夢 ~ 最も古い記憶 ~
この作品は以前、わたしの見た夢に加筆修正したものです。
それは一番古い記憶。
僕に残る、もっとも古い記憶だ。
大声を上げる僕。
対する少女は薄笑いを浮かべたまま、嘲る様な笑みのまま、その騒音にも取れる声を聞き流す。
大きな音というのはそれだけでも不快なものだ。それを聞き流せる彼女は、恐らくそんな状況に慣れている。
どんな境遇が、どんな経験が、それをどれ程積み重ねればそんな事が出来るのかは判らないが、彼女の様子は間違いの無い慣れを感じさせた。
傍にいる別の少女は、只只狼狽えている。
不安げに、僕と彼女を見る。
僕は僕の手を取ってくれない少女に、苛立ちを覚えながら一層声を荒げた。
いや、解ってはいるのだ。
目の前で薄笑いを浮かべる彼女の危険なその思想に、こいつを巻き込むなと、只そう言いたかっただけだった僕は、受け流され打ち払われ、激昂してしまったのだ。
解ってはいたのだ。
こいつと僕は普通に仲が良くても、こいつがより信用しているのは彼女なんだと。
理屈も、正論も、状況も、真実も、盲信にも等しい信用の前には全く無力だ。
だから、僕の言葉は意味を成さず、耳をすり抜ける雑音になる。
彼女は嗤う。
不気味な三日月の口。
そこに見える白い歯は何処かホラー染みて、不安を誘う。
三日月の口がその幅を変えた。発する言葉は記憶に残らない。只奇妙に、不気味に、怪しげに不安を煽る。
ああ、危険だ。
妖しく怪しい異質で異常なその言葉に惑わされる、その前に。
僕は傍らにあった何かを掴み、彼女を打った。
笑みは消えない。
力一杯打ち付けたのに彼女の薄笑いは消えない。
三日月の口。半月の目。消えずに僕に微笑んでいる。
叫び声が聞こえた気がする。
だが目の前の口は微笑みの月を描く。
気のせいだったのだろうか? よく解らなくなってくる。
僕は再び手にした何かで打ち付けた。
不気味に微笑む顔に向かって、何度も、何度も。
皮が裂ける。
血が飛び散る。
眼球が潰れる。
血みどろになる顔面で、その口が未だ三日月の形を成す。
三日月が形を変える。
まだ生きている。
まだ!
打ち付ける打ち付ける打ち付ける!
手にした何かが壊れ、別の何かを拾い、また打つ。
もう、綺麗だった瞳はなく、ふたつの眼窩はひとつに繋がり、脳すら見えるこの状況でもその口は三日月の形のまま不気味に動くのだ。
死ね。
死ね!
死ね!!
打ち付ける。
手にした何かを打ち続ける。
辺りを、血と脳漿が汚す。
彼女の不気味な笑みが消えない。
消えろ、
消えろ!
消えろぉ!!
打つ、打つ、打つ。
只、只管に打ち続ける、僕。
打ち続けるだけの僕。
それが最も古い、僕の記憶。
最も古い、僕が最初に人を殺した時の記憶だ。
何故こんな夢を見たのか今でも謎です。
仕事のストレスかなぁ・・・。