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マルコは小さな村に住んでいる。今日で七歳になったから、森の狩りにも連れて行ってもらえる。お金を持って一人で隣町に買い物にも行ける。この村に子供は少ないから、きっと今日はたくさんのご馳走とたくさんのおめでとうがもらえる。妹のエディのときはそれはそれはたくさんのご馳走とプレゼントがあった。
マルコはうきうきしながら家を出た。
隣のフレッドおじさんの家に行くことにした。血は繋がっていないけどマルコにいつも森でとってきてくれたウサギをくれたり、猟具の手入れを見せたりしてくれるおじさんだ。扉を叩いても返事がなかった。フレッドおじさんは朝が早い。もう起きているはずだ。マルコが窓からのぞくと、部屋の中に大きな大きな繭があった。テーブルの上のコーヒーもパンもそのままだった。ほかほかと上る湯気の奥に朝日を浴びて輝く白い繭に、マルコはなぜか分からないけど怖くなった。家へ走った。
村中大騒ぎになった。フレッドおじさんの弟のヤハルさんがやってきた。「兄さん」と繭に抱きついた。村一番の力自慢がおいおいと泣く姿に、マルコは何かとてつもないことが起こっているのだと思った。
杖をつきながら長老がやってきた。ヤハルさんがいつもと違って神妙な顔で「お願いします」と頭を下げた。長老は繭に手を伸ばした。
「長老!」
お父さんが長老の手を掴んだ。長老は「いいのだよ」と首を振って、繭に触れた。
「長老」
ヤハルさんが縋るみたいに言った。長老は首を振った。
ヤハルさんはまた泣いた。
「恰好よいところを見せたいんだ」といっていたメアリーさんの前なのに、ヤハルさんはずっとずっと泣いていた。
昔から伝わる病だという。一人が発症すると徐々に年の多いものから繭になる。一人が発症すると一日一人ずつ繭になっていくことが多いらしい。不思議なことに、一度発症した村は、村人が村を捨ててもその病になるという。発症した村の人間全員が繭になるとその病は終わる。移動した先の村で繭になる人はいない。たくさんのお医者が調べたけれど、原因も分からないのだという。マルコはいつか自分が小さな繭になるのを想像して怖くなった。
「じゃあ」
「次は私だろうね」
長老はそういってフレッドおじさんの繭を撫でた。
「何か薬はないのですか?」
「私も噂だけだが――」
「あるのですか」
ヤハルさんも、村の皆も長老を見た。
「銀河の彼方にある薬屋の星屑を振りかければ治ると聞いたことがある。そうでないとずっと繭のままだと」
「それなら、俺が」
「だが一日に一人だぞ、銀河の彼方などどれだけかかるか分からん。俺たちが行っても途中で繭になって終わるだろう」
水車小屋のおじさんが言った。
「じゃあ子供に行けって言うの?」
「いや、でもなあ、それしかないだろう。年の多い者から繭になるんだ」
「でも大人の足の方が速いだろう」
村に子供は五人。だけど他の子は小さすぎるから、行くのなら七歳のマルコしかいない。お母さんがマルコを抱きしめた。マルコは大人たちの視線を感じて、下を向いたままお母さんの服を握った。
「止めなさい。薬屋の話もそれで全てが治ったわけではないときく」
「星屑で治らない可能性もあると?」
「詳しいことは分からんが、星屑を持って帰っても使わなかった村もあるときく。何か使うのに条件が必要なのかもしれん」
「それなら、なおのこと、早く手に入れて調べる必要があるでしょう」
「それでも、だ。今日はマルコの誕生日だ」
皆がはっとした顔をした。長老はマルコを見て笑った。
「お前に、プレゼントを用意していたんだ」
そういって鹿革をよくなめした袋を差し出した長老の右手は白く包まれかけていた。
その後、マルコは村人全員にプレゼントをもらった。狩猟用の罠や短剣、帽子に家履き用の布靴、成長を願って作る小さな光石のボタン。
皆「おめでとう」と言った。マルコも「ありがとう」と言った。
ヤハルさんは「兄さんはお前のことが大好きだったんだ」と言って、使い込まれた小さな剣をくれた。マルコがずっとヤハルさんに「その剣いいね」と言っていた剣だった。