンとフェンリルが出てきたら、私とオーディンが対応します。貴方は神の神殿へみんなを案内して下さい。最悪、アーシュ達とラインハルト王子達は何があっても神殿に……」
「かしこまりました」
穴から天界に向かって進んでいく。
天界とはいったいどのような場所なのか。
期待と不安を抱く人々の耳に、またあの声が聞こえる。
ウオオオオォォォォォン!!!!!!!!!
(もうちょっと頑張れよバハムート……もうすぐ“終わり”がくるさ。どんな形であれ)
世界を支えるその声に、ハールは何を思うのか。




