第4話 「俺は義妹の家族との過去を無かったことにしたくない」
後半、妙にシリアス展開な第4話。参ります。
「とりあえず料理を作って…、あいつにも謝らなくちゃダメだよなぁ…」
若菜を泣き止ました後、俺は結局台所に立っていた。時刻がすでに午後5時を回っていたからだ。
そろそろ夕食を作り始めないとパーティーどころではなかったため、まず料理を優先することになった。
「よし、ぱぱっと作ってやることやっちまおう」
俺は料理を始めることにした。若菜は泣き止んでいて今はまたテレビを見ている。
(…で、母さんにも連絡取らなきゃな……)
料理をしながら俺は先ほどまで考えていたことをもう一度考える。
(若菜の言葉から考える限り、あいつは絶対前の家族に何かされてる……)
考えられる限り虐待か育児放棄。母さんがそんなことをする人だとは考えにくいけど…。
いや、もしかしたら母さんは俺達以外には厳しいのかもしれない、などと俺の脳内で考えられる限りのことを考える。
それにしても、もしそうだとしてもあの若菜の怖がり方は異常だ。恐らく生半可な虐待ではなかったんだろう。俺が想像していること以上のことがやられていたかもしれないと余計不安になる。
(やめろ、俺が不安になったところでどうにもならないだろ。とりあえず、俺は若菜に優しく接するだけだ……)
そうして色々考えている内に料理がすべて完成した。
ちなみに献立は、
・グラタン ・麻婆豆腐 ・サラダ盛り合わせにチーズ入れたやつ ・味噌汁(赤味噌) ・ウインナー等を乗せたオードブル ・ひとり分ずつ買ってきたアイス(デザート用)
以上だ。俺の家では味噌汁は赤味噌がデフォルト。白味噌は邪道と決まっている。
とまぁそんな話はどうでもよく、俺にはもう一つやらなきゃいけないことがある。
俺は着けていたエプロンを外すと、葵の部屋の前へと向かった。
――葵の部屋前――
「おーい葵。起きてるかー。起きてるなら話があるんだけどー」
ドアをノックしつつ、呼んでみる。もしかしたらふて腐れて寝ているかもしれないが、それでも俺は絶対に謝る。その後も続けて「おーい」とノックし続けてみると、ようやく反応が返ってきた。
「なんだよ…、クソ兄貴…」
思っていた以上に小さい声が返ってきた。もう少し大きい声が返ってくるかと思ったが、呟き程度にしか聞こえない小さな声だ。
「さっきはごめんな。初めての妹ができたんだから、お前が混乱するのも当たり前だよな…。ごめん、本当にごめん」
ドアの前で平謝りする。別に態度を現す必要はないのだが、日本人の習性というやつか。
「…土下座…」
また小さい声が聞こえた。土下座?も、もしかして土下座というのは…。
「あたしが今からそっち行くから、お前土下座しろ」
ですよねー。というか声の大きさがいつもどうりになっているのですが。葵さん、絶対調子乗ってますよね。と思っているとドアが開いて葵が出てきた。
泣いていれば目の下が少しは腫れているかと思ったが全然腫れてないでやんの。ははは、この野郎。まじふざけんなよ。
「ほら、土下座。早くしろよ」
くっ…くそ…、こいつは…。実の兄貴に早く土下座しろだと…?怒るでしかし。
だが俺が謝る側なのだからしょうがない、土下座してやる。
「ど…どうも、すみませんでした…」
土下座した。中学生のころから土下座には慣れてるからな。俺の土下座を見れば大抵のDQNは許してくれるほどだ。
葵も俺の土下座をニヤニヤしながら見ている。どうだ俺の土下座。
「…ふんっ」
ぐはっ。こ、こいつ顔をそっぽ向けると同時に俺の頭を蹴りやがった…。
そしてそのまま何事もなかったかのようにリビングへと向かっている。一応許してくれたっぽいが、あの態度は変わらないのか。
おぉ、神よ、なぜあの子をツンツンにしたのですか。せめてツンデレなら俺にもフラグが……、
「さっさと来いよキモ兄貴」
ないか。
葵に続いてリビングに行くと、若菜がすでに待ち構えていた。
「あっ……」
一瞬ピクリと動いたが、葵を見てまた黙る。やっぱり怖いんだろうか。手に持っていた小さなうさぎのぬいぐるみを胸に近づけて強く抱きしめている。だが、その様子を見た葵から俺が葵からまず聞かない言葉を発した。
「……ごめん」
え?何?今まさかこいつ謝った?葵の声を聞いた俺の食器等を運んでいる足が止まった。
「……え?」
だが若菜にはあまり聞こえていなかったらしい、小声だったからな。俺もギリギリ聞こえた程度だ。
「だから、ごめんって言ってんの!謝ってんだよ!!」
おお、お前また怒鳴ってるけどまさかこいつから謝罪の言葉を聞けるとは。
俺は今猛烈に感動しているぞ我が妹よ。だがそんな怒鳴るだけの謝罪は若菜にはまた怒っているようにしか聞こえなかったらしく、
「ひっ…!」
驚いた後、また身体を震わせている。まったく葵は怒鳴るしか感情表現がないのか。
とりえず食器を置いた後、また涙目になりつつある若菜の頭を撫でる。
「大丈夫だ。このお姉ちゃん…もとい葵はお前に謝ったんだよ、ごめんってな」
俺が仲介役になるのはどうかと思うが、葵もなんでお前が出てくんだよって顔してるし。
しょうがないだろ、若菜今んとこ俺としか親しくないしな。第一こんなブサイクなやつに撫でられたら普通の小学生は引くもんなんだがな…。やっぱり両親の影響かな…。
「よし、飯食おう!ほら、今日は豪勢に作ってみたぞ!」
ええい、こんな変な空気のままパーティーなんてできるか!とにかく食事にすりゃ仲良しだろ!小さい子は!
