第34話 地下世界の準備
地上世界が天界に攻める準備を始めた頃、地下世界ではアマテラス達が里に戻り、同じく天界を攻める準備を始めていた。
里の者達は天界を攻めると聞いた時にはひどく驚いた。
様々な理由で天界から堕とされたとはいえ、まさか天界を攻めるなんて夢にも思っていなかったのだ。
また、もともと地下世界で暮らしていた者達にとっても、天界とはもはや空想の中にしか存在しない場所で、その場に行ってさらに天界を治める王を倒すなど……夢物語や英雄譚ですら無い話であった。
そんな里の者達を優しく笑顔で説得したのはアマテラス。
もともと、里の者達にとってアマテラスの存在そのものが天界と同じような存在でもあった。
元夫ハールことオーディンと共に“一の時”から生きる存在。
その彼女が、冗談ではなく真面目に天界を攻めると言っている。
徐々に、彼女の言葉を受け入れていった。
そんな里の者達とは違い、アーシュは失意の中にいた。
天界に連れ去られてしまったルシラを取り戻す決意が揺らぐことはない。
でもルシラが自分の側にいてくれない。
ルシラの存在を感じられない。
それだけで彼女の心は千切れそうなほど悲しくなった。
アーシュの側にはベニとラミアが付き添い彼女を励ます。
2人に支えられアーシュも天界を攻める準備を始める。
リンランディアが預かっていたマサムネを手に持ち、今は己の心を強く持つ。
そう……1秒だって無駄に出来ない。
自分は強くならなければいけない。
ルシラを取り戻すために……彼女は強い心を持つ。
アーシュ達と別行動を取っているハール。
彼は、地下世界を歩き回りながら、天界への道が開けることを吹いてまわった。
全ての上位の悪魔が地上世界に興味を持っているわけではない。
ベルゼブブのような存在は、どちらかといえば特殊だ。
あれほど地上世界に行ってみたいと欲望にかられる存在はいない。
だが、それが天界となれば話は別だ。
そもそも、天界に行けることはない。
天界への穴は存在しないのだ。
サタンが天界への鍵を持っているという噂は知っている。
だが、あの謎の存在が気紛れで天界への道を開くのを待つのも馬鹿らしい。
そのため、上位の悪魔にとって天界とは行けない場所であり、同時に行ってみたい場所でもある。
自分達がなぜ地下世界に生まれたのか。
自分達の存在はいったい何なのか。
その答えを天界に求めることが出来るのか?
我らを創った神にその答えを求めることが出来るのか?
力こそ全ての地下世界に君臨する悪魔の王達が動き出す。
アスタロスは六大悪魔を率いて天界に向かうことを決めた。
バフォメットは己の羊悪魔達を率いていく。
ベヒモスが陸から、ジズが空から、そしてリヴァイアサンが悪魔の泉からその姿を水で覆い、まるで蛇のように天界に向かう。
その他にもベルゼブブ級の悪魔達が一斉に天界に向かい始めた。
ハールはその様子を見て、ちょっとやりすぎたか?と思いながらも、楽しいからま~いいだろう!っと納得して、意気揚々と天界の門に向かっていった。
悪魔達の陽動をいつ開始させるのか、リンランディアが地上世界の者達に事態を告げて動き出すのと合わせる必要がある。
アマテラスは里の指揮をアーシュに任せる。
若いアーシュで不安に思う者達もいるだろうが、娘の成長を信じて彼女に任した。
ハールと神の泉の近くで落ち合い、リンランディアが来るのを待つ。
彼からタイミングを聞いて、悪魔達を天界に誘う。
その後、地上世界側からの天界への道で合流。
その道を通って天界を攻める。
アーシュに託した後、アマテラスは地上世界に向かう。
先行しているリンランディアと、自らの意思でこの世界に導いた女王に会いに。
アーシュ達の準備が終わり、神の泉近くに向かうと、そこはまさに地獄絵図となっていた。
「だあああ! うるせーな! 静かにしてろよ! すぐに天界の門開いてやるから!」
「オーディン! 貴様我らを騙したのではないだろうな! その手に持つ鍵は本物なのか?!」
「本物! 間違いなく本物だって! サタンが置いていったの! だから本物なの! だああああ! そっちも静かにしろよ! おい、ここでやり合うな! 天界に行ってから好きにやり合えよ!!!」
ハールで無ければ一瞬で死んでいる攻撃の雨の中、ハールは集まった悪魔の王達をなだめていた。
ここで力を使い戦力を消耗されても困る。
普段は顔を合わせることもなく、お互い長い年月をかけて決まった縄張りの中にいる悪魔の王達が集まってきたのだ。
まさに一触即発。
過去にいざこざが無かった者達ではない。
積年の恨みをいまこの瞬間晴らそうと思っても不思議ではない。
「おまえら!!! いい加減にしないと天界の門開いてやらないぞ! 行きたいんだろ?! 天界によ! 会いたいんだろ、神によ! だったら大人しくしてろ!!!」
ハールも必死だ。
なぜなら、この誘導が失敗することは……アマテラスによって己の首が斬り落とされることを意味するのだから。
楽しいからいいか! っと納得してほとんどの悪魔の王に声をかけたことをちょっとだけ後悔したハールであった。
「これでは近づけませんわね~」
ラミアがこの地獄絵図を見ても、のほほ~んと感想を述べている。
「私達がどうにか出来る悪魔達じゃないわね。……お母様からの指示はリンランディア様との合流よ。馬鹿なお父様は放っておいて、私達は地上世界との門側に向かいましょう」
そして愛娘にも見捨てられて、1人悪魔達との言い合いを続けるハールであった……。




