08.夢
「スター・リピート、か……」
レイトが帰って、簡単にシャワーを浴びベッドに入った私は、布団を首まで上げ乳白色に淡く光る天井を見ながら小さく声に出してみた。
スター・リピートにより地球が壊滅したのは一瞬だったらしい。
そして、スター・リピートの兆候はその前年からあったと、わずかな記録は伝えている。
その前兆が、『緑の杖』、つまり例の流星である。
今のところ、スター・リピートが現実のものである、あるいはそれに緑の流星が関わっているという話が本当かどうかは、レイトの言葉を信じるしかない。
確かに、レイトの現れ方や、パルス・ガンの防ぎ方などは、現在の文明のレベルで可能なこととは思えない。
しかし、もしかすると、レイトは私が知らない変わった技術を持った、頭のおかしな人なのかも知れない。
あるいは、時間移動が本当だとしても、彼の目的がスター・リピートを防ぐことにあるとは限らない。実は全く別の目的で、例えば、それこそスター・リピートを引き起こすために、未来からやってきたかも知れないわけだ。
でも、私の直感、あるいは本能という部分が、レイトが言っていること、そしてスター・リピートの危険が本物であることを告げていた。
……明日、何かがわかるのかな……
私は、ぼんやりと外を眺めながらもの思いにふけっていた。
窓の外は、いっそう雪が激しく降り出した。
そう言えば、レイトが口を濁していた「守りたいもの」っていったいなんだろう?
家族?恋人?それとも師匠のゴーリー?
……うーん、なぜかちょっと気になる……
部屋の中は空調が快適に保たれ、外の厳しい寒さとは全く無縁の世界となっている。
私は、いつしか眠りに落ちていた――
◆◇◆◇
――空が緑色に間断なくフラッシュしている。
遠くから重い地響きが聞こえてくる。
小刻みに震える大地。
まるでパルス・ガンを受けたように、肌にピリピリと直接感じる空気中の静電気。
誰かの悲鳴。
やがて、虹色の光が拡散する。
重厚な声が直接頭の中に伝わってくる。
「――――」
その言葉を聞いたとき、私は思わず悲鳴をあげていた。
大いなる恐怖。
そして、大気中に煌く緑のフラッシュがひときわ大きく輝いたとき……
無音で大地が砕け散った。
◆◇◆◇
「……!!」
飛び起きた私は、びっしょりと汗をかいていた。
……夢?
すごくリアルな夢だった。身体を襲う小刻みな震え。
……本当にあれは夢?
緑のフラッシュが大きく輝く直前、私の頭に伝わってきた言葉……
思わず、大きく身震いする。
……あの言葉は……
そう、私が夢の中で聞いた言葉、それは……
『スター・リピート』
確かにそう聞こえた。その口調は、今でもはっきり思い出せる。
重い無機質な声。
全ての干渉を受けつけない、そして禍々しさがあった。
大きく息をはきながら、もう一度身震いした。
恐怖感が身から離れない。
スター・リピートのことをずっと考えていたから、あんな夢を見たのかもしれない。
……でも……
本当に、あれは夢だったのだろうか?
確かにあの内容は現実ではありえないわけだし、本当なら夢としか思えないはずなのだが、それでも、伝わる雰囲気はまさしく現実のものだった。
……ま、まさか予知?
しかし、ふと思い浮かんだ言葉を、一瞬後、私はあっさり否定する。(ない、ない)
自慢じゃないが、私は今まで幽霊すら見たことはない。
どちらかといえばリアリストだ。
まあ、不可思議なものを一切否定するわけではないが、自分にそんな力があるとは思えないし、そういう力があったという話も、パパやママからも聞いたことはない。
ゴーリーの弟子が時間移動して、目の前に現れたぐらいだから、予知が存在することを否定はしないが、自分には関係ない力だ。
……ゴーリー……?
……そう言えば……
私はレイトからさっき聞いたゴーリーの予言を思い出していた。
「悪夢の中から真実を見付けなさい」というあの予言を。
……今見た悪夢の中に何かの真実があるの?
……あの恐怖に満ちた破滅的な夢の中に!?
……とても信じられない!
私は、いつまでも、体の震えが止まらなかった……
次話は、明日、投稿予定です。
寝起きの悪さをレイトに見られて落ち込むラン。
なんとか気を取り直して、緑の杖の捜索のため、タインマウンテンへと向かう。
次回 「09.タイン・マウンテン、嘆きの谷へ」 です。