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伝説の木の棒 後編  作者: 木の棒
第3章 戦い
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第20話 再会

 俺の推測では、ハイオークキングのようなキング級になれるのは種族で1匹だけだと思っていた。

 それなのに目の前に3匹のハイオークキングがいる。


 どうしてだ?

 仮に目の前のハイオークキングが俺によって進化したやつじゃないとすれば、あいつはどうなった?


 さらに……何かに進化したのか?

 キングの上?嫌な予感がする。


 ただ今は、その疑問は後回しだ!



 3匹のハイオークキングはアーシュ達に襲いかかってくる。

 速い!そしてなんて馬鹿力だ!!!


 ベニちゃんは鬼神、ラミアは白蛇をすぐに発動する。

 俺も雷神刀の出力最大だ。


 それぞれが1匹を受け持つように、散っていく。

 1つの場所で戦っていたら、お互い不測の事態を招きかねない。


 里のみんながハイオークキングを認識すると、アーシュ達が戦いやすいように、周りのオーク達を殲滅したり、誘導したりしていく。


 ハールはこのハイオークキングは素通りなのか、もっと奥に向かったようだ。

 さらに奥から禍々しい魔力を感じたのか?


 アーシュ達への試練のつもりか……まったくお前が倒せば話が早いのに。

 いや、これも成長した愛娘達への本番での卒業試験か。


 いつまでも雷帝の庇護を受けるのではなく、自分達の力で強い相手を倒していかなければ、本当の強さは得られない。


 ま~でも、心強い味方が見守ってくれているけどな。


 上空を飛ぶリンランディアが、アーシュ達の状況を認識してやってきた。

 空から、嵐を起こす弓でハイオークキングを牽制する。


 上空からの援護をもらい、戦い始めるアーシュ達。

 リンランディアの上空からの援護があれば、1対1でも有利に戦えるだろう。


 ハールが向かった奥には、たぶんあいつだ。

 俺によって進化したキングがいるはずだ。


 あいつはいったいどうなっているんだ?

 何に進化しているんだ?


