第17話「起・怒りの値段」
信条戦空、天上院咲サイド。
「お姉ちゃん、大丈夫かねえ~アレ……」
「まあ皆バカだった頃は楽だったまであるからな」
とは言え、ニュースも政治的世論も世界的社会情勢も新聞も見ていなかった時代が立派だったかと言うと須らく微妙な感じではある。
竜王もバカではないし、天上院姫の心も読めるようなのであえて言うが。
今年の日本政府の予算が約21兆円らしいので、約16年間分の苦痛。つまり16倍、〈約336兆円分〉を日本政府が中国政府にタダで〈与える〉事ができなかった場合、アメリカ政府が肩代わりして借金を払う、ただし利子とかめんどいことはしないが。その場合、約 2兆1373億ドルを中国政府にタダで〈与える〉ことをしなければ神の怒りは治まらないと両方読み合っている状況。
それを姫自身の口から言わないのは、そんなことをしたら日本政府はアメリカ政府にも中国政府にも約16年間頭が上がらない属国・下級民族に成り下がることに成り、それは咲や桃花にも波及するから言わないだけである。
とはいえ手加減はしないとすでに言っているし、書かなきゃストレスを溜め込むだけなので記載しているだけである。
「問題点としてはただ一点、〈日本政府が議論中に寝てた〉この一点の汚点に尽きるんだよね……」
咲が代弁するように事の規模が大きくなりすぎて原因の火種はどこに有るのか特定するように言う。
「まあ眠いんなら家で寝ろって話だけどな。問題は姫がそれを実行に移さないのはそれをやっても面白くないからだろ?」
戦空が〈寝るならベットで寝ろ〉とか〈権力には権力〉という図式を判りやすく言う。
現在、GM天上院姫と真城和季が竜王の弁明を聞いている最中で、湘南桃花はそもそも関わる気も無い中立派である。
GM姫が実行に移さないのは仲間や友達に波及するから、竜王は「この意味解ったるのか?」と現在震え上がっている所である。
だが、冗談な話ではないし、本気でやろうと思えば出来る範囲ではあるのがこの件の恐ろしい所である。
領域竜種である伯爵、陸竜、海竜、空竜は「冗談じゃない!」と叫んでいるが。竜王が「黙ってろ! 金の問題で解決出来る所なんだぞ!」と身の程を弁えろと吠えている。
姫は、実行には移さないが手加減はできなくなったので書くしかない、といった感情である。
咲が確認のためにもう一度言うがこの問題点は……。
「もう一度言うけどこの件は昔、寝てたからだからね?」
で、姫が欲しい物としては「地図くれ」だった。
あとは最果ての軍勢がやるし、竜王はどの道、死刑の運命なのでこの件はもうあまり関わりたくないというのがGM姫の心情である。
「まあ、やるやらないの話は不毛だからあっち側に任せるますか……私らは何を今日はやる戦空?」
「うーん、なんも考えてねえなあ~……ちょっとフィールドを散歩でもするか?」
「そうだね、そうしよう」
確かにドアの世界から外にやっと出たと思ったらもう内側に戻ってきてしまったので、小規模に散歩は良い判断かもしれない。
何より外の空気を吸いたい。
というわけで、戦空と咲は気分転換がてら、外側のドアを開けて散歩を始めた……。
何も無い草原をてくてくと当てもなく歩く2人。
「……桃花先生がさ、昔はもっと楽しかったって言ってたけど、本当なの?」
「まあ本当だけど、ただ無知なだけだったからな。無邪気に無知をと未知を楽しんでいただけさ」
それで思ったのは戦空の年齢は何歳なのかという所である。
「……えっと、戦空って何歳なの?」
「……数えてない、数字なんて意味ない。世界と世界が繋がっていたとしても、年齢は関係のない実力の世界で生きてきたから、いらなかったんじゃないかな」
戦空は昔を思い出すかのようにそう言った。確かに戦空は最古参だが、本格的に活動をしていたかというとそうではない。大事に大事に温め、育てられていたのは自覚している。
