7-2.はるかな夏の終わりから、きみへ
佑へ。
あなたがこれを聞いているということは、恐らく……あー……私のやってることが、だいたい終わりに近づいてるってこと、なんでしょう。
つまり、“願い”が叶うまで、あとちょっとのとこまで来てる、っていいますか。
……やっぱ敬語はムリだわ。普通にいくね。
その方が話しやすくて、時間ムダにしなくて済むから。
私のたくらみが上手くいってれば、そっちは今ごろかなり派手なことになってると思う。
で、たぶんだけど、佑はなんにもわかってなくて混乱してるんじゃないか、とも思う。
その辺説明しとこうと思って、このファイルを作ることにした。
他の周回の記録も聞いてもいいけど、時間切れには注意して。
んじゃ、以下私のプレゼン。
はじめに言っとくと、私は厳密には佑が一緒に生きてきた仰木由祈とは別人。
大雑把には同一だし、本人の同意も取ってるから一緒っちゃ一緒なんだけど、正確にはね。違う。
私は“夏の終わり”から来た仰木由祈。
今の佑たちから見れば、未来から来た、って言う方がわかりやすいか。
変えたい出来事があって、“欠片”を食べて逸路になって、過去の時間軸の私を識域経由で“上書き”することで疑似的に時間跳躍をして、今の時系列にやってきた。
私の目的は、それはもちろん決まってる。
すなわち、世界をぶっ壊して更地にすること。
――と、言いたいとこなんだけど。違うんだな。
――ねえ、佑。
佑ってさ、自分の享年、幾つになるか、予想つく?
うん。そう。
いま……“夏の終わり”に立ってる私の世界に、私の幼なじみ、直衛佑はもういない。
こうなるまでは、私、世界のことをそこまで“なくしちゃおう”とは思ってなかった。
あの白い庭で、佑と会えたから。
佑とここまで、一緒に生きてこられたから。
でも、世界は佑を殺した。
世界のできが悪かったから、佑は死ななきゃいけなくなった。
私はそれが許せなかった。
百歩譲って、佑を私が取り戻せるんなら、見逃しにしてもよかったけど……。
まあ、結論をもう聞いてる時点で、どういう結果になったかはお察しってことで。
ともかくそういうわけで、私は方針を変えることにした。
ちょうど跳躍の回数も限界ギリギリになってきてたしね。
最後の“上書き”を済ませて周回の起点に戻った私は、今までの経験を総動員してシチュエーションを整えるつもりでいる。
といっても、やることは簡単。
どの周回でも出てくるあのクソオヤジを放っといて、“差し込み”まであとちょっとの状況を作っておいて、私が最後のとこをかっさらう。
あいつの儀式は観客が私に“願い”を託す回路を核にしてるから、あいつが死んだ後なら、私のやりたいようにことを運ぶのは難しくない。
ちょっと見た感じ、どうも予想外の誰かがそっちに出るみたいだけど……まあ、その辺はアドリブでどうにかする予定。
大筋は変わんないだろうし、なんとかなるでしょ。
実際これを聞いてるってことは、最後の周回でも私は上手くやったってことなんだろうしね。
…………。
私が佑に伝えときたいことは、これで全部。
や、でもないか。
もしかしたらそっちに行った私が言い損ねてるかもしれないから、一応ここで言っとく。
佑。
私、佑のことが好き。大好き。
本当は面と向かって言いたかった。
言ってやって、反応から返事から全部拾ってつかまえて、それ一生ネタに使っていじったり、いたずらしたり、甘えたり、大事にしたりしたかった。
でも、できなくなっちゃった。
私はもう、私じゃ佑を助けられないことを知ってる。
どうやっても佑が死んじゃう未来にしか行けないのを知ってる。
だから、私はためらわない。
あの日から佑の中で眠ってる佑の“願い”と、私は一緒に行く。
その邪魔をするなら、たとえそれが佑であっても、私は本気でぶっ飛ばす。
来るなら本気で来て。
殺す気で、壊す気で、私を止めに来て。
それじゃ、もう行くね。
いまは夏の終わり、五十三周目の世界の夜。
次のファーストコンタクトは先制攻撃で行ってみようと思う。
雑踏にまぎれての不意打ちなら上手く叩けるんじゃないか、って、前から思ってたんだ。
悔いは残さないようにいきたいからね。
これが正真正銘、私――仰木由祈にとっての、最後の夏の日になるんだから。
楽しみにしてる。会えるのを。




