第25話 夢で逢えたら
お母さんがおまじないをかけてくれた後も、ルシラは私の想いにすぐには応えてくれなかった。
それでも私は自分を信じて、ルシラに愛情を注ぐ。
ルシラのことを信じる、そのことをまずは自分が信じる。
それが出来なければ、ルシラはきっと私の想いに応えてくれない。
一緒にお風呂に入って、艶々に磨いてあげて、一緒に寝て。
お話もたくさんして、私の魔力をルシラに流していく。
何度も、何度も、何度も、私の魔力をルシラに流す。
応えてくれなくても、私はルシラに愛情を注ぐ。
ルシラに頼ってばかりではなく、自分の力を高めるための鍛錬もする。
それはルシラの本当の持ち主になるため。
ルシラを2度と傷つけないために、私自身が強くなる。
そうしていたある日の晩、ベットに一緒に入っていると、ルシラから一瞬魔力が流れてきた。
私は嬉しさのあまり涙を流してしまった。
すぐに魔力をルシラに流し返してみる。
ルシラはまるで泣いた子供が母親の愛情を確かめるように、私に魔力を流してくる。
うん、そうだよ。
私はルシラと一緒だよ。
ルシラを離すつもりなんてないよ。
ずっと、ずっと一緒だよ。
私はルシラを信じるよ。
だからルシラも私を信じて。
大好きなルシラ。
愛しいルシラ。
ルシラを抱きしめて魔力を流し合う。
魔力と魔力が絡み合う感じ。
それは、楽しくて、嬉しくて、気持ちよくて、私を満たしていく。
そして、ルシラの優しい魔力に包まれて、夢に落ちていった。
あの天女が俺に何かした。
何をしたのか分からないが、例の空白の持ち主のチェックが外れたのだ。
これは、俺の意思に反して勝手に力が出たりなくなったりすることが、もうないと思っていいのだろうか。
チェックが外れただけで、持ち主を消去することは出来ない。
俺は迷いの中、アーシュの想いに応えることなく過ごしていった。
アーシュはそんな俺に愛情を注いでくれた。
お風呂にも入れてくれたし、艶々に磨いてお話もずっとしてくれた
そしてベットに一緒に入ると、優しい魔力を俺に流してくれた。
俺はそれに応えたい気持ちを抑えて我慢していたのだが……。
天女は、アーシュにこれから試練が訪れると言っていた。
そして、俺に側にいて守ってやって欲しいと。
俺はいいのだろうか……アーシュの側にいていいのだろうか。
俺は、怖がる子犬のように、アーシュにほんのちょっぴりだけ、魔力を流してみた。
その瞬間、アーシュは飛び上がらんばかりに、笑顔をはじけさせて泣いた。
そして、俺にすぐに優しい魔力を流し返してきた。
アーシュの魔力に包まれながら、俺も優しい魔力を返した。
魔力と魔力で絡み合う2人。
ベットの中で抱き合う恋人のようだった。
アーシュに応えることをやめた日から感じなかった睡魔を久しぶりに感じた。
そのまま、アーシュと一緒に夢の世界に落ちていった。
ルシラ
私が貴方の名前を呼ぶ
アーシュ
俺が君の名前を呼ぶ
夢の中で抱き合う
2人だけの世界で、いつまでも
もう離れないで
君が泣きそうな声で囁く
もう離さないよ
貴方が温かい声で囁く
愛してる、愛してる、愛してる
何度も私達は囁き合う
心地よい夢から覚めた俺は、アーシュに魔力を流す。
アーシュも俺の魔力で起きたのか、笑顔を向けて魔力を流してくる。
俺達はしばらくそのまま抱き合いながら、朝のまどろみの中、お互いの温もりを感じ合った。
その時から俺達は、魔力でお互いの意思や感情が分かるようになった。
なんとなくなんて曖昧なものじゃない。
イメージすればそれが相手に伝わるほどの、確かなものだ。
言葉は理解出来ない。
でも、心で本当に繋がったんだと思う。
その日の昼、アーシュ達はハールに呼ばれた。
ハールとリンランディアが、アーシュ達に何かを説明している。
そしてアーシュに渡されたのは、リンゴのような果実だった。
この果実に何かあるのか?
あのハールがアーシュに直接渡した果実だ。
ただの果実ではないぐらい、俺だって想像できる。
きっとこの果実はやばい代物だ。
天女が言っていた、試練に関係するのか?
どちらにしても、俺はアーシュと一緒に行くだけだ。
もう迷わない。
俺はアーシュの刀として、アーシュと共に生きる。
空白持ち主のチェックが外れたことにも期待できるが、仮にまたあの気持ち悪い感触に襲われても、今度は俺の意思で跳ね除けてやる!
そう思っていたら、アーシュから魔力が流れてきた。
“ルシラは独りじゃない”“今度は2人で打ち勝とうね”と。
アーシュの心が俺を満たしてくれた。
時は遡る。
1匹のガーゴイルは満たされていた。
ひ弱なゴブリンの誘いに乗って行ってみれば、そこには1匹のサキュバスがいた。
そして、好きにしてよいと。
ガーゴイルは喜んでサキュバスを犯した。
事を終えたガーゴイルにゴブリンは、もっと多様なサキュバスや女を集めると言った。
ガーゴイルは自分も協力すると伝えた。
ゴブリンは仲間を得た。
ただ、このガーゴイルと繋がったことは、巣のボスには内緒にした。
数日後、ガーゴイルが調達してきたサキュバスや、メデューサ、人魚などがお店に入店した。
ゴブリンの店は瞬く間にある一帯で有名になっていった。
ゴブリンの巣も潤い、ボスだったゴブリンロードは、ゴブリンキングに進化していった。
ただ、平穏な日々は長く続かなかったのだ。
オーク達が攻めてきた。
その情報はガーゴイルによって、一番最初にゴブリンの耳に入った。
彼はすぐにボスにそのことを告げたが、ゴブリンキングになって調子に乗っていたボスは、ゴブリンの忠告を聞かなかった。
ゴブリンはこのボスを見限った。
すぐに、お店の中でも人気の高いものを連れて、ガーゴイルと共に逃げ出した。
システムは出来つつある、あとは自分がボスとなり、今度は上手くやって見せる。
ゴブリンの目には光り輝く闘志が宿っていた。




