第20話 再会
俺の推測では、ハイオークキングのようなキング級になれるのは種族で1匹だけだと思っていた。
それなのに目の前に3匹のハイオークキングがいる。
どうしてだ?
仮に目の前のハイオークキングが俺によって進化したやつじゃないとすれば、あいつはどうなった?
さらに……何かに進化したのか?
キングの上?嫌な予感がする。
ただ今は、その疑問は後回しだ!
3匹のハイオークキングはアーシュ達に襲いかかってくる。
速い!そしてなんて馬鹿力だ!!!
ベニちゃんは鬼神、ラミアは白蛇をすぐに発動する。
俺も雷神刀の出力最大だ。
それぞれが1匹を受け持つように、散っていく。
1つの場所で戦っていたら、お互い不測の事態を招きかねない。
里のみんながハイオークキングを認識すると、アーシュ達が戦いやすいように、周りのオーク達を殲滅したり、誘導したりしていく。
ハールはこのハイオークキングは素通りなのか、もっと奥に向かったようだ。
さらに奥から禍々しい魔力を感じたのか?
アーシュ達への試練のつもりか……まったくお前が倒せば話が早いのに。
いや、これも成長した愛娘達への本番での卒業試験か。
いつまでも雷帝の庇護を受けるのではなく、自分達の力で強い相手を倒していかなければ、本当の強さは得られない。
ま~でも、心強い味方が見守ってくれているけどな。
上空を飛ぶリンランディアが、アーシュ達の状況を認識してやってきた。
空から、嵐を起こす弓でハイオークキングを牽制する。
上空からの援護をもらい、戦い始めるアーシュ達。
リンランディアの上空からの援護があれば、1対1でも有利に戦えるだろう。
ハールが向かった奥には、たぶんあいつだ。
俺によって進化したキングがいるはずだ。
あいつはいったいどうなっているんだ?
何に進化しているんだ?
あのハールが負けるとは思えないけど、どうも嫌な予感がする。
胸騒ぎがする……ハール気をつけろよ。
「こっちか」
戦場を駆け抜けてきたというのに、返り血1つ浴びてない男が、オーク達の巣の中心で最も奥深い場所にやってくる。
その奥から感じる“強き者”を求めて。
「ほう……面白いな」
そこで男が見たものは、1匹のオークだった。
身体の大きさは、普通のオークと一緒だ。
見た感じ、特別変わったことはない、ただのオークに見える。
ただのオークが小さな泉の前で座って男に背を向けている。
「純粋種か」
男は呟く。
「どうやって純粋種になったんだ。お前の力だけでは不可能だろう。ん? ……お前何を食っている?」
泉に浮かぶ何かを食べるオーク。
男の言葉も、男の存在も無視して、その実を食べている。
オークが食べているその実を見た時、男の顔には驚きの表情が浮かんだ。
「禁断の実。そうか、お前……おい、いるんだろ? 出てこいよ、サタン」
男がサタンの名を口にする。
すると、泉の水が集まり1人の子供にその姿を変えた。
水の上に立っているように見えるその子供は、フードを被り表情が見えない。
「久しぶり」
「お前の仕業かこれは。オークの純粋種なんて作ってどうするつもりだ?」
「別に……ただ遊んでいただけだから」
「あっそ」
男は手に持つ白銀の槍から、稲妻を走らせる。
だが、その輝く光が彼らに届くことは無い。
「チッ」
「すごいでしょ? 雷帝の雷が届かないオークなんて、面白いでしょ?」
「ああ、面白いな。食べているのがそれじゃなかったらな。天界から盗んできたのか? それともアルフがくれたのか?」
「さぁね」
「ま~どっちでも俺は構わないさ。それより天界への鍵持ってんだろ? ちょいと貸してくれよ。天界いってアルフのやつをぶっ飛ばしたいんだ」
「う~~~ん、どうしようかな」
「お前だってその方が面白いだろ?」
「君に興味ないから、僕」
「おいおい、つれねぇ~な~。同じ“一の時”から生きてる仲じゃねぇ~か」
「君に興味ないけど、君の娘にはちょっと興味あるかな」
「……あの棒はなんだ?」
「よかったね。娘が強くなって」
「あれもお前の仕業なんだろ? お前1人でやってるのか? それとも裏にアルフがいるのか?」
「さぁね」
「お前ら何だかんだで仲いいもんな~。おじさん羨ましいよ」
「“アマテラス”を妻に迎えた君を、アルフは羨ましがっていたよ」