「で、先を無邪気に歩く咲を観て思ったよ、転ばなきゃ解らない経験もあるってな。だから動いた、いや、動かされたの方が近いかもしれないな」
それは咲なのか、もっと別の他者なのかは解らない。しかし、草原に出なきゃ一歩も学べないんだと、窓を観ながら、風とともに生きながら、戦空はそう思ったのだろう。
咲はほのかにニコリと微笑んだ。
「そっか、私の旅も、無駄じゃなかったんだね」
「まあこの道はなんか違うって思ったのは本心だが、間違った道にも意味はあると教えてくれたのは咲だぜ、それは間違ってない」
珍しく戦空は咲を褒める。
「そうかな、えへへ……」
褒められ慣れていない咲は自分の痛みは無意味じゃなかったんだと、少し誇らしく思った。
「正直言うと。皆の願いを感じ取っても、それが自分事に思えなかったのが、ウチにとっては後悔かな、ただ傍観者として、観客席の読者として、安全な場所に居て何も感じなかった。当事者に思えなかった、それがたぶん、ウチの悪いクセだ」
戦空は昔を思い出しながら、今までとこれからの自分を評価する。
「今度はウチも自分から動く、特に桃花先生には負けたくないな」
「あー、最高質量だし、人気も1番だからね。アレは体重以上に変えるのは難しそうだな~……」
咲も咲とて別ジャンルの質量を持っているのだが、いかんせん文字量が多すぎて視覚的には表舞台に出づらい。
量が多すぎて、そう、それはもう紙媒体にすると桃花を有に超えている。どれだけ書いても変わらない世の中を、変わるまで書き続ける、その狂気の沙汰と、後戻りできない人気が自信に繋がって、彼女をそうさせた。
今、人気が無くてもなんとかやっていけそうな気がするのは、そんな気がするからで。欲を言えば、本当は人気があった方が良い。でもそうならないのは誰にも奪えないからなのか、何とか自分を納得させることでしか自分を保てなかった。
どこかで繋がっている、それでいいのかわるいのかは解らないけど、それで貰っていると考えるといいのかな? と感じてしまう。しかし人気が0なのも事実なので。そこは何か違う、実力じゃ無いと感じてしまう所もある。
公募の試験の結果は関係無いという所だって、公正な結果には見えなくなってしまっている。何だかんだ言い訳をつけて逃げられているような。そんなど真ん中正面の直球ストレート勝負を避けられているような、そんな姑息さをどうしても感じてしまう。
正直言って咲にとっては納得出来ない。
小説の方が速く冒険出来るのに、漫画は遅すぎて辛いし結果も出ない。なのに強者はいつも間接的に漫画を選ぶ。そんな社会的な理不尽さが、皆の願いとは裏腹に逆に作家としての可能性を締め上げている。
その上で戦空は咲の努力を認める。
「咲は頑張ったよ、高評価さ、ウチはそう思ってる」
だが咲には戦空に、強者に選ばれなかった嫉妬の炎がどうしても出てしまう。別に戦空自身を恨んでいる訳ではないのに。
「偶然環境が良かったあんたに言われても、慰めにしか聞こえないわ……、私は逆境に抗った。なのにあんたは、ただ行動と意思が一致していて社会的に都合が良かったからそこに合わせて貰えてくれただけの、ラーキーマン。今を頑張っていないあなたに私は負けた……それが凄く悔しい」
現実と理想のギャップ、変わろうとする力と変わらない力の摩擦。そう論じるのは簡単だが、それでは埋められない心の渇きが咲にはあった。満たされない。
同情はしない、実際実力は咲の方が上だ。そしてそうなったのは戦空のせいで、悪いのは戦空のせいだ。変わる気が無い戦空が、咲にとってはどうしても腹ただしい。そこにわざわざ合わせることしか出来ないから印刷しているのであって。それが無ければ印刷もしていない。ワザワザ合わせているのにそれが全然実らない。それが凄く悔しい。
「まあ、誰も咲の事急ぎすぎだって言わないからな」
「……そうかもね……」
それ以上言葉が出なかった、いや、言っても嫉妬の念しか出てこなかったので押し殺した。




