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YAYOI(下)  作者: 葉月 優奈
四話:忘れ去りたい現実
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年末の研究室。僕達の研究は、ようやく結実しようとしていた。

研究所の中には、ホワイトボードがあってテーブルが置かれた場所。

簡易的な教室みたいなものが、この中にあった。


六階にある研究室は、秋の夜空が見えていた。窓から星も見えた。

僕は、ホワイトボードの前に立ってプレゼン。それを見る観客は、夏帆と小泉助教授の二人だけ。

白衣を着ている助教授と、相変わらず大きなリュックを背負う夏帆。

真ん中には、タッチパネルの情報端末。


「それじゃあ、ネットワーク接続するよ」

画面を操作した僕は、無線のスイッチを入れた。既存のファイルがつながって学内ネットワークにつながった。


「おお、つながった」

「つながっていますね」

「やったな、草薙」握手を求めてきた、小泉助教授。

そんな画面を見ながら、僕はあることを考えていた。


「学校のサイト、いろいろ見られるな。ミスコンに、文化祭、後は……」

「『ボスカーヌ』もあるぞ、おおおっ」

なぜか小泉助教授がサイトを調べていると、学校コミュニティを見て感動していた。


「なんですか、『ボスカーヌ』って?」

「『超人戦艦ボスカーヌ』」


小泉助教授は、どこからともなくアニメ雑誌を取り出して僕に見せつけてきた。

雑誌には、CGっぽい戦艦とかっこいい女船長のイラストが書かれていたもの。

僕は、アニメをほとんど見たことがない。

式部島はテレビ局がもともと一つ。ケーブルテレビだけで、アニメはあまりやらないし。


「まさか『超人戦艦ボスカーヌ』を知らないで、草薙は生きてきたっていうのか?」

「ええ、まあ……」

「神アニメの『ボスカーヌ』を知らないのか?」

「またアニメですか、はあ」

「それは、人生の72%損しているぞ」

「72%って随分中途半端ですね」

僕の突っ込みに、小泉助教授はいきなりアニメ雑誌を見てきた。


「これ、アル艦長、こっちがミネリア姫、でこれがメイドの……かわいいだろ!萌えるだろ」

「随分、露出高い服ですね」

明らかに、普通に着たら怪しそうなコスチュームの女性たちがアニメ絵で書かれていた。

戦艦の内装はキラキラしたライト、まるでキャバクラっぽい。

夏帆も、不思議そうな顔で雑誌を覗いていた。

ミネリア姫っていうのは、黒いビスチェっぽいのを着た若い女性か。


「これだから、草薙は……アニメコミュでも、ミネリア姫の萌えパンがヤバイ系だし。

高倉にも、このコスプレをさせてみるか?」

「面白そう」なぜか夏帆も乗り気だ。

「何を言っているんですか、まったくもう」

僕は半ばあきれ顔で、雑誌をしまっていた。


「なんでわかってもらえぬ?ミネリア姫、素晴らしいではないか。

ウチの妻も娘も、コスプレやってくれぬぞ」

「そりゃそうでしょ、それをやらせたらただのセクハラだ」

「私はいいわよ」

「夏帆、相手にするな。助教授の趣味に」

「ここ、嫌いじゃないから」

夏帆は、なぜか不敵に笑みを見せていた。逆に僕は不安になってしまう。


「それより、決めたか?」

「ああ、この端末ができたときに考えるって言ったけど……」

難しい顔で、僕は答えを出せないでいた。


「何の話?」

「ああ、草薙に頼んだんだよ。この研究をもっと別な形で引き継いでほしいって」

「それ、いいわね」

夏帆は、とてもうれしそうな顔を見せていた。学会と同じ、キラキラした顔。


「やりましょう、私はここしか居場所がないから」

「ううん、でも僕にそんな力はないよ」落胆の顔で、端末を見ていた。


「草薙は想像以上に、自分の能力があるのを自覚しているか?」

「いえ、僕にはそんな力はありませんから。論文、書きます」

そのまま、僕はタッチパネルを何気ない顔で操作していた。

自分の作った研究結果は、確かに結実していた。

だけど、それは弥生を忘れるためだけに研究をしていただけだから。


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