8
――再び夢を見た、あの夢を。
深淵の中、裸で両足を抱えた弥生がずっと海底に沈んでいく。
この夢を何度見たのだろうか、でも弥生に触れることなくいつも冷めていた。
きっと弥生に会いたい一心で、僕はこの夢を見せられているのだろう。
いつも通り、弥生は海底に沈んでいき僕は必死に泳いで追いかけていた。
(弥生……会いたい)
だけど、僕が近づくことはない。手を伸ばせば伸ばすほど、弥生がどんどん遠ざかっていく。
それでも僕は弥生に会いたかった、近づきたかった、抱きしめたかった。
「弥生……どこにいるんだ?」
苦しくもがく僕、弥生に近づくために泳いでいた。
必死になって、海底奥に向かう僕の頭の中にある声が響いてきた。
「そんなに私が大事なの?今にも消えそうなのに」
「弥生、どこだ?」
紛れもない弥生の声、かわいらしい妹の声が僕の頭に響いていた。
「兄さんが頑張る姿が、私は好きだった。だけど、今の兄さんには私は合わせる顔がないの」
「弥生、何を言っている?恥らうことはない、僕は助け出してやるから」
「だって私、いないことになっているから」
「そんなことない、弥生はちゃんと存在している。弥生に僕が数字を与えるよ」
声の主が見えない真っ暗な闇の中、僕は海底へ向けて必死に手足を動かしていた。
「そう……数字」
「ああ、与える。弥生を一人にさせたらかわいそうだから」
「兄さん?」
「だから、絶対死ぬな。消えるな、僕が必ず弥生に会いに行くから」
呼吸もできないほど苦しい中、僕は足を抱える弥生のそばにようやくたどり着いた。
裸で両足を抱えた弥生の髪が揺れて、目はうつろだった。
華奢な弥生を、しっかり手を伸ばして抱きかかえた。
「私は兄さんに、頑張って生きてほしいの……」
「弥生……もう大丈……」
やはり僕が最後に声をかけようとしたときに、光が差し込んでいた。
真っ白になって見えた光の先には――
僕の部屋、いつも通りの部屋。アパートの個室が、僕は日常に戻されていた。
いつも通り散らかった部屋に、閉まったカーテンから光がわずかに漏れた。
体を起こした僕は、寝ぼけた目でベッドから降りた。
(頑張るか……そうだな)
立ち上がって僕が最初に目を向けたのは、完成したタッチパネルの情報端末が見えた。