第23話 天女
オークとの戦いの後、私が目覚めた時には既に里に戻っていた。
自分の部屋で眠っていた私のベットには、疲れてもたれかかるように眠るベニちゃんとラミアの姿があった。
私のことを看病してくれていたんだと思う。
そして、私の手にはしっかりとルシラが握られていた。
私は胸がまだ痛むけど、オークとの戦いで受けた傷が治っていることに気付く。
きっとルシラが私に、あの優しい魔力を流し続けてくれたんだ。
いまはルシラから力が感じられない。
眠ってしまったのかな?
あの夢を見るようになってから、ルシラも眠るようになったんだと思う。
だって、夢で私と逢っているから。
だから、この時、私はルシラの異変にすぐに気づけなかった。
数日の療養で、私はすっかり元気になった。
ラミアの水で治療してもらって、茨で出来た傷跡はすっかり消えてなくなった。
みんなもオークとの戦いでの武勇伝の話に花を咲かせて楽しそう。
でも、私は笑顔でみんなに答えながらも、心は何一つ楽しんでいなかった。
ルシラが……私の想いに応えてくれなくなったから。
どうしてだろう、あの時、力を失ったのとは違う。
ルシラが苦しんでいる様子もないし、混乱している様子もない。
まるで自分の殻に閉じこもってしまったみたい。
気にしてるの? 私は大丈夫だよ。
私は何も気にしてないよ。
だから私の想いに応えて……ルシラ。
ベニとラミアに少し疲れたからと伝え、アーシュは1人、自分の部屋に戻ってきた。
ルシラを握りしめて、机の前でぼ~っとしている。
その時、部屋のドアが開いて一人の女性が入ってきた。
美しい女性。
天女という言葉が一番似合うかもしれない。
そして、着ているのは着物。
綺麗な黒髪に色白の女性は、アーシュを慈しみの目で見ている。
「お母様……」
アーシュの口から出た言葉はお母様、この女性はアーシュのお母さんだ。
「久しぶりね、アーシュ。元気にしていた?」
「うん。元気……だよ」
「うふふ。表情ですぐに心が見えちゃうの変わってないわね。お母さんに嘘ついちゃだめでしょ」
母は豊かな胸でアーシュを抱きしめる。
「強くなったわね。アーシュからとても大きな力を感じわ。」
「うん。私ちょっとだけ強くなったんだ。でも全然ダメ。全然ダメなんだよ。」
(私はルシラに頼ってばかり……)
母は涙目のアーシュを優しく抱きしめて髪を撫でてあげる。
「大丈夫よ。アーシュの心は真っ直ぐに成長しているわ。だから自分を信じて。自分を信じられないと、他人を信じてあげることも出来ないわ」
「自分を……信じる」
「そうよ。それに……」
ムニュ~♪
母は突然、アーシュの胸を揉む。
「きゃっ! ちょっとお母様!」
「うふふ、ごめんなさい。娘の成長をついつい確かめたくて。恋する女はすぐに成長しちゃうから。この小さくて可愛い感触もお母さんは好きだから、記念に覚えておきたかったのよ」
「別に小さくないもん!」
「大丈夫よ。アーシュはお母さん似だから、きっと大きくなるわ」
母はその豊かな胸を娘に見せつけるように、胸を張る。
「お母様はどこに旅にいっていたの?」
「ちょっと旧友に会いに行ったのだけど、残念ながら会えなかったわ」
「そっか。またすぐに行っちゃうの?」
「ええ、すぐに発つわ。アーシュにいろいろ教えてあげたいけど、今はちょっとやらなくてはいけないことがあるの。」
「お父様とは会ったの?」
母の眉がぴくりと動く。
「まだよ……でもちょっと今回は会っていくわ。出来れば顔も見たくないけど」
「またそんなこと言って。お父様のこと許してあげてよ。この前もお酒飲んで酔った時に、お母様のこと話していたよ」
「アーシュは私と同じようになったらだめよ。良い人を捕まえて、捕まえた後もちゃんと見ておくのよ」
「私はお母様とお父様の娘であることを、誇りに思っているからね」
母は愛娘の頭を嬉しそうに撫でる。
そして娘が大事に持って離さない棒を見つめる。
「アーシュ。ちょっとその棒貸してくれないかしら?」
「え……どうして」
「大丈夫。取ったりしないわ。アーシュの大切な棒に、ちょっとおまじないをするだけ」
母はアーシュから棒を受け取ると、目をつぶり手に力を込める。
「持ち主が追加されました」
なんだと? 追加された?
アーシュの部屋に突然やってきた女性。
日本の神話に出てくるような着物を着た、まるで天女のようなこの女性が俺を持った時、システム音が響いた。
それは今まで聞いたことのない、「追加」という言葉だった。
新たな持ち主が登録される時にいつも響いていた言葉とは違う。
強制的に俺の持ち主になったのか?
ステータス
木の棒
状態:天女の木の棒
レベル:1
SP:1
スキル:無し
天女は俺に魔力を流してくる。
魔力スキルを取っていない俺は激痛を……感じなかった?
え? どういうことだ?
どうして激痛を感じない?
(何処こよりこの木に宿りし大いなる御心よ。どうか娘の想いにその御心を向けてくださいませ。この木にかけられていた呪いは、私の力で祓いました。どうか、娘をお守りください)
その女性が心で俺に伝えてきた言葉は日本語だった。
転生者? 大ちゃんと同じなのか?
スキル取得一覧を見ても、日本語スキルはない。
俺からこの女性に話しかけることは出来ない。
女性の言葉をただ聞くだけ。
(この子がこれから向かう先で大いなる試練が待っています。どうかこの子の側で、この子の想いに応えてやってください)
試練? アーシュに試練が待っている?
女性は俺をアーシュに戻すと、すぐに部屋を出て行った。
俺は去っていく天女の後ろ姿をただただ呆然と見送った。
メモリー
1.ゴブリンロード(死亡)
2.ゴブリン□
3.ひょろひょろおじさん□
4.空飛ぶ少女☑
5.怪しい女王☑
6.聖女☑
7.優しい王子☑
8. □
9.悪魔のゴブリンロード(死亡)
10.純粋なるオーク(死亡)
11.アーシュ☑
12.ベニちゃん☑
13.ラミア☑
14.天女☑




