第2話「承・現地調査」
今現在歴2025年11月1日〈土〉12時00分。
ドアの世界、0000号室、扉の大広間コネクトハブ。
扉を開けた先には咲と姫と30名ほどの大人数の冒険者達が居た。
BIG4はBIG4で固まる事にする。
「お、来たか。おっすー戦空~夜鈴ちゃーん!」
軽やかに返事をするのは天上院咲だった、ラスボスの大幹部という肩書だが、長年話しているので、その実かなりフレンドリーにはなっている間柄だ。
「ういーっすさっきぶりー、戦空、夜鈴~」
GM天上院姫も挨拶する、ココに来て間もないのでほとんどタッチの差での入室である。
その他、先行部隊の調査団。4人と4チーム。合計16人である。それプラス30人ほどの調査団。
最初の拠点設置したドアの世界はシェルターになっており、かなりよほどの事がない限り破壊されたり、突破されたりすることはない。つまり衣食住の点は問題はない。
まず、咲がここに住む原住民、第1村人から聞いた話によると。
「ココらへんの地域はモンスターが大きく、種類も多く世界的な脅威が感じられる、となっているらしい……」
戦空がうなる。
「らしいか……てか言語通じたのか」
「うん。まあ、まだ出会ってないからね……解ることは今までみたいに人間対人間で揉めてる場合じゃないかもしれない」
今までみたいに昔のイメージが固まってから、移動するのとは訳が違うので本当に未知の領域だ。どうなってるか想像すら出来ない。
四重奏、非理法権天、最果ての軍勢、放課後クラブから16名。
「ではまず、4人組4チーム作って各チーム前後左右に別れて進もう、日が暮れる前には戻ってくるように!」
東西南北が使えないので、前後左右のチームとして編成する。
前方チーム、信条戦空、桜愛夜鈴、天上院咲、天上院姫。自由行動。
後方チーム、日曜双矢、京学文美、秘十席群、アリス。危険モンスターの駆除。
右方チーム、ラフティーヌ、バハムート、桜愛蒼葉、今泉速人。食料・村の発見。
左方チーム、不動武、不動文、アセンブラ、レジェンドマン。気象・地形調査。
「じゃ、〈外側のドア〉開けるよ~~~~!」
ギイ……と、GM姫は重く厳重&重厚な扉を開けた。その先に広がっていたのは草原。視界が広く最初から大型のモンスターがのしのしと雑草を食っている。その数30匹。互いに日本語を喋っている草食モンスター達。
警戒心は無く、ただ無我夢中で雑草を食べている狸の大型モンスターだ。
「でけえタヌキか……」
「草原か、見晴らしは良いし奇襲はなさそうだな」
GM姫がイベント開始の合図を出した。
「んじゃ、各々の方向へ向かって調査開始じゃ~~~~!」
『おぉーーーー!!!!』
そう言って、30名前後の先行調査部隊と、プラス16人のBIG4チームは、各々の作戦通りに、散り散りに進んだ。
ここから前方チームは自由行動に入る。
「ほえーここが新世界かー……」
咲は無自覚に内向き思考だったので、外の世界へ出てきた。という感覚すら久々に感じていた。無理もない、まず結界内、戦場内、ネット内と全て繋がっていると思っていなかったからだ。
「まだ何も無いけどな」
GM姫は右目をパチリとウインク混じりに閉じて左目を半眼で見つめていた、特に意味は無く、何となくそうしたかっただけである。
「ウチはもっと強くなる!」
戦空は待ち受ける強敵を想像し、両拳を握っていた。
「あ、お天気雨だ、清々しいほど青空なのにね」
夜鈴は晴天爽やかな青空と太陽を眺めながら入道雲ばりに大きな雨雲を眺めていた、明るいのに小雨が降っている。
「あの狸と戦ってみてもいいか?」
戦空は大きくて強そうな鎧と大剣を着た大狸を指さして、戦っていいか夜鈴に訪ねる。
「そういう雑魚処理は他の人に任せればいいのよ、まず周りの環境を観なきゃ……」
夜鈴が無用な戦闘はするもんじゃないと戦空に返す。
「それに大きい狸さんは敵意無いですし、素通りで良いかと」
咲も、武装してる狸とはいえ、雑草を食べてる狸に威嚇するのはどうかと思った。
そこで姫が止まる。
「おい、谷があるぞ」
草原を前進した先、姫がまず見つけたのは谷だった。
「深いな、谷って言うか崖じゃん」
戦空が周りを見渡して、まず橋があるかどうかを探る、が、どうやら無いらしい。
咲が悩む。
「回り道するか飛んで突っ切るか微妙な所ですね」
「飛ぶの無し?」
「飛ぶの無しだね、周りの安全を確認してからじゃないと」
戦空が夜鈴にどうするのか聞いてから、勇気があるのか無謀なのか、無策なのかはともかく。
「じゃあ行って観てくる!」
と、崖の深淵へ落ちていってしまった!
