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02.奇妙な空間から現われたのは……



ミーマの背後で、空間が歪み始める。


「何?」


慌ててミーマの手を取り、後ろに(かば)いながら、私は「それ」を注視した。


最初、地面から1メートルぐらいの高さのところで、円形にねじれ始めた空間は、やがてはじけるように細かく分断した。


いったん、分断された空間が再度密集すると、さながら蜜蜂の巣のように、小さな無数の多角形のレンズが出現した。


「何なのかしら?」


ミーマがつぶやくが、私に答えられる筈がない。


直径2メートル。細かいレンズをたくさんつけた楕円形の空間は、静かに揺れている。


禍々(まがまが)しさはないが、非現実的な何かを漂わせて、揺らぐ空間。


私たちは声もなく、立ち尽くしていた。


さほどの時間はたっていないはずなのに、ずいぶん長い時が過ぎたように感じ始めた頃、空間から黒い影が滲むように現われ始めた。


「「!!!!!」」


思わず息を呑む私とミーマ。


私は、右手をパチンと鳴らして、さっとパルス・ガンを構えた。


ガンといっても、本当の銃ではない。


パルス・ガンとは――


人差し指の第一関節付近に巻いた電磁紐と、親指にはめた雷石の指輪を(こす)るようにはじく。


すると、雷石から電磁紐に向かってパルスが生じる。


あとは、そのパルスを目標めがけて飛ばすのである。


簡単に言っちゃえば、「指でっぽう」だ。


輪ゴムを親指と人差し指に引っ掛けて飛ばすあれと同じである。


輪ゴムの代わりが、親指と人差し指の間に走る一筋のパルスだ。


しかしその威力は、輪ゴム鉄砲の比ではない。


数回はじけば、かなりの殺傷能力を持つ。


また、電磁紐は材料さえ揃えば、割と簡単に作れるのだが、作り方によって、パルスの威力が異なる。


私は、強力なパルスを作れる特別製の電磁紐も持っていた。


自慢するわけではないが、私はタイン・シティのパルス・ガン女性部門(少女部門ではない!)の代表選手だ。(自慢かも……)


それこそ、遺伝子技術で蘇えらせた巨大なティラノザウルスですら、その気になれば一撃で倒せる自信がある。


まあ、今回のように一回はじくぐらいでは、せいぜい人を気絶させるぐらいの威力だが、それこそ瞬く間に準備OK。


ミーマを背に庇い、パルス・ガンを構えて、じりじりと後ずさる私。


「私から離れないで!」


「う、うん!」


私の背中に軽く手を触れたミーマが、うなづく気配が伝わってきた。


そして……奇妙な空間から現れた黒い影は、少しずつ人型の形を取り始めた。


……何!これ!?


本当なら、一目散に逃げなきゃいけないのかもしれないが、私は何故かその場に留まっていた。


そして、いつしかその影は――灰色の人型へと変化していった。


両手をついて、起き上がろうとする姿に少しずつ色がつき始めると――そこには、茶髪の男性の姿が現われていた。


私は、周囲を見渡した。


辺りには、私たちの他に誰もいない。


さっさと逃げ出せばよかったと、少し後悔の念が頭をよぎるが、時すでに遅し、といったところだろう。


突然、空中から現われた謎の現象、正体不明の「何か」に背中を向けても、良いことは何もなく、今さら逃げ出すことはできなかった。


やがて、すっかり実体化した男性がゆっくりと立ち上がる。


そして、軽く頭を振りながら、こちらの方を向いた。


「動かないで!」


私は油断せずに、指、つまりパルス・ガンを向けたまま言い放つ。


男性はきょとんとした顔で、正面からこちらをじっと見つめた。


……!!!


一瞬、男性に表情に驚愕の色を感じたが、その色はすぐに消え、男性はじっとこちらを見つめてきた。


年のころは、私より少し年上の感じだろうか。


皮のズボンに皮のジャンパー、両手には、指を出した掌だけを覆う黒い手袋をはめた、少々、痛い格好だ。千年ほど前に流行ったマンガの、荒れた世界の住人のような姿だ。もっとも、髪の毛はモヒカンではないけど……


そして顔立ちはというと――短く刈り込んだ茶髪、端正な顔立ち、切れ長の鋭い眼、きりっとした口元……もしかして、なかなかハンサムなんじゃ……


慌てて、私は首を振る。


呑気に考えている場合ではない。


私は外見で油断するほど、甘ちゃんじゃない。


パルス・ガンをいつでも発射できる体制のまま、もう一度叫んだ。


「動いちゃダメ!……少しでも怪しいそぶりをしたら、容赦なく撃つからね!」


背後でミーマが身体を固くしているのが伝わってくる。


だが、私の警告を無視し、男は、ゆらりとこちらに向かって一歩を踏み出した。


無論、私は黙っていなかった。(こうなったら実力行使あるのみ!)


もう警告するつもりなど、さらさらなかった。


問答無用で親指を軽く曲げ、パルスを放つ。


短い重厚な音を響かせて、細かい粒子のパルスが一瞬のうちに短い矢の姿を形作り、男性に向かっていった。


男性が右手を上げる。


命中!と思った瞬間――パルスの矢がかき消えた。




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