29.温かい手
私の腕を掴んだ手があった。
「……立てるか、ラン?」
レイトの温かい手の感触が心地よい。
……あれ?確か、こんな場面がどこかであったような……
「まだ、諦めたらあかんで」
優しく語り掛けるレイトの声。
私は思い出した。
聞き慣れてしまったへんてこな言葉。そして優しい笑顔……
クリスマスの夜、孤独につつまれた私を、ちょうど今のように立たせてくれたことを……
そして、その時、レイトが過去を変えることに成功するよう、私にできる精一杯のことをやろうと誓ったことを……
心の中の悲しみと絶望が霧散していく。
「ラン、もう一度や」
私は、微笑むと力いっぱい頷いた。
レイトも頷く。
「ラン、これを左手にはめるんや」
そういうと、レイトは腕にはめたタイムマシンでもある腕時計をはずすと、私の左腕をそっと掴み、腕時計を巻き始めた。
「この腕時計の転移装置は、強烈な磁場により生じるエネルギーを三次元的エネルギーから四次元的エネルギーに変換するんや。
こうすれば、転移だけやなく、パルスエネルギーを変換させながら放出させられる」
そしてレイトは腕時計の盤面を開け、その中央の小さなつまみをぐるっと回して再び蓋を閉める。
「これで、パルス・ガンを発射してみるんや。パルスを弾くとき、右手の下に左手を添えてな。どこまで効くかはようわからん。でも、ゴーリーが教えてくれた最後の方法や」
「ゴーリーが……」
「ああ。おそらくこの四次元化されたパルスのエネルギーは、磁場のある惑星上で使うには、最大の武器やと言うとった。ただ、時空間そのものに影響を与える可能性もあるらしい。
だから、一度も試したこともあらへんから、最後の最後まで使ったらダメやと言うことやったけどな」
緑の杖の輝く速度がさっきより早くなった。
もう時間はほとんど残されていないだろう。
「これにかけてみよう思う」
レイトが私をまっすぐ見つめる。
私は、ゆっくり、そしてしっかりと頷いた。
緑の杖の輝きはいつしか虹色の流動する光へと変化していった。
大気に漂う静電気が肌に痛い。
「レイト、やるからね」
私が言う。
「ああ」
レイトがそっと私の肩に手をかける。
その時、心の奥底に違和感を感じた。
……何?
思い出したくても思い出せない何か……
……危険?
その何かが警告している気がする。
それでも、私は、右手をまっすぐに緑の杖に向かって上げ、ゆっくりと十回はじいて十重のパルスを作った。
パープルのパルスが巨大な円盤を形どる。それを確認した私は左手を右手の下に添えた。
すると、パルスは装置の影響を受け、収縮し、次の瞬間はじけた。
そして私の指の間には、白く小さなコロナを巻き上げる日輪が現れた。
……これは!
その日輪を見た時、私はゴーリーの予言が頭に浮かんだ。
「日輪に囚われず、悪夢の中から真実を見付けなさい」という予言を。
そして、頭の中が突然スパークし、全てを思い出していた……
あの最初の緑の杖にあった時に見せられた映像を。
スター・リピートが発動した瞬間を。
次話は、明日の投稿予定です。
メビウスの輪のように繰り返す時の中で、スター・リピートの全てを知ったラン。
そのランが選択した答えとは――
次回 「30.メビウスの輪」 です。




