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伝説の木の棒 後編  作者: 木の棒
第3章 戦い
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第28話 空白の持ち主

 子供が何かを呟いた瞬間、アーシュの胸から黒い光がもれ始めた。


 俺は、これはやばいと直感で分かった。

 この黒い光は絶対にまずい。


 なんだ、どうしてこんな黒い光が。

 その黒い光がもれ始めた途端、アーシュの目の光が徐々に失われていくようだった。


 ベニちゃんとラミアがアーシュに近づこうとした時、黒い光は解放されたように爆発した。

 その爆風で吹き飛ばされるベニちゃんとラミア。


 くっ!この黒い光……アーシュを操る気か?



 爆発の後に立っていたアーシュの目は、光を宿さない人形の目だった。

 何かに操られている、まさにそんな表現がぴったりだ。


 事実、アーシュはぎこちない動きで、泉に向かっていく。

 子供は笑いながら、アーシュを見ている。



 果実に手を伸ばす。

 美しい泉の中から、1つの果実を取る。

 その果実を持った手を、口に近づけていく。



 俺は、全力で魔力をアーシュに流した。


 俺の魔力が流れると、果実を手からこぼす。

 アーシュに必死に声をかけるように魔力を流していく。


 魔力は、黒い光がもれていくアーシュの胸の部分へと流していく。

 そこに向かって、魔力を全力で流す。


 アーシュは俺の魔力が流れた途端、苦しそうにもがいている。

 あの黒い光と、俺の魔力がアーシュの中でぶつかっているのか?


 負けるなアーシュ! アーシュ!!



 少年が何かを呟いた。

 また何か起きるのか?


 しかし、何も起きない。

 そのことに少年は、初めて表情を崩す。


 アーシュではなく、俺……棒を睨み付けている。


 どうして俺を睨む?

 お前は俺の存在を知っているのか?


 アーシュが持っているただの棒だろ?

 何も知らない者からすれば、俺はただの棒だ。


 俺にどんな力があって、俺がどんな存在なのか、お前は知っているのか?



 少年はアーシュに近づいてきて、俺に触れようとする。

 触れられるとやばい!俺の危機本能がそういっている!


 アーシュ!こいつを……斬れ!!!!



 胸からもれる黒い光に苦しみながらも、アーシュは雷神刀となった俺で、子供に斬りかかる。

 子供は簡単にアーシュの斬撃をかわす。



 事態を見守っていたベニちゃんとラミアも、少年を敵と認識して攻撃する。

 3人の攻撃を余裕でかわしていく少年。



 アーシュの黒い光はなくならない。

 うつろな表情で、俺を握りしめてなんとか立っているアーシュ。


 無意識の中で戦っているようだ。

 少年は笑いながら3人と戦っていたが、アーシュに向かって手を向けて、何かを呟く。



 すると、アーシュの胸からもれる黒い光が一気に増大した。


 くっ!俺の魔力じゃ抑えきれない。

 爆発を警戒して、アーシュから距離を取るベニちゃんとラミア。


 黒い光がアーシュを包み込み、アーシュは意識を失った。

 意識を失ったのだが、アーシュは立っていて、俺を握っている。


 そして開いたその目は虚ろ……虚空を見るような操り人形だ。

 雷神刀を握り、その目がベニちゃんとラミアを捉える。



 ベニちゃんとラミアに斬りかかるアーシュ。

 俺は一瞬で雷神刀を解いて、最低出力の闘気だけの棒に戻る。


 普段のアーシュの華麗な動きとは違う、ちぐはぐな動きだ。

 この動きならベニちゃんとラミアが攻撃を受けることはないだろう。


 受けたところで、最低出力の棒に叩かれたぐらいではダメージもないだろうし。

 俺が雷神刀を解いたことで、2人は棒の意思は操られていないと分かっただろう。



 ベニちゃん達がアーシュの相手をしている間に、俺は必死に魔力をアーシュに流す。

 アーシュを操っている、あの黒い光をどうにかしようと。


 アーシュ!しっかりしろ!

 俺はここにいる!


 アーシュ!!




 少年は俺がただの棒でいることが面白くないのか、一本の槍をアーシュの前に落とす。


 アーシュはその槍を拾おうとした時、動きが止まる。

 俺を捨てて槍を拾うことに戸惑っているのだろう。


 俺は最後のチャンスと思って、ありったけの魔力を流し込む。

 愛しい人の名前を呼びながら。


 そして、黒い光と、俺の魔力となった白い光がアーシュを包み込んで…アーシュは意識を失った。




 つまらなそうな顔をした少年は、アーシュに近づいていく。

 ベニちゃんとラミアが同時に少年に攻撃を仕掛けるが、あっけなく弾き返されてしまう。


 少年はアーシュを見下ろしながら、その姿を大蛇へと変える。

 大蛇の頭には、悪魔の巨人のような姿をした上半身が生えている。


 こいつ、あの時の!