「どうだ、美味いか?」
「まぁいつもどうり、普通」
お前にゃ聞いてねーよ。お前はいつも俺の飯食ってんだろ、若菜に聞いてんだよ。
「……おいしい……」
お、うれしいこと言ってくれるじゃないの。精一杯作った甲斐があったってもんだ。
「そうかそうか、良かった良かった」
それにしても随分ちまちま食べるんだな。葵はがつがつ食べるけど、それとは正反対か。うーん、ここまで正反対だとどうしたもんか…。
「……」
あれ、無言のままスプーンを置いたぞ。どうした、やっぱりまずかったか俺の飯は。
「……もう食べちゃいけない……」
このセリフのパターンは…、前の家庭での習慣を思い出した感じか。もう食べちゃいけないって…、食事も満足に摂らせてもらえなかったのか?まじかよ…。
「何言ってんだ。もっといっぱい食べていいんだぞ。ほら、葵を見ろ。女の子とは思えないぐらい食べてる」
「ふっへーんはほ、ほまへふぁ(うっせーんだよ、おまえは)」
口の中に物を入れながらしゃべるな、汚ねぇな。それでもその言葉に釣られたのか、若菜はまたスプーンを手に持って食事を再開した。
「お、よしよし一杯食えよ。大きく育ってほしいからな」
といいいつつ葵をチラ見する。こいつの二の舞になってほしくないしな。
「何見てんだよ、あたしだって好きでこんなに小さいわけじゃねー」
まぁそうだろうな、お前が一番気にしてることだし。
「いいじゃねぇか、学校でも一部の子にはすごく好かれてるみたいだし」
「奴らはロリコンだろ」
分かってるじゃねぇか。ちなみに俺の学校にも葵の事を知ってるやつは数人いる。賢二とか。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま……」
よし、なんだかんだ言って3人で完食したな。若菜もそれなりに食ったし、ここの生活に早くなれるといいけどな。
「よし、じゃあ俺食器洗うから。葵と若菜先に風呂に入れよ」
うーいと葵は風呂に入る準備を進め、俺は食器を片そうとする。だが台所に食器を運ぼうとしたとき、急に若菜に足を掴まれた。見ると若菜は上目遣いでこちらを見ている。ロリコンならこれでノックダウンしそうだが、俺はロリコンではないので事情を聴くだけだ。
「どうしたんだ?葵と一緒に風呂に入るんじゃないのか?」
もしまだ若菜が葵を嫌っているなら分からなくもないが、俺の中ではさっきの食事の中で和解できたつもりだったんだが。やっぱり複雑な家庭だとそうも簡単にいかないのかねぇ…。
「…お風呂、お兄ちゃんと入る……」
oh……。こういうときにこんなこと言われるのギャルゲーだけだと思ってたわ。
ま、まぁ確かに俺もこいつの兄だし、それにこいつもまだ小学生だし親の温もりとか知らないだろうし俺がそれを教えてやるのもいいかなと思ったり思わなかったり。
……待て、何をテンパってるんだ俺はこんな心境で大丈夫か。
「大丈夫だ、問題ない」
と若菜に一緒に風呂に入ることを告げる。若菜は少し喜んだような顔を見せ、またリビングへと戻った。
ふぅ、それにしても何をテンパっていたんだ俺は。俺はシスコンでもロリコンでもないはずだ、気を静めろ。
そんなことを考えていると、今度は近くから声がした。
「なにニヤついてんだ、キモいんだよ。早く死ね」
風呂に入る準備を終えた葵の軽い罵倒はスルーする。これぐらい慣れたものだ。
俺は皿洗いを終えたが、葵はまだ風呂から出てこない。
しょうがない、先に終わらせたいことを終わらようと思い、俺はポケットから携帯を取り出した。
ちなみに俺の携帯はスマートフォン。自慢ではないが。
連絡をする先はもう決まっている。当然今用がある人は…、
『はい、もしもし源ですが』
母さんだ。母さんには若菜の過去を聞かせてもらわないと、いや聞かないといけない。
若菜には聞こえないよう、小声で話す。
