第24話「結・タイムアップ」
EWⅡ、今現在歴2029年11月3日〈土〉16時30分。
ドアの世界沖縄支部、内側、第0000番号室〈中央広場〉。
「わんわん!」
守護霊獣のマイが久々に天上院咲の影からやってきた。
「おーマイじゃないかー元気してたかーヨシヨシヨシ」
「わんわんわん! クウーン!」
元気そうで何よりな小型犬が帰って来た。
「おっすー咲ちゃーん!」
「すまない待たせた」
桃花と姫お姉ちゃんが2人だけの話を終えて中央広場に戻ってきた。
と、そのタイミングでステータスバーからアイテムストレージの追加が発動した。
《天上院姫、信条戦空、湘南桃花、真城和季、天上院咲にマスターキーが与えられました》
「これは?」
「簡単に言うとドアの世界を好きに開けていいよって証。他のプレイヤーは第0119番号室〈鍵保管室〉で個別の鍵を入手しないといけない。が、この部屋に入るには、ギルドカードに登録されたメンバーの指紋認証のロックがかかっている。まあ物理的なロックだな、ミステリーをやるつもりもないから規制はなるべくユルくする」
個別の部屋の鍵は普通の鍵で、1本1部屋対応、マスターキーは5本全部屋対応となっている。
ただし、鍵保管室だけは物理的に指紋認証をしてからでないとその扉は開かない。
鍵の紛失・破損はGMに言って貰えばその時点ですぐ〈元に戻す〉。
無くした、または盗られたらその鍵はGMが〈消す〉そして常に一本の状態になる。スペアキーはない。
「さて、防御力はこのへんでいいだろう。西と東の掲示板でも開くかね~~~~」
GM姫は中央広場でステータスを開く、内向き思考と呼ばれるだけあって流石に結界内の方が安心出来るのだろうことは心理描写的にも大体想像はつく咲だった。
と、その時。魔術の歌声が響いた。
EWⅡ、今現在歴2029年11月3日〈土〉17時00分。
それは未来が来る事を意味していた。
「この歌声、知ってる……」
GM姫も〈経験しているのに驚く〉。
「スズちゃんだ……別の世界線のスズちゃんズだ……」
特に驚いたのは、既に唄い終わったはずの桜愛夜鈴だった。
「歌が聞こえてくる、てことは、戦いはまだ続いてるってこと……?」
同時に、湘南桃花も忘れていた記憶を思い出す。
「こりゃサプライズあるな……通りで右手しか効かない訳だ……」
右手しか効かないということは今は0で未来が1になり、今はまだ0点いくつとか小数点単位の何かの時間進行になっているようである。
永続トラップ〈不自然な光水の灯台〉が魔術として発動して雨を降らせ続けている。
運命に抗うための術が発動していることになる。
「どうする? 来週〈何か〉来るぞ?」
知ってるけど解らない桃花、恐らく変換された何かだと思うが、場所という名の座標がズレている……。
GM姫は進路を変更する。
「ふむ、そうだな、来週何があるか解らん。先行調査隊全員に連絡、一度EWⅠに帰還する。第八の街、全王の世界オールで何が起こるか見ておこう。総員、衝撃に備えろ。私達も沖縄支部から撤退だ」
GM姫が、調査していたプレイヤー達に緊急伝令をステータス画面に流す。
《伝令、全プレイヤーに次ぐ、調査をいったん中止、帰還してください。EWⅠの第8の街で待機して下さい。繰り返します、衝撃波が起こる可能性があります、全プレイヤー待機!》
沖縄支部の東と西チーム、和季と戦空のチームにもこの情報は伝わった。
『聞こえたか戦空、一回帰れってさ』
『うん、聞こえた。新大陸の大地を踏んで、あんまり時間は経ってないけど……』
『そうだな、それこそタイムアップと言う所だろう……戻るぞ。潮時だ』
仕方がないので、両チーム、新大陸、異次元ルミネ市と異次元パルコ市の端っこにドアの世界の仮拠点を設置して。そのドアから沖縄支部へ繋ぎ、更に竜王国にある南海道のEWⅠへ繋がる大転移門へ移動する。
咲が皆に声をかけながら誘導する。
「落ち着いて下さい! まだ時間はあります! 焦らずゆっくりと転移門を潜って下さーい!」
速度が速いので前線が延びてしまったが、幸い気がつくのが速かったこともあり、まだ時間はある。ここは撤退に有効な時間を作ろう。
皆が皆、マスターフォームⅡレベルの速度を持っているかと言うとそうではない。
遅い人は凄く遅い。
この先行調査部隊も、1ターン間を置くぐらいの時間的余裕は作れている。
咲が桃花先生に問う。
「タイムリミットは?」
桃花先生は星を見て、星を読む。
「……今は……7から5ターン分の時間は有るかな……」
GM姫は指示を出す。
「いいか! 吸血鬼大戦でアレだったんだぞ!? 分岐点だと思え! 絶対に許可されるまで第8の街から出るなよ!? 出歩けるのは街中だけだ!」
真城和季が、信条戦空に言う。
「戦空、解ってるよな? 何が来るかは変換されてるので恐らく解らないが」
それは――団結の証――。
「うん……、〈ザ・ユニティ〉が来る……!」
震源地が地響きのように時が来るのを待つ音が聞こえた。
EWⅠ、今現在歴2029年11月3日〈土〉17時00分。
第8の街全王の世界オール、EWⅡ転移門前。
「そういえばここの地図作ってないな、立地どうなってるんだ?」
解ることと言えば、第7の街で何か起こってるということだけだった。
GM姫はしばらくの間この街で皆が待機する事になるので、その地図の製作をする時間ぐらいは有った。
強いて現状で解る範囲でこの立地の情報を上げるなら。
まずギルド広場はある、次に古びたEWⅡへの転移門。
そしてこの街に来てから展開したドアの世界だけだった。あとの情報は記されていない。
「あと6日後に何か起きるのなら拠点とか宿屋とか仮説住宅とかいるかな……」
桃花が何となくそう言った。
「ただいま!」
「結構早めにまた合流できたな」
言ったのは戦空と和季の沖縄東西のチーム合計6人。ドアの世界は繋がっているので設置した扉についてしまえば合流はすぐだった。
GM姫も流石に想定外だったらしく、……むしろ予想していたが忘れてしまっていた事象の出来事がもうすぐ起こる事への混乱と焦りから。
GM姫は緊急事態のアナウンスをステータスから発令。
全プレイヤーに衝撃波に備えよ、との事だった。
さっきも言っていたように、吸血鬼大戦の余波がこれほどまでに広範囲&長期間になることは予想出来ていなかったので。
今回の天上院咲を巡る事件もどれだけ長く波及するのか解らない。
ただ言えることと言えば。「あの時あの瞬間には第8に居ました」という事実を作る事だけだった、運命論の話ではないが、それがあとあと言質として効いてくる。
戦空と夜鈴が見るのは山の向こう側、即ち第7の街方面の見えない戦況状況を気にしていた……。
「ではこれより、第8の街の中限定で自由行動とする!」
GM姫がゲーム進行を指示した。