「俺がアルフに嫌われてたのって、やっぱりそれ?」
「そうじゃないの? 神酒を飲んだくらいで、天界を追放されるのおかしいし。おまけに神の守護獣フェンリルに追われて片目失うなんてね」
「ま~そのアマテラスにも逃げられちまったけどな。犬っころは元気しているのか? 天界いったら、あいつとも決着つけないとな」
男はぽりぽりと耳をかく。
「ずいぶん呑気に僕と話しているけど、娘達の心配はいいの? 今ごろ豚の王と戦ってると思うよ」
「あ~大丈夫だ。あいつら強くなったからな。氷王もいることだし」
「ふ~ん。でも娘は棒無しでも勝てるのかい?」
「あん?どういうことだ?」
「さぁね」
「ま~いいさ。やっと会えたんだ。久しぶりにドンパチやろうぜ。ついでに天界の鍵ももらうから」
「君には興味が無いって言ってるじゃないか。」
「俺じゃなくてアーシュがいいってか? 手出してもいいけど、噛みつかれるぞ」
「噛みつかれても、調教すればいいだけさ」
「あっそ」
再び稲妻が、サタンを襲う。
その稲妻を弾いたのは、オークだ。
片手で稲妻を弾くと、ゆっくりと立ち上がる。
「この子に勝てたら遊んであげるよ。またね、“オーディン”」
サタンが水の泡となり消えると、オークが振り向く。
男を獲物と認識したようだ。
「変わらないな~あいつは。……さてと、久しぶりに面白そうな相手だ。本気といくか。」
男の鎧が黒から黄金色へと変わる。
そして槍を構えると、その名を呼ぶ。
「いくぞ、グングニル!」
男とオークの戦いが始まる。
それは、次元の違う戦い。
この場に男以外の誰かがいたとしても。男はその者を気遣うことは出来なかったかもしれない。
男はオークとの戦いの中で満面の笑みを浮かべる。
久しぶりに全力を出せる相手。
自分の全力でも一瞬で死なない相手。
戦うために生まれ、戦うことを求めて、戦うことしか出来ない男。
そんな男の欲望をオークは満たしてくれた。
子供が新しい玩具に夢中で遊ぶように、男はオークとの戦いに夢中になっていった。
ハイオークキングと戦うアーシュ達は善戦していた。
アーシュ達が有利だ!俺はそう確認していた。
リンランディアの援護があるとはいえ、アーシュ達の動きの良さについてこれてない。
ベニちゃんとラミアも、まだまだ鬼神と白蛇でいることに問題ないように感じる。
持久戦に持ち込まれたとしても、勝つのは俺達だろう。
そう思っていた時だ。
ハールが向かった奥の方から、とんでもない魔力の高まりを感じた。
1つはハールの魔力だ。
もう1つはなんだ?
ハールに負けないほどの魔力だ。
これは、あいつなのか?
あの俺が進化させたキングなのか?
桁違いの魔力を感じた後、さらに事態は動く。
山の上に突然大蛇が出てきた。
でかい、ラミアの白蛇なんかより全然でかい!!!
な、なんだこいつ?!
この大蛇の魔力もハール級か?桁違いだ!
真っ先にその大蛇に向かったのは、リンランディア。
アーシュ達の援護を見切り、すぐに大蛇との戦闘に入った。
その存在を止めることが出来るのは自分だけだと、一瞬で判断したのだろう。
嵐を呼ぶ弓を全力で引く。
大蛇に向かって起きる嵐、その中にリンランディアの氷の魔法が撃ち込まれる。
鋭い氷の結晶が嵐の中で大蛇を襲う。
リンランディアも強いと思っていたけど、本気の彼も桁違いだな。
だが、大蛇にダメージを与えられているのか微妙か?
あの嵐の中からは、大蛇の魔力が高まるばかりだ。
リンランディアの援護を失ったアーシュ達だったが、すでにダメージを負っているハイオークキング相手に優勢は変わらない。
上空からの援護を失い、3人の位置はさらにバラバラとなって目視では見えなくなったが、感じる魔力の強さから、ベニちゃんとラミアも問題ないはずだ。
アーシュだって、あと数回の打ち合いで勝負を決することが出来る。
アーシュが勝つ!
アーシュの勝利を確信したその時……
「 の悪戯が発動します」
え?
この感じ、あの時の……ぐああああああ!!!!!
く、苦しい……なんだ……あの時とは違う!!!!!
気持ち悪い程度じゃない、苦しい……ああ……息が止まるような……ぐああああ!!!
意識が……ア、アーシュ……。
雷神刀は、ただの棒に戻っていった。




