第40話 天界へ!
その日の朝、異変に人々は恐怖した。
聖樹王の幹に巨大な亀裂が入り、大地そのものが崩れ落ちるような地響きが鳴る。
そして、今まで聞いたことのない巨大な何かの鳴き声が聞こえた。
ウオオオオォォォォォン!!!!!!!!!!!!
(バハムート……)
アマテラスだけがその鳴き声の正体を知っていた。
不安がる人々をなだめ、鼓舞する。
「みなさん! 今まさに審判の時が訪れようとしています! 私達は滅びを待つことはしません! たとえ神が滅びを選ぼうとも、私達は生きる意思を神に示しましょう! さぁ、いざ天界へ!!」
「おおおおお!!!!!」
一斉に動き出す人々。
女王ティアは、みんなが天界に向かうのを最後まで見届ける。
「ニニ、これを持っていきなさい。天界に聖樹様がおられるなら、きっと何かあるはずです」
女王ティアはニニに聖樹の木の棒を託す。
「はい。神に私達の意思を示して参ります」
「よろしくね。ラインハルトのことも」
「くす。もう私がお守りするような方ではございません。主人は世界最強の剣士なのですから♪」
「そうだったわね♪」
ニニは女王と抱き合い、天界へ向かう。
「ミリア?!」
シュバルツが驚きの声をあげる。
そこには、引退し子供達と一緒に夫の帰りを待つはずだったミリアが龍王剣「真・白雪姫」を手に持ち、騎士の姿でいたからだ。
「どうしてここに?!」
「あなた……私も行くわ。世界を救う戦いなのでしょ? 私も世界を救いたい。子供達の笑顔を守りたい。そしてあなたと共に天命が尽きるまで愛し合いたいから」
「だが……」
「大丈夫よシュバルツ。ミリアの身体を見れば鍛えていたことはすぐに分かるわ」
マリアが笑顔でミリアを迎える。
「わかった。でも無理はするなよ? 俺のフォローに回ってくれ」
「はい!」
「女王陛下。行って参ります」
「うむ。世界をよろしく頼む」
「はい……世界を、そして……お母様を救ってみせます」
「ありがとう。貴方は本当に自慢の息子だわ……愛してるわラインハルト」
母と子として抱き合い、手を握りしめ、そしてラインハルトは人々の先頭に立つ。
龍王剣「エクスカリバー」を天にかざし、大声で時の声をあげる。
「行くぞ!!! 向かうは天界!!! 示すのは我らの意思である!!!」
「おおおおお!!!!!」
先行して地上世界から天界への門に到着していたのはアーシュ達だ。
門に到着してみれば、そこにはハールとリンランディアの姿があった。
「お父様! もう着いていらしたんですね」
「ああ、あの馬鹿共を相手にして疲れたわ。」
「何を言うか。結局最後は卿も雷を落として、一緒に騒いでいたではないか」
「お、おい! それは秘密だ!……ア、アーシュ……ごほん、いいか、大人はな、時に聞いたことを聞かなかったことにすることも大事だぞ。今の話はお母さんには内緒な」
「お父様がしっかりと戦って下さったら、忘れてあげることも考えますね」
「お、おい!」
「アーシュはアマテラス様に本当に似てきたな」
「くそっ! 父親はなんて損な役回りなんだ!」
「それはお父様だけでしょ。リンランディア様は奥様とも、娘のニニさんとも、とても良い仲ですよ~」
「うむ」
リンランディアは満足な笑みをハールに向ける。
「けっ! どうせ俺はダメな父親ですよ~だ」
「はいはい。お父様も素敵な父親だって、ちゃんと愛娘は分かっていますからね。だから拗ねないでくださいね」
アーシュに背中を叩かれるハールを見て、みんな大いに笑った。
そして、後方からラインハルト率いる人々が見えた時、この世界をかけた最後の戦いが始まる。
サタンが置いていった天界への鍵。
地上世界から天界へと繋がる門に鍵を押し込めると、その先には大きな円形の空間が広がっていた。
「な、なんだここは……」
騎士達はこの異様な広い空間に戸惑う。
天界に行くために率いてきた全ての人々が収まるほどの、広い空間だ。
すると、急に大地が動き出し、それは上に向かって上昇し始めた。
「な、なんだ?! 罠か?!」
ラインハルトも驚きを隠せない。
「みなさん大丈夫です。落ち着いてください。いま私達は天界に向かっています。この大地が上昇することによって、聖樹王の頂上付近につきます。そこから、前方に穴が現れますので、一気にアルフ王と神にいる神殿に向かいます。天界はすでに戦闘状態です。地下世界からやってきている悪魔達との戦いが始まっています。悪魔達との戦闘は無用です」
アマテラスの説明で落ち着く人々。
約1時間ほどこのまま上昇する。
1時間後に戦いが始まる。
気を引き締める人々であったが、戦闘はもっと早くに始まった。
気付いたのはハール。
「はぁぁぁ!!!!」
このとてつもなく広い円形の空間の上空に雷の幕を張る。
その幕に光の弾丸が降ってくる。
「きたぞ! 向こうから、わざわざおでましだぞ!」
瞬時に戦闘態勢へと移行する。
雷の幕が光の弾丸を全て弾き消えた後、上空に見えたのは、光輝く翼を持った妖精の戦闘兵達だ。
この世界に「天使」という言葉が存在したとしたら、その姿はまさに天使そのものだろう。
天使達は、上昇する大地にいる者達に迷いなく、攻撃を始まる。
「おっしゃあああ! 始めるぞ!!!!」
ハールの楽しそうな声と共に、世界をかけた最後の戦いが始まった。