「速いってー!? 個人行動すんなやー!?」
夜鈴がツッコミを崖に向かって落ちてゆく戦空へ叫んだ。
「嫌だー!? 上下運動やだー!?!?」
咲は別の意味で上下運動がトラウマで真っ直ぐ歩きたかったのに、この流れで地下に行くという現実を受け入れたくなかった。
「暗いぞー!? なんも見えないぞー!?」
行き当たりばったりでいきなり詰んでいた戦空。
「明かり無いんかい!? いや!? 光風は光だから能力発動すれば見えるはずじゃぞー!」
今まで無駄に光っていた全く有効活用されていなかった光を使って照らせと姫は崖の上から合図する。戦空は光風を発動したようだが、谷が深すぎて光が届いてない。
「見えたぞー! うわー!? 何かドラゴンがいるー!?」
「ゴワアアアアアア! 何じゃワレえええええ!? ウチの縄張りでイテコマ邪魔じゃあー!?」
咲は「何のドラゴンですかー!? 地中のドラゴンだから地竜ですかー!?」と暗闇の中、音声だけが届いてゆく。見えないながらもぞの全貌を崖の上から聞いてくる。
「ドラゴンの種類ってなんだー!? ガンダムは全部ガンダムだろー!?」
「お前解ってて言ってるだろー!? あーもうこれじゃどんな種類かこっちで判別つかん! 下りるぞ!」
姫は叫ぶが、戦空の単細胞ぶりに、仕方なく女子3人組は崖から飛び降りた。
光が届かないほどの崖の深淵って地下何メートルぐらいだろうか?
夜鈴、咲、姫は、谷の深淵へと落ちていった。
落下中、地竜? と戦空が「お前の方が先にぶつかってきたんだろ!?」と互いにメンチ切っていた。
谷の深淵まで落下し、当たり前のように各々の方法で地面へ着地する3人。
「感覚的に地下300メートルほどですね、ビル100階くらい地下です」
咲が冷静に自分達が落下した距離を目算で計算する。
夜鈴が地竜? のような叫び声と戦空が口喧嘩しているのを落ちながら聞いていた。
「てかここのモンスター達って結構知能高いんですね、普通に言語喋ってる、さっきの大狸もそうでしたし……」
「そうじゃな……うおっと!?」
姫が相づちを打ったその時、戦闘中の戦空が姫めがけて吹き飛ばされてきた。
姫と戦空は洞窟の壁に2人共ぶつかり崩れ落ちる。
「くっそ強ぇえ!? なんつーか柔らけえぞコイツ!?」
戦空の光風でそのドラゴンを目視で確認出来た。が、戦空が言うように柔らかそうな部位はドコにも無い、むしろいかにもな岩の鱗で皮膚が守られていた。
おそらく戦空が言ったのは、巨体によるパワーや、体質的な防御力の事では無い。
地竜? は戦空に向けて高らかに、そして知的に暴力を振るう。
「あぁん!? 新参か!? 知略がなけりゃこの世界は生きられねえぞ!?」
見た目は地竜だが、なぜだか違う生き物に感じる。夜鈴、咲、姫はそのように感じた。
そしてまず夜鈴が観測できたのはまず1つ目。
「待って!? このドラゴン、何か持ってます!?」
姫が咲へ「言語化できるか?」と聞いてみる。地竜が右手で持っているのは〈透明な何か〉であった事は咲には看破出来た。
「透明な何かを持ってますね、恐らく地竜? のパワー以外にその何かが〈柔らかさ〉を与えているのだと思います」
瞬間、体制を立て直した戦空が間髪入れず拳を握り右ストレートの直線攻撃をする。
が、地竜? はその透明な何かを使って膜のようなレイヤーを形成、戦空の4トントラックが直進してきた重さを、あたかも相手の力を利用する柔道の使い方でもっていなす……。瞬間、4トントラックがハンドルの切り方を間違えるように〈アクセルとブレーキを踏み間違えた〉、勝手に戦空がその幕のレイヤーの中でブレーキを踏み間違えるという誤認識が発生。
あとは地竜? の通常のパワーによる尻尾で、戦空はまた壁に吹き飛ばされていた。
頭の良い2人、咲は夜鈴に聞いてみる。
「夜鈴ちゃんはアレどう思います?」
「簡単に言うとバリアですね、柔らかいバリアを右手で持ってる」
ちなみに姫はGMなので、基本的に進行役だけして戦闘には参加しない体制に入っていた。
その分析に対して、地竜? が「ほほう?」と何か企んでいた。
「賢い奴がいるな、よかろう。定義変更、〈人の世も、知恵も及ばぬフィールド〉へ……変更!」
地竜? が前提条件を〈上書き〉した。咲と姫が叫ぶ。
「え!? ちょっと待ってフィールド変更するのこのモンスター!?」
「フィールドってことは地形操作か!? でも操作する定義ごと変えてる!? ジオコントロールだ!?」
「カアア!!!!」
地竜? の咆哮だけ、今度はパワーという名の衝撃波だけで咲と夜鈴は吹き飛ばされ地面に〈固定〉された、影縫いである。
「夜鈴!? 咲!? この野郎ー!?」
戦空がバカの一つ覚えのように渾身の正拳突き!
今度は地竜? に命中、ダメージは入ったが微々たるものだった。
一応、咲は姫お姉ちゃんに聞いてみる。
「姉ちゃん! こんなのルールにあるの!?」
「あん? 無いけどこれぐらいの困難どうって事無いだろ? 自分達の力で切り抜け。こんな奴にGM権限なんて使うわけないじゃろ」
GM姫はこのピンチを傍観者として楽しんでいた。
「まさかAIが出した答えが面白いとでも?」
「ふっふふふふふ!」
地竜? は答えを言わない。




