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伝説の木の棒 後編  作者: 木の棒
第3章 戦い
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第22話 失意

 ベニとラミアは、意識を失ったアーシュの生存を確認した後、戦線から離脱。

 後方部隊のところにアーシュを届けるために走った。


 上空では、リンランディアが大蛇と激しい戦いを繰り広げている。




「本気ではなく遊んでいるだけだろうが、それでもこれほどとは。“一の時”に生まれし者達は別格と、改めて思い知るよ、サタン」


「そうでもないよ、氷王。君のその神弓「シヴァ」の嵐を久ぶりに浴びたけど、その弓をそこまで使いこなせた者は記憶にないさ」


「お褒めの言葉を頂き恐縮する限りだよ!」



 弓から放たれる矢は、嵐のように大蛇を襲う。

 だが、ダメージを与えているとは思えない。



「“鍵”は貴様が持っているのだろう?」


「持ってるよ。欲しいの?」


「白々しい言葉だ。貴様の気まぐれでベルゼブブを地上界に送ったのだろうが!」



 大蛇の一部を氷漬けにする。

 そのまま氷のように砕こうとするが、大蛇の魔力で氷はあっという間に溶けてしまう。



「大丈夫だよ。ベルゼブブは死んだから。君の大事な奥さんと娘は無事だよ」


「何を企んでいるサタン!!」


「別に何も……僕はただ遊んでいたいだけ。それが僕が受けた神からの意思だから」


「迷惑な神の意思だな!」


「いいのかい? 神に向かってそんなこと言っちゃって」


「神罰なら既に受けているからな!」


「ははっ! そうだったね。」



リンランディアは全力だ。

氷王と呼ばれ、嵐を呼ぶ神弓「シヴァ」で全力で攻撃している。

それでも、この大蛇の鱗を傷つけることすら出来ない。



「ハールと会ったのだろう? 彼はどこだ?」


「オーディンなら、僕の作った玩具と遊んでいるよ」


「玩具?」


「上手く作れたと思ったんだけどな~。でもやっぱりダメだね。僕には創ることは出来ない」



 オークの巣の中心から、巨大な雷が、地から天へと昇っていく。



「あ~あ、終わっちゃったかな」



 氷王と大蛇の前に、8本脚の軍馬に跨り、その槍にオークを串刺し、真っ赤な血を浴びた黄金鎧を着たハールの姿があった。



「ハハハッ! 楽しかった! 久しぶりに歯ごたえある相手だったぞ!」



 ハールは心底嬉しそうだ。



「もうちょっと持つかな~って思ったけど、ダメだったね」


「それじゃ~約束通り、次はお前が遊んでくれるんだろ?」



 リンランディアも弓を構える。

 もとより2対1が卑怯だと思う相手ではない。



「遊んであげたかったけど、トゲも刺せたし……そろそろ帰るよ」


「トゲ? また悪巧みか?」


「そんなところかな。お土産置いておくね。またね、雷帝に氷王」



 ハールとリンランディアが同時に雷と嵐の矢を放つが、爆発の後に残ったのは脱皮して残った大蛇の皮と、1つの果実だけだった。




 戦いは終わりへと向かっていった。

 オーク達の敗走が始まったのだ。


 自分達の首領が倒されたことが分かったのか、巣を放棄して散り散りになって敗走していく。

 中には、お気に入りのサキュバスと一緒に逃げだそうとするオークまでいる。


 サキュバス達も逃げていく。

 里の者達が自分達のことを受け入れないと知っているのだ。

 捕まれば、そこに待っているのは死であろう。



 リンランディア達は、逃げだしたオーク達を殲滅していく。

 ハールのやる気がゼロであること以外は、みんなよく動いた。


 ただ、ハイオークに進化した主だった者達は殲滅出来たので、1匹残さず倒すという必要もない。

 彼らも、この暗黒世界の住人なのだから。



 ベニとラミアは、アーシュの側から離れない。

 いまだに意識が戻らないアーシュを心配している。


 やる気を無くしたハールが戻ってきて、アーシュの様子を見にきたが、「心配ない」の一言で去っていった。

 彼は、愛娘の胸の中に刺さったままのトゲに気付いているのだろうか。

 その視線は一瞬、愛娘の胸に向けられたように見えた。



 数時間後、戦は里の死亡者ゼロという形での大勝利で幕を閉じた。


 ハールの狼に跨り、里に凱旋するみんな。


 アーシュは意識が戻らず、ハールが抱えての凱旋となった。










 俺はアーシュにひたすら癒しの魔力を送った。

 アーシュがこんなにもひどい傷を負ったのは、俺のせいだ。


 俺の意識がなくなっている間、俺はアーシュを傷つけ続けたのだろう。

 アーシュの美しい肌が痛々しいほどに傷ついていた。


 暗闇の中に囚われていた俺を救ってくれたのは、アーシュの声だった。

 俺の名前を何度も何度も呼んでくれた。


 俺があの苦しみに耐えられず、意識を手放したせいだ。

 傷ついたアーシュを見る度に、自分に怒りと情けなさを感じる。


 どうして、俺は耐えなかった。

 戦闘中だったんだぞ。


 あれくらいの苦しみ……アーシュが受けた苦しみに比べたらずっと軽かったはずだ!


 くそっ、いったいあれは何なんだ?!

 前にも突然俺の力を奪い、意識を奪っていこうとしていた。


 間違いなく言えることは、空白の持ち主だ。

 あいつが何かしてやがる!!!!


 どうやって、俺に触れずに俺に干渉しているんだ?!


 前回はゴブリンキングが倒されただけで、それほど深く考えなかったが、今回のようにアーシュに危害が及ぶことを思うと、これはもう分からないでは済まされない。

 俺に強制的に力を発動させるだけではなく、俺の力を強制的に奪うことも出来るとは。



 今度もまた同じようなことになったら?


 またアーシュを傷つけてしまったら?


 取り返しのつかないことになってしまったら?



 俺はもうアーシュに持ってもらわない方がいいんじゃないか?

 アーシュに持ってもらえるような武器ではない。


 アーシュの想いに応えない。

 力を出さないようにしよう。


 ただの木の棒となって、アーシュに捨ててもらおう。


 アーシュは俺を持つ前は、刀を持っていた。

 あの刀だってきっと良い刀のはずだ。


 電光石火だって、もう俺無しでも立派に使いこなせるじゃないか。

 そうだよ、俺がどうして必要なんだ?


 要は強い武器を持てればいいんだ。

 俺である必要はない。


 俺がアーシュに持っていて欲しかっただけだ。

 俺の勝手な希望だ。


 こんな、いつ力がなくなるか分からない棒なんかより、強い刀を持った方がいいに決まっている。


 ……ごめんなアーシュ。


 俺のせいで、こんな姿に。


 今は、今だけは、君に癒しの魔力を流すことを許しておくれ。








 アーシュが目覚めた後、俺はアーシュに魔力を流すことをやめた。


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