「母さんか?俺だ、光司だよ」
『…あら何?連絡はしないようにと言ったはずよ』
相変わらずの冷たい反応、だがあいにくこちらは引き下がる気はない。
「今回はどうしても連絡しないといけない用事なんだよ」
『あら…、何かしら?』
「若菜の過去のことだよ」
この言葉を聞いた瞬間、携帯の向こう側から少し舌打ちのようなものが聞こえた気がするが気にしない。
母さん、やっぱり俺がこのことを聞くのを分かってたな。
「あいつの反応、どう見ても普通の子と違う。頭を撫でようとするだけで怖がったり、ほんの少し怒るだけで泣いたり、自分の部屋、十分な食事を与えらると感動するってどう見ても普通じゃないだろ!?教えろ母さん、あの子の過去に何があった」
『…………』
母さんは黙ったままだ。返答に困っているんだろうが、こちらはそれを聞くまで電話を切る気はない。
それからしばしの沈黙の後、
『……分かった、話すわ…』
母さんがようやく声を発した。どうやら若菜の過去の事を話す気になったらしい。
『あの子…、若菜はね、私の元夫に虐待されてたみたいなの』
やっぱりか…。あの反応は虐待以外考えられないしな…。それにしても、私の元夫とはどういうことだろう。母さんは虐待していなかったのか?
『私と元夫が分かれる間際かしら…、あいつ若菜と私に酒の勢いで暴行を加え始めてね。そりゃあもうひどいもんだったわよ。それで私と元夫は分かれる決意をしたんだけど、親権問題で負けてね…。あの子の親権は元夫に移っちゃったわけ。で、当然親権があいつに移った後も暴行は続けられたらしいわ…。それに加えて食事も自分の部屋も与えないで、さらに酷くなったらしいわ…』
ここまで聞いただけで、俺は若菜のあまりの不憫さに泣きそうだった。あいつ、そんなにひどい事されてそれでもまだ生きようと…。
そのまま母さんは話を続けた。
『それであいつ、そんな性格の上に借金まで抱えてたらしくてね、多額の借金抱えて借金取りに追われた挙句最後は自殺。その時まであの子はあいつのそばにいたらしいわ…。それで私があの子から連絡をもらってね、お父さんが死んだって。それを聞いた私は引き取る先の無くなったあの子の預け先をあんたの所にしたわけ』
そんなやつを最後までお父さん扱いできるなんて…あいつ…どれほど苦労を…。
俺は泣きそうになりながらも、最後の質問をした。
「じゃあ一応の質問だけど…、若菜の持ってるウサギのぬいぐるみって…」
『え?まさかあの子、まだあれを持ってたの?』
まだあれをって、まるで自分があげたものみたいな言い方だけど…、まさか…。
『あれは私があの子に編んであげたぬいぐるみよ。これをお母さんだと思いなさいって言って別れ際に渡したのよ。ぬいぐるみの中に私の家への電話番号を書いた紙を入れてね…』
俺はここまで来てさらに驚愕した。まさか母さんにそんな一面があるなんて。
俺には編み物なんて一つもしてくれなかったぞ。これが男と女に対する差か…。あ、でも葵も作ってもらってないな。
「…分かったよ…。若菜は俺たちに任せろ…!絶対安心させてやるから…!」
俺は泣きそうな声で最後にそう伝えた。
『ふふ…、任せたわ。若菜と、葵にもよろしくね…』
と言いつつ母さんも電話を切った。最後に葵にもよろしく言うように言ったのは母親なりの優しさか、それともただの気分か、今の俺にはどうでもよかった。
(若菜は、絶対に俺が安心できるように暮させてやる!見てろよ、母さん!)
ここでキャラステータス変更のお知らせ。
体重とか身長とかの面で。
・葵
身長 150cm→145cmに変更
体重 40数㎏→36㎏
・若菜
身長 135~140cm→130cm
体重 35~45㎏→28㎏
どうでもいいことですが、個人的には重要。
次回は若菜とお風呂、就寝編。光司はどう出る!?