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05.星を救う旅へ



息すらできないような重い静寂が瞬間、辺りを支配した。


「……レ、レイトがやってきた未来には……わ、惑星は……ぜ、全部な、なくなってるの?」


私はようやく声をしぼり出した。


ミーマも真っ青な顔をしている。


「そうや。俺がいた時代は、今の金星がある軌道上まで太陽が膨張し、全ての惑星は消滅、衛星は正常な軌道を保てなくなっていた。

わずかに残った人間が、この時代でいうと、火星の近くにある小惑星帯の影に作られた宇宙ステーションで、なんとか生き延びとるんや」


レイトの表情が心なしか曇った。


「スター・リピートが最初に襲ったのは地球や。

ゴーリーの予言通り、西暦3000年のことやった。

全ての惑星が破壊されてしもうかたから、細かい日までの記録が残っとらんけど、西暦3000年1月中旬頃のことらしい」


「え?、来月中旬!」


……あ、あと一ヶ月ぐらいで、地球が壊滅する?!そ、そんな……


私は、頭の中が真っ白になっていた。


「まあ、結果がわかって予言しとるんやから当たって当然やけどな……

そして、木星、金星、海王星と各惑星を次々と襲うスター・リピートによって全人類の99%以上が、3年のうちに失われてしもた」


レイトは、リンカンジュースを飲んで一息ついた。


「わずかに残された人々が小惑星帯に集まり、細々と再建をはじめたが、惑星の消滅とともに、資源はほとんど失われたし、技術も記録も多くが消滅した」


私とミーマは身動きできず、固まった状態でレイトの話に耳を傾けていた。


「それに、スター・リピートで各惑星の消滅とともに太陽の膨張が始まったんや。

推定では、あと千年以内に太陽は燃え尽き、ブラックホールに変わるという話やった。

なにより、膨張の速度は加速されとるさかい、あと100年以内に、今いる小惑星帯も人が住める状態ではなくなってしまう。

そうなると、資源の供給がストップするから――それで人類は終わりや」


レイトの顔は哀しそうだった。


「……スター・リピートは防げるの?」


私は、ごくりと息を呑みこんで尋ねてみた。


「わからん……残念ながらスター・リピートについて残された記録はあまり多くないしな……」


少しの間があった。


快適だった室内は、いつしかヒンヤリとした空気に覆われているように感じた。


「師匠は――」


レイトが続ける。


「あ、師匠とはゴーリーのことや。

師匠は優れた技術者であると同時にある種の超能力者みたいなもんやった。

師匠がいつ、過去に旅立つのか今のところ分からへん。

しかし師匠は、予知能力で、自分が過去に行って予言者となることはわかっとったみたいや」


「ゴーリーは、自分の身にあんな結末が訪れることもわかってたの?」


「ああ。いくつかの予言、それとゴーリー自身の歴史については多少の記録が残ってたから良く知っとったはずや」


私の問いに、レイトは何処か遠くを見つめた。


「でも師匠は、悲劇が自分に起こることを、気にする人やなかった……」


レイトは、エア・チェアに深く座りなおした。


「そして、俺がタイムトラベルに出発するとき、師匠がいくつか教えてくれたことがある」


「なに?」


私が尋ねる横で、ミーマも両手をぎゅっと合わせて会話を見守っていた。


「その中の一つが、着いたときに二人の女の子に出会う。そしてその女の子と共にスター・リピートの謎を解け、とな」


「ふーん、それも予知能力でわかってたんだ……」


この時、私はあることに気がつき愕然とした。


「ちょ、ちょっとまって!あなたが未来からきたんだったら、どう頑張ってもスター・リピートは防げないんじゃない?――未来では、そういう歴史なんでしょ?」


「それは俺も考えた。もし俺が過去に行けたとしても、スター・リピートを防げたかどうかは、歴史が物語っているんじゃないかと……」


そう、ゴーリー自身が、予知能力によりいずれ過去に行って予言者となるということを知っている限り、現在の歴史と同じだといえる。ということは、今後起こりうる事象も同じということになるのではないだろうか?


「でもな、師匠が言うには、時間軸というのは一つしかないのではなく、ある分岐点をきっかけに無数の連続世界に分かれていくらしい。

だからスター・リピートが防げた世界があっても良いはず、って言うとった」


「でも、もし今の歴史では、なんとかスター・リピートの謎を解いて防ぐことができたら、他の世界になってしまうわけでしょ。それで、レイトがいた時代に戻れるの?」


私の疑問に、レイトはなぜか苦笑していた。


「よう分っとるやん。ランが言うとおりや。

いくら、今ここでスター・リピートが防げても、俺がいた未来に戻れるとは限らんし、もちろん俺がいた未来の歴史が変わるわけやあらへん……でもな、どうしても知りたいことがあった」


レイトはふと立ち上がって、窓の方に向かい、外の景色を眺めた。



窓から見える外には、振り続いた雪によって銀世界が出現していた。


しばしの沈黙――空調のわずかな響きだけが聞こえている。


「それはな、スター・リピートの正体や。

スター・リピートとはどんな現象やったのか。どうして3年という短い期間で全ての惑星が消滅することになったのか。

引き起こされた原因はなんやったのか……

もし、それの一つでもわかれば、そして、同じ未来に帰れたなら、人類が生き延びるためのヒントが分かるかも知れへん」


外を向いて喋っていたレイトが、いきなり振り向いた。


「俺がいた時代は、誰も希望を持とうとしない終焉を待つだけの時代やった。いわゆる、時間そのものが年老いとった。それも仕方あらへん。

どこを見ても、滅亡の二文字しか見あたらんかったしな」


両手を広げ、いつしかレイトの口調は、強いものになっていた。


「でもな、俺には希望があった。守るべきものがあるんや。

見込みが少ないことは、はなから承知しとる。

でも諦めたくないねん。だから、わずかな可能性でもいいから求めたかったんや!」


一気に捲し立てて息が切れたのだろう。少し肩を軽く上下させていたレイトは、やがて軽く首を振ると、静かにテーブルの方に戻ってきた。


そして、そっと両手をテーブルにのせた。


「頼みがある」


「わかってるよ」


私は即座に答えた。


「スター・リピートの謎解きを手伝えってんでしょ。いいわ。手伝ってあげる。

っていうか、スター・リピートを防がなきゃ、私たちの未来はないわけだもんね」


私は立ちあがり、ミーマの方を向いた。


「ミーマもいいよね」


未だ青ざめた顔のまま、それでもミーマは「ええ」と、はっきり頷く。


「よし、決まり!」


にっこり笑ってレイトに手を差し出す私。


「おおきに」


その手を力強くレイトは握り返した。


重い厚みのある手だったが、不思議な温かさを感じた。


「あと、一ヶ月か……レイト、まずどこから始める?」


「まずは、落下した流星、いや『緑の杖』を探しに行こか」


「OK。そうと決まれば早速、今から行こう!」



――こうして私の、星を救う旅が始まったのである。



次話は、明日の夕方、投稿します。


「06.マウンテンホテルで……」




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