 ハイオークキングと戦っていた時に、突然現れたあの大蛇か!


 リンランディアをもて遊ぶような相手だ、ベニちゃんとラミアでは手も足も出ないだろう。


 こいつはいったい何なんだ?

 どうして、アーシュを狙う?


 いや、待てよ。

 オークの急激の進化ってこいつが関係していたんじゃないか?


 メモリー機能を見て後で気付いたが、俺によってハイオークキングに進化したあいつは、純粋なるオークという名前になっていた。

 純粋なるオーク……それがどんな存在なのか分からないが、俺無しであいつがさらに進化出来たのか?


 この大蛇が、何か後ろで手を引いていたとすれば。


 この大蛇が、俺の空白の持ち主だとすれば。


 推測の域を出ないが、俺の中ではいろいろと納得出来てしまう。


 ハール級の強さと思われるこの大蛇なら、何らかの力で俺に強制的に干渉してきたって不思議じゃない。


 特に、俺がアーシュを傷つけてしまった時、こいつはすぐ側にいたんだ。

 近ければ近いほど干渉しやすいかどうか知らないが、単純に考えればそうだろう。


 そもそも、俺をこの黒い木の棒に転生させたのも、お前の仕業か?

 一番最初の時もそうなのか?



 その巨大な手でアーシュを掴み、アーシュが握りしめて離さない棒と一緒に、根の穴の奥へとものすごいスピードで走り出す大蛇。


 その顔は楽しそうに笑っているように見えた。




 俺とアーシュをさらった大蛇は、根の穴を駆け巡ると、まるで天から光が降り注ぐような、緑溢れる場所へとやってきた。


 ここが根の中だと誰が思うだろう。

 そもそも、この光はどこから降り注いでいるんだ?


 地上世界?


 いや、もっと上か、天界か?


 神々しいほどの光が降り注ぐ中、大蛇はアーシュと俺をその中心に置いた。

 大蛇は光の先を見つめて笑っている。


 何かを待っているのか?


 アーシュを光の中心に置いてどうする気だ。

 シチュエーション的には生贄か何かか?


 アーシュに全力で癒しの魔力を注いでいるけど、まだアーシュの意識は戻らない。

 大蛇は何をするわけでもなく、ただただアーシュと俺を見つめている。


 お前の目的は何なんだ?








 何も出来ずアーシュがさらわれるのを見ているしかなかったベニとラミア。

 しかし、事態は2人に絶望する時間すら許さない。


 2人は、根の穴の奥に向かうのと、ハールに知らせるために2手に分かれる。

 ラミアが根の穴の奥へ、ベニがハールに知らせに行くことにした。


 ラミアの水の印をつけていけば、後から追ってくる時の目印になるからだ。




 ベニが走る。


 雷帝に事態を報告するために、鬼神となって全力で。


 アーシュが大蛇にさらわれた。


 考えたくないけど、アーシュが殺されたら……。

 涙を流しながら、ベニは走る。


 根の穴から出た時、ベニの目の前に現れたのは、まさに会いにいこうとしていた人物だった。


 雷帝ハール、氷王リンランディア。

 2人は既に、根の穴の入り口にいたのだ。


 ベニは、息を切らしながらハールにアーシュのことを報告する。

 ハールはベニの頭を撫でて笑顔で言った。



「大丈夫だ。俺の娘は簡単に死なね~よ」



 3人は、ラミアが残してくれているであろう目印を頼りに、根の穴の奥に向かうことにした。




 ラミアは、何処かへ走り去っていった大蛇の匂いを追いながら、根の穴の奥へ奥へと向かっていた。

 途中に水の玉を残して、後からハールを連れてきてくれるベニを信じて。


 向かった先でアーシュが生きていなかったら。

 あの大蛇に襲われたら、自分も生きては帰れないだろう。


 それでもラミアは匂いを追って向かう。

 大切な友のために。



 ラミアの前に、大きな二つの穴が現れた。

 大蛇の匂いを探っても、どちらに行けばいいのか曖昧だ。


 迷い悩むラミア。

 でもすぐにその答えは出た。


 なぜなら、1つの穴から、女性が出てきたのだ。

 天女のような美しい女性。


 里に住む者で、この女性のことを知らない人はいない。


 雷帝ハールの元妻であり、アーシュの母親であり、一の時から生きるもの、アマテラス。


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