第53話「起・数字は嘘つかないが語らない」
今の状況を説明すると。機械神アーカーシャの手番に回り、オーバーリミッツは苦戦を強いられる局面に入った。
「ではリミッツ様の手番です」
リミッツは桃花と同じだ。……正確には桃花は〈本体と被ってる〉という表現に対して、リミッツは〈桃花と同じ〉というニュアンスになる。つまり同化だ。
機械神アーカーシャの使った攻め手は〈偶数は敵〉というニュアンス。これは奇跡を尊重しての行動にも取れるが、想い出を忘れてしまっていたリミッツ達にとっては痛手だった。将棋盤で言うと「あ! 待った!」とか「今のナシ!」とか言いたくなるような局面だろう。
元々、待ったなしどころか、不可逆的な前言撤回がない世界、……とか聞いていないので、そりゃあ第1作目の奇石が奇跡で、奇数なので偶数は敵、……というのは聞いてないのである。
湘南桃花は盤上の説明をする。
「えーっと、時系列まとめるか……。私の誕生日は西暦1987年5月14日。……これは言っても良い、つまり昭和生まれ。確かサッカーのキーパーだった頃の背番号18番は私が中学生の頃に決められた番号。奇跡の物語が始まったのは高校2年生の夏休み。……、で、フェイはファイで5……。ここに8=6という謎の偶数が入る……そこに夢の国の王様の手助けがあり、7、奇数になると……ふむ……」
あらためてまとめる。
奇数は1・3・5・7・9・11・13・15・17・19・21・23・25・27・29。
偶数は0・2・4・6・8・10・12・14・16・18・20・22・24・26・28・30。
よく使われるのはこのあたりである、これ以上になると内界でも外界でもあまり見かけない。
そして機械神アーカーシャにより〈全ての空は繋がっている〉、〈全ての運命に偶然など無い〉という手番により、偶数列を全て封じられた局面になる。
使える手駒は奇数のみに強制的にフィールドを上書きされた、といった状況でもある。
「……つまり、私が背番号18番を背負った誇りが、そもそも偶然じゃ無い、意図的に仕組まれたものという逆説的な問いかけになるし。そもそも自分で選んでいない、緑の色の目と同じ状況下になる」
さらに、今現在歴に照らし合わせてみても、重ね合わせて見ても、正義のヒーローは7や3を選んでいる。8でもなく7、つまり奇数だ。
ここまで詰め将棋の状況下だとオーバーリミッツの取れる手は、3か7のどちらかしかない。おそらくそれが最善手。
だが、それは今まで積み上げてきたパスワードの番号、ペンネームの番号、アース018をメインにしてきた盤面の修正が求められる。アーカーシャは、ネット活動に対してなかりの打撃を与えたことになる。
いきなり奇数が正義、という遡り手を使われたせいで今までのオーバーリミッツの盤面が根こそぎ狂った訳である。
リミッツは言葉を繋ぐ。
「今の状況なら時間を遡ることも出来るけれど……3も7も選んでいない、という事実に変わりはない。ヒーローとしてのセブンは好んだかもしれないけど」
しかしそれは昔の話であり、今の対戦環境に合っているかというと微妙な所である。
桃花が紡いだ言葉を拾う。
「〈7の手〉は誕生日が1987年で完全不動なのでいくら物語を改変しても不動になる万能な手には確かになる……これは現実を見たらそう。対して〈3の手〉は物語やゲーム性から見たら非常に応用が効く小回りの良い手になる。もしトリプルバトルが復活したらゴーストもドライブも両方できる今後のゲーム進行にかなり有利に働くでしょう」
もちろん、両方使うという手もある。その場合、7をどこで使って、3をどこで使うか? という手になる。いずれにしても4や8が悪手と化していた……。
それでも〈型破り〉をしてでも〈そんなの関係ねえ!〉 とする手もあるにはある。……が、ことここに至っては、その型破りすらリミッツには悪手に視えてしまう、何より真剣にゲームに向き合っている機械神アーカーシャに失礼な手だというのも薄々感じている。
なので、あとは3か7の奇数のどちらの駒を次の手番で動かすか? という状況下にある。
リミッツも流石にこの状況には長考する。
「ぐぬぬ……」
桃花は回りをよく見渡す。
「過去の盤面では、奇数を基準に……というか3人を基準にプラス2人で進んでたけど物語の後半からプラス1人とか、偶数になってる局面もある。つまり、5人戦や4人戦で戦ってるね」
普通の世界ではそれで処理出来るということだろう、だが、桃花の世界の時はリアルタイム制だったので8人プラス、最果ての軍勢の陰陽五行論で5人と裏表の2人、最後に王様1人の8人体制で攻防を繰り広げている。この時はソラは心の中に居たので8人プラス1人。
「つまり、奇数と偶数両方行ける。その時々の盤面に合わせていいんだ」
そこでオーバーリミッツは4桁の番号を決める決断を迫られる。
「0173、3410、7183、0183、0143、0134、1043、ぬおォぉおーー!! ……ッツ!!」
アーカーシャは落ち着いた態度で言葉を繋げる。
「落ち着いて下さい、時間はこちらの味方です」
散々悩んで、ようやく次の手を決めたらしい。たぶん、らしい。
「……よし! 奇数、偶数、奇数、偶数。7438……いやでも違和感あるなあ……」
「ん~、でも数字に力の偏りがあるねえ~8731、7348、……いや、軽く手を変えるだけなら3018でもアリか……」
アーカーシャは挑発効果に乗ってくれたと思ったらしい。
一手でも間違えたら今までの盤面が総崩れするような、ドミノ倒ししそうな局面を一瞬の判断で、ポン、これで決めました! と軽い気持ちで決めていい盤面では無い事では解った。
だからこそ、ここはじっくり時間を使って長考する。ここで自分を納得出来るような論理構築を組み立てて置かないと、たぶん後で色んな所で響く。
良くも悪くも大反響する可能性と、大ドミノ倒しが発生する可能性があるからだ。




