第16話「結・竜王」
領域竜種の油田、呪力竜のファフニールが雄叫びをあげていた。
「何!? ヤマタノオロチが倒された!? どこのどいつにだ!?」
領域竜種子爵、が部下の竜種に情報を求める。
リザードマンがこうべをたれながら
「それが!? ちびっこい人間達でして、瞬く間に、というか一瞬で人間牧場が制圧されました! それこそほとんどのリザードマンが圧倒的な力で粉砕されました、そのレベルは伯爵級に相当するかと!」
「な!? 何!? 伯爵級だと!? あんなバケモノ共と同格の竜力を持ってるって事か!? 冗談じゃえ、え、確認だが個人だよな!?」
「いえ、……4人居ました、あと付き人がトドメの炎で断罪を……あれは存在を消す力です、竜種以上でなければ感知する事すらままなりません」
そんな奴が付き人に!? という意見はごもっともだが少なくとも伯爵級4人相手じゃどうにもならない。そもそもファフニールにとっては何処からその人間が突然沸いてきたのかすら判らない。
この辺の人間は家畜用の奴隷である。まともな才覚も知恵も持ち合わせていない。
「自由解放軍の奴らの最終兵器か!?」
「いえ、それすら不明です……場所や位置関係から推察するに古代ゲートが関係するのかと……」
数年前に人間が沸いてきて、破壊したゲートのことだ。
それが何らかの形で再起動したのだろうか? だとしたらそこから突然奴隷以上の能力者が出てきたことも説明は付く。万里の長城の向こう側の人間にそんな戦闘力は持ち合わせていない。
壁は作って、風船を浮かせ、音の精霊と契約し、竜種が風船に触れた途端の大爆発音で人々や警備員に警戒を知らせる伝令役しか居ないはずだ。逃げ惑うのがせいぜいの貧弱な相手……それが人間。
「ご、ご提案があります。あの竜力ではファフニール様であっても滅殺されるおそれがあります。話し合いで解決できないでしょうか?」
「ふむ、激情に任せて行動したらヤマタノオロチの二の舞になるのは嫌だな、かといってここは伯爵様の領地……おいそれと担当している油田を占領される訳にもいくまい……! おい! 伯爵級4人とはなにかの見間違いじゃないのか!?」
「残念ながら、並の竜種では立っていられるのがやっと、感知できたのは私1匹だけでございます! あれは間違いなく伯爵級……! いえ、それい以上かもしれません!」
「おい! 滅多なことを口にするな、私の首が飛ぶではないか! とはいえ、そなたほどの強者が言うなら間違い無いのだろうな……その信頼もある、して、そいつらの拠点は?」
「現在、旧ゲートの所に拠点を設置しているらしく。何か黒いフニフニとした弾力性のある物体の中に入っていきました」
「なんだそれは、本当に人間か……? どういう状況だ……ではそこを叩けばよかろう簡単な話ではないか」
「残念ながら、私の竜力が、危険だと本能的に察知し、撤退いたしました」
「ほう、つまり敵の隠れ家は見つけて帰ってきたというわけだな、でかした!」
ファフニールはリザードマンを褒めるが、なかなか楽観視出来ない、聞く所によると、空を飛んでも5分以内で辿り着いてしまう所に伯爵級4人が陣取っている事になる。
「我らが所有物、人間奴隷たちもその黒い箱の中に入っていきました」
状況がよく読めない、何故人間牧場が破壊された? 何か人間達のカンに触ることをやったのか? ただ弄んでいただけなのに? あり得ない、あの人間種は食料になることが大前提、それは自由解放軍とて同じはずだ。
なぜ破壊し、なぜゲートに戻った? そもそも何故来た? そのあたりも何も解らない……。
男爵級や同じ子爵級なら〈1回痛い目にあってもらう〉程度で済むが伯爵級なら話が違う。
自分の領土まで人間に滅ぼされるか、この失態を伯爵級に知られてファフニール自身が滅ぼされうか、のどちらかになる……。
「……我が単騎で乗り込むのも容易いが情報が足りん……おい男爵級を10匹集めろ!」
「しょ! 正気ですか!? 男爵級ですら1匹で戦車10騎程ですぞ!? そこまで慎重に!?」
リザードマンが、集める期間はいつですか? と聞こうとしたところ。
「今日の今すぐだ!」
「は、はは!」
リザードマンは近くを根城にしている男爵級を10騎集めて、呪竜ファフニールが進軍するように命じた。
戦車100騎分の戦力が進軍する。
およそ5分でドアの世界に到着する計算だ。
と、その瞬間、伝令用のリザードマンが大至急の用事でファフニールのもとへ来た。
「伝令! 伝令! 進軍を辞めろと王令を出しました! 竜王様がです!」
「なに!? 伯爵でも公爵でもなく竜王様が!? どうなってる!? 何が起こった!?」
ファフニールが絶句する。〈上の階級〉で何が起こっているのかさっぱり解らなかった。
「し、しかも、竜王様は自分の角を折ってまで詫びを入れているとの情報が……」
「竜王様が角を折った!? どういうことだ!? たかが人間族になぜそこまで……!? ちゅ、中止だ! 進軍中止! 王が詫びを入れているのに俺達が邪魔するわけにはいかねえ……!」
何故か痛い目にあっているのが竜王様ご自身という情報まで入ってきた。訳が解らない、上で何が起きている……?
◇
EWⅡ、ドアの世界、拠点前。竜王とGM姫が面会していた。
「どうか許して欲しい! 猿真似なのは解っている! しかしこうするしか手が無かったのだ! 領域竜種全員に変わってわが竜王が謝罪する! 許してくれ!」
涙と鼻水ぐちゃぐちゃになりながらの懇願に、流石の姫も〈あ、これ面白くないな〉と思った。四重奏の予想が当たったというか、叶ったという形だろう。
だがどうやら、こちら側の都合を解っている話の解る王らしい。
GM姫は考える。
「ふむ、とはいえそちらの都合も何となくは把握してるしな……真城和季、おまえの最果ての軍勢のアリス・ディスティニーにこの件担当してくれないか?」
和季は頷く、まさか竜王が痛い目に自ら会うとは思っても見なかった。
「ああ、最古来歴に居るから担当ってことか、確かに吸血鬼大戦のアリスじゃちょっと辻褄が合わないもんな」
残った火種は陸竜・海竜・空竜の領域竜種だけである、彼らの闘争本能のはけ口がまだ見つかっていない。
竜王が懇願する。
「ならば! この件私に預からせてくれ! うちの子分達のけじめはうちらでつけさせる! あなた達は手を出さないでくれ! むしろ、あなた達の手を借りるわけにはいかない!」
少し考えた後、ならばとGM姫がお願いする。
「あー……じゃあ竜王国の地図をくれないか? そっちの子分竜の件は任せるから。ただ、最果ての軍勢のアリス・ディスティニーの配下ってのはちょっと譲れないな」
今でも角による血がポタポタと滴り落ちている。
「かたじけない! 恩に着る!」
「……本当につまらない結末になったな」
GM姫が言う、信条戦空の予想が当たった形となった。