 あのハールが負けるとは思えないけど、どうも嫌な予感がする。

 胸騒ぎがする……ハール気をつけろよ。













「こっちか」



 戦場を駆け抜けてきたというのに、返り血1つ浴びてない男が、オーク達の巣の中心で最も奥深い場所にやってくる。


 その奥から感じる“強き者”を求めて。



「ほう……面白いな」



 そこで男が見たものは、1匹のオークだった。

 身体の大きさは、普通のオークと一緒だ。


 見た感じ、特別変わったことはない、ただのオークに見える。

 ただのオークが小さな泉の前で座って男に背を向けている。



「純粋種か」



 男は呟く。



「どうやって純粋種になったんだ。お前の力だけでは不可能だろう。ん? ……お前何を食っている?」



 泉に浮かぶ何かを食べるオーク。

 男の言葉も、男の存在も無視して、その実を食べている。

 オークが食べているその実を見た時、男の顔には驚きの表情が浮かんだ。



「禁断の実。そうか、お前……おい、いるんだろ? 出てこいよ、サタン」



 男がサタンの名を口にする。


 すると、泉の水が集まり1人の子供にその姿を変えた。

 水の上に立っているように見えるその子供は、フードを被り表情が見えない。



「久しぶり」


「お前の仕業かこれは。オークの純粋種なんて作ってどうするつもりだ?」


「別に……ただ遊んでいただけだから」


「あっそ」



 男は手に持つ白銀の槍から、稲妻を走らせる。


 だが、その輝く光が彼らに届くことは無い。



「チッ」


「すごいでしょ? 雷帝の雷が届かないオークなんて、面白いでしょ?」


「ああ、面白いな。食べているのがそれじゃなかったらな。天界から盗んできたのか? それともアルフがくれたのか?」


「さぁね」


「ま~どっちでも俺は構わないさ。それより天界への鍵持ってんだろ? ちょいと貸してくれよ。天界いってアルフのやつをぶっ飛ばしたいんだ」


「う~~~ん、どうしようかな」


「お前だってその方が面白いだろ?」


「君に興味ないから、僕」


「おいおい、つれねぇ~な~。同じ“一の時”から生きてる仲じゃねぇ~か」


「君に興味ないけど、君の娘にはちょっと興味あるかな」


「……あの棒はなんだ?」


「よかったね。娘が強くなって」


「あれもお前の仕業なんだろ? お前1人でやってるのか? それとも裏にアルフがいるのか?」


「さぁね」


「お前ら何だかんだで仲いいもんな~。おじさん羨ましいよ」


「“アマテラス”を妻に迎えた君を、アルフは羨ましがっていたよ」


「俺がアルフに嫌われてたのって、やっぱりそれ?」


「そうじゃないの? 神酒を飲んだくらいで、天界を追放されるのおかしいし。おまけに神の守護獣フェンリルに追われて片目失うなんてね」


「ま~そのアマテラスにも逃げられちまったけどな。犬っころは元気しているのか? 天界いったら、あいつとも決着つけないとな」



 男はぽりぽりと耳をかく。



「ずいぶん呑気に僕と話しているけど、娘達の心配はいいの? 今ごろ豚の王と戦ってると思うよ」


「あ~大丈夫だ。あいつら強くなったからな。氷王もいることだし」


「ふ~ん。でも娘は棒無しでも勝てるのかい?」


「あん?どういうことだ?」


「さぁね」


「ま~いいさ。やっと会えたんだ。久しぶりにドンパチやろうぜ。ついでに天界の鍵ももらうから」


「君には興味が無いって言ってるじゃないか。」


「俺じゃなくてアーシュがいいってか? 手出してもいいけど、噛みつかれるぞ」


「噛みつかれても、調教すればいいだけさ」


「あっそ」



 再び稲妻が、サタンを襲う。


 その稲妻を弾いたのは、オークだ。


 片手で稲妻を弾くと、ゆっくりと立ち上がる。



「この子に勝てたら遊んであげるよ。またね、“オーディン”」



 サタンが水の泡となり消えると、オークが振り向く。


 男を獲物と認識したようだ。



「変わらないな~あいつは。……さてと、久しぶりに面白そうな相手だ。本気といくか。」



 男の鎧が黒から黄金色へと変わる。


 そして槍を構えると、その名を呼ぶ。



「いくぞ、グングニル!」



 男とオークの戦いが始まる。

 それは、次元の違う戦い。


 この場に男以外の誰かがいたとしても。男はその者を気遣うことは出来なかったかもしれない。

 男はオークとの戦いの中で満面の笑みを浮かべる。


 久しぶりに全力を出せる相手。

 自分の全力でも一瞬で死なない相手。


 戦うために生まれ、戦うことを求めて、戦うことしか出来ない男。

 そんな男の欲望をオークは満たしてくれた。


 子供が新しい玩具に夢中で遊ぶように、男はオークとの戦いに夢中になっていった。

 









 ハイオークキングと戦うアーシュ達は善戦していた。

 アーシュ達が有利だ!俺はそう確認していた。


 リンランディアの援護があるとはいえ、アーシュ達の動きの良さについてこれてない。


 ベニちゃんとラミアも、まだまだ鬼神と白蛇でいることに問題ないように感じる。

 持久戦に持ち込まれたとしても、勝つのは俺達だろう。


 そう思っていた時だ。


 ハールが向かった奥の方から、とんでもない魔力の高まりを感じた。

 1つはハールの魔力だ。


 もう1つはなんだ?

 ハールに負けないほどの魔力だ。


 これは、あいつなのか?

 あの俺が進化させたキングなのか?


 桁違いの魔力を感じた後、さらに事態は動く。



 山の上に突然大蛇が出てきた。


 でかい、ラミアの白蛇なんかより全然でかい!!!

 な、なんだこいつ?!



 この大蛇の魔力もハール級か?桁違いだ!

 真っ先にその大蛇に向かったのは、リンランディア。


 アーシュ達の援護を見切り、すぐに大蛇との戦闘に入った。

 その存在を止めることが出来るのは自分だけだと、一瞬で判断したのだろう。


 嵐を呼ぶ弓を全力で引く。

 大蛇に向かって起きる嵐、その中にリンランディアの氷の魔法が撃ち込まれる。


 鋭い氷の結晶が嵐の中で大蛇を襲う。

 リンランディアも強いと思っていたけど、本気の彼も桁違いだな。


 だが、大蛇にダメージを与えられているのか微妙か?

 あの嵐の中からは、大蛇の魔力が高まるばかりだ。



 リンランディアの援護を失ったアーシュ達だったが、すでにダメージを負っているハイオークキング相手に優勢は変わらない。


 上空からの援護を失い、3人の位置はさらにバラバラとなって目視では見えなくなったが、感じる魔力の強さから、ベニちゃんとラミアも問題ないはずだ。



 アーシュだって、あと数回の打ち合いで勝負を決することが出来る。


 アーシュが勝つ!


 アーシュの勝利を確信したその時……






「   の悪戯が発動します」





 え?



 この感じ、あの時の……ぐああああああ!!!!!


 く、苦しい……なんだ……あの時とは違う!!!!!


 気持ち悪い程度じゃない、苦しい……ああ……息が止まるような……ぐああああ!!!


 意識が……ア、アーシュ……。








 雷神刀は、ただの棒に戻っていった。


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