人類皆何かとだらしないもので
軽く読んでくださいませ
「眼に魔力を集中…!」
ここにいる砂漠の大蛇含め多くの蛇系統モンスターは自分の弱点の頭を守るために魔力の大半を頭のガードに使う。
「頭を攻撃しても意味が無いのはわかってるよな?」
「わかってます。『案の魔導書』マジックゴーグル!」
俺の声に応えて案の魔導書が土や砂の中でも生命体や金や銀などの物体の場所を視認出来るゴーグルを出す。
このゴーグルは単体じゃあまり意味がない。人はそう簡単に土や砂の中に深く潜ることなんて出来ないのだから上部にあるものを確認したところで利点は薄い。ただもうひとつ魔導書に記されたモンスターを出すことでここ砂漠地帯じゃ俺は最強になれる。
「モグリャ七兄弟も出してくれ」
モグリャ達、モンスターは魔導書の持ち主である俺の魔力を喰う契約で本の外に出て従ってくれる。ただこいつらを出すとなると魔力の6割方を持っていかれる。魔力を持つもの同士の戦いではこのデメリットは相当デカい。
「ただここで大蛇を止めないと街は半壊、多くの犠牲者を出しちまう。身体にある全ての魔力を振り絞れ!秘剣ゲムマ出ろ…!」
「お前にゃまだ3回魔導書の力を使うのは無理ってこった。しょうがねえから私の魔力を使え。」
頭の中で声が響く。俺の先生のような存在モカニスの魔法、『エレメンタル・コネクト』によって遠隔からの指示や魔力の受け渡しをしてくれる。
「すみません…!いまは猫の手も借りたいです。よろしくお願いします!」
「先生に向かって猫呼ばわりとはな。あとで叱ってやるからな」
大蛇を殺さず街ごと先生を消してくれた方が俺の身は安全かもしれない。ただ街の住人を放っておけないもんな。そんな考え事をしてるとモカニスからの魔力が送られてくる。
頭は駄目。攻撃が通るとしたら鱗に守られた腹部。鱗を1枚1枚剥がしダメージを与えるのは面倒だが特別なこのゲムマなら話は別だ。『ゲムマ』それはゲームマーケットの略ではない。確かイタリア語で蕾とかそんな感じの意味だったはず。
剣を扱う者たちの中で鍛治職人『相馬源三郎』の名を知らない人はいない。このゲムマは蕾の名の通り源三郎が初めて刀を作り上げたものだが
未だに刃が折れることも欠けることもなく切れ味は衰えない。
「妖刀地味た逸話だがこれならやれる。」
鞘から刀を抜き貰った魔力を込める。大蛇が俺の頭上を通るまで残り5秒…
「4、3、2…」
「1。今だやれ!」
ゲムマの刀身からビームセーバーのように魔力が放たれる。それは大蛇の腹に的中。砂の下からでも聞こえるバタバタとのたうち回る音と鼓膜が破けそうな鳴き声。
爆音で聞こえていた音は次第に小さくなり刀から伝わっていた大蛇の動きも小さくなり、最後にはピクリとも動かなくなった。
※
『海原雄次亭』俺が殺さなければ大蛇に潰されていたであろう大衆酒場のような場所で店主、雄次がそのまま蛇の調理をし活気だった店内にいる客達に振る舞われる。
「こんだけデカいと店に運ぶのも大変だった〜」
「ご迷惑おかけしました。」
「あんたが謝ることじゃないって。報酬は国が払ってくれるんだろうがこれは気持ちだ。貰ってくれ」
封筒をテーブルに置き、店主は厨房に戻っていった。中身を確認しようとすると魔力を送ってくれたモカニスが横取りする。
「おお、結構入ってるんじゃねえか!ドケチなグランザールの上の連中とは大違いだ。」
「ちょっと一応俺が貰ったものなんですから返してくださいよ!」
「私が魔力を送らなきゃお前は戦犯としてこの街の奴らから恨まれてたよ。感謝されて蛇肉も食えてじゅうぶんじゃん?」
俺たちギルドの連中は出来て当たり前な目で見られる。人の命を預かる仕事だし失敗した時には逆に命を取られたって仕方がない。
「難儀な仕事だ…就職先を間違えたか?」
「まずはお礼じゃないのか〜?」
「それもそうっすね。そのお金は持っていって構いません。助かりました。」
「おうよ。また困ったことがあったら声でも魔力でも送ってやる。ああ、店員さーんビール2つ追加で!」
俺、古木夜稀はまだ個では最強とは言えない。何かと女の子にモテモテになれて大金持ちになることも可能な転生者なはずなのに!
そう俺は皆さんがご存知の地球人の日本人だった。それからまあ色々あって死んだらへんちくりんな神様と自称する女にグランザール国飛ばされギルドの仕事をそつなくこなすスーパー異世界転生者となった訳だが俺の持ってるこの『案の魔導書』と俺の相性はあまり良くねえんじゃないかと感じている。
先生の援助がないと2~3個本から物や生物を実体化しただけでガス欠になる。どうしても他者から魔法を送ってもらわなければ木偶になってしまうんだ。こんなんじゃいけないと思うんだけど…
「く〜仕事後のビールはうんまい!」
「この後も一応仕事はあるんで控えてくださいよ。止めても無駄だとは思いますが…!」
俺が異世界に転生してきた当時から何かと助けてくれるのは嬉しいんだが金にも酒にもだらしがないのだけはいつか直してもらいたいなあ。
「蛇肉うっま!そしてキンキンなビールがんっんっんっ…染みる〜!」
「古木も飲め飲めー仕事なんざ知らん知らん!それよりこの後さ…」
「なんれすかぁこの後も仕事があるのでふっそろそろ切り上げなければ!」
「そういうなって。すぐ終わるからさ」
※
次の日の朝、この後の記憶がない。ベットには白い枕がふたつ並べられそのひとつに俺は頭を乗せて眠っていたようだが、隣には誰もいない。
「まあいっか」
酔った後は何かとラブホに泊まり写真をSNSに上げる古木は影で「ラブ木」と呼ばれていることを本人は知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございました〜
金持ちになりてえ