20.カーリー・アイランドへ
『マモナク37番線ヨリ、カーリーアイランド方面行キノ、エア・トレインF五号ガ発車トナリマス。ゴ乗車ノ方ハ、37番線マデオ急ギクダサイ』
エア・トレインの構内に、乗車の案内アナウンスが響き渡る。
「どこやラン、37番線って。全然わからへんやんか!」
「もしかして、レイトって方向音痴だったの?」
私は笑いながら、それでも「あっち」と指差しながら、小走りにかけて行く。
「うるさい。ホームとホームの間が何百メートルも開いとるような作り方が悪いんや。もっと、きっちり案内板くらい出しとかな、わからへんに決まっとるやんか!」
ブチブチうるさいレイト。
「でもレイト。案内板、上空にちゃんと浮いてるよ。ほら」
私の言葉に上を向き、しばしの沈黙後、頬に一筋の汗。
「……あ、案内板ちゅうんは、浮いとるもんやない!あんなもん、案内板とちゃう」
おそらく、最初に方向を間違ったのを気にしているのだろう。
私はおかしさを堪えきれなかった。
ようやく37番線への自走路を見つけた私たちは、それに乗って駆けていく。
「ラン!レイト!こっちこっち」
ミーマの声が聞こえた。
少し向うのエア・トレインの乗降口に立って手を振っている。
「ミーマ、ごめんごめん、遅くなって」
「俺が悪いんやないで。案内板が悪いんやで」
必死に言い訳するレイト。
「それよりラン、早くしないと、エア・トレイン、出発しちゃうわよ!」
ミーマが叫んだその時、発車のベルが響き渡った。
トゥルルルル……
「た、大変、急がなきゃ」
私とレイトはダッシュして、何とかギリギリ間に合った。
「……セーフ!」
「セーフやないやろ。ランが出かけるの遅いから、ギリギリになったんやないか」
私に文句を言うレイト。
「だって、女の子は準備に時間がかかるんだよ」
もちろん原因は私の寝起きの悪さにあるのだが、そんなことはレイトの前で口が裂けても言えたものではない。
だが、レイトは呆れ顔でミーマを指差した。
「でもミーマは、俺がロビーに降りたときは、すでに来てたで」
「だ、だって……、そ、そうよ、ミーマは天然だから準備に時間がかからないんだよ」
私は慌てて言い訳する。
「ねえ、ラン。私が天然ってどういうこと?」
無邪気な顔で聞くミーマ。
「そ、それは・……」
よけいにドツボにはまっていく私を助けてくれたのは、車掌さんだった。
「すいません、お客さん。できれば通路で会話してないで、早くお席にお着つきいただきたいんですが……」
……ナイス、フォロー!
「そうそう、案内板見落としたレイトが悪いんだし、とりあえず、まず席に行こうよ」
すかさず私は、その場をなんとかごまかし、さらに責任をレイトに押し付ける。
「ちょ、ちょい待ち、ラン!」
しかし――
「お願いしますから、早く席に……」
ジト目で見る車掌さんの迫力に押されたのか、レイトはそれ以上何も言わず、席へと向かった。
「そう言えば、結局ナックは来なかったね」
席に着いて飲み物を頼んでから、私は、ふと気がついた。
「ああ、そやな……しかし、その方がナックのためや」
レイトは、窓の外を見ながら軽くうなづく。
ミーマは、外を見てなぜか知らん顔だ。
「でも、昨日、ナックにあそこまで話しちゃって平気?彼は見習とはいえ、一応警察官なんだし……」
少し心配になった私が尋ねる。
「まあ平気やろ。あんな話、他の人間に言っても誰も信じへんて。それに本当のこと言わん限り、ナックは引かへんかったやろし……それに……あいつはな、結構いい奴や。それだけはわかる」
……そうか、だからレイトは、本当なら少しでも戦力が欲しいはずなのに、ナックのために、無理に巻き込まないため、彼があきらめられるように話をしたんだ……
レイトは本当に優しい人だ。
まあ、私たちは最初からの成り行きもあるし、それにゴーリーの予言もあったから、頭を下げてでも協力して欲しいと言ったのだろう。
「そう言えば、ミーマ、昨日ずーうっと部屋にいなかったみたいだけど、ナックと一緒だったの?」
なぜか急にミーマが赤くなる。
「い、一緒にお食事してただけよ」
おいおい、誰もなんかあったとは思ってないよ、ミーマ……
「た、ただ、あのときは、私もナックもお互いショックを受けてたから……」
ふーん、そうなんだミーマ……確かに、ナックは童顔だけどハンサムの部類だもんね。
でも、トスティのことで泣きつづけてるより、少しでも元気が出た方が私は安心だ。もう少し、からかおうかなと思ったとたん、ミーマが逆襲に出た。
「そういえば昨日の夜、ランとレイトもいなかったんじゃなかったかしら」
……ぎ、ぎくうっ
……天然入ってるくせに、そんなことだけ鋭いんだから……
「あ、あ、わ、私がたまたま街に出たら、た、たまたまレイトと会って……」
思いっきり言葉に詰まってしまう私。
横でレイトがくっ、くっと笑いをこらえている。
……こ、この男は……私の気持ちなんて、なんにも気づかないくせに……
首筋を赤くしながら、少しむっとする私。
「そうそう、確かに昨日の夜、街でサンタとトラブっとったランと会ったけどな」
「え、ら、ラン、あなたサンタさんに何か悪いことしたの?」
……やっぱりミーマ、いつも通りだね……
ちょっとガクっときたが、気がつくと話題が変わっていた。
……もしかして、これもわざとレイトが話を変えてくれたのかな……
しかし、レイトはすでに窓の外を眺めて何かを考え込んでいた。
……ま、いいか。
それに、昨日の思い出に(まあ、私だけが勝手にそう思っているわけだが)レイトが触れなかったことが、ちょっぴり嬉しかった。
こうして、他愛もない話をしながら私たちは束の間の旅を楽しんでいた。
タイン・シティから南F-5地区にあるカーリー・アイランドまでは、エア・トレインで約2時間である。
今日は、天候も良く快適だった。
エア・トレインとは、この時代の大陸間を結ぶ主な交通手段で、反重力を利用し高度8,000メートル以上を高速で飛ぶ。
地球を一周するのに最高速度でぶっ飛ばせば4時間しかかからない。
それでいて、反重力を利用しているため、気流などに影響されないから、まったく揺れることもない。
トレインの形は、一部地区で現在も使用されている電車と同じである。
本当は、反重力を利用しているため、電車の形にこだわる必要は全くない。それこそ家の形をとっても一向に構わないのだが、やはり人類は「旅」という言葉に対して、電車などの形が好まれるようだ。
実際、いろいろなバージョンのエア・トレインが作られたが、現在では全て電車型に統一されている。
やがて、南F-5地区にさしかかった。
現在は、地球上を、東西南北、A~Jのブロックに分け、さらに、それぞれのブロックを三十の地区に分けている。ちなみに私が住んでいたタイン・シティは東G-18地区だ。
やがて、徐々にトレインは降下しはじめた。
「わあ、見て見てラン」
窓の外を見て、無邪気にミーマがはしゃいでいる。
つられて覗くと、ところどころにぽっかり浮いている雲の間から、眼下にはコバルトブルーの海、そしてその向こう側に三日月型の島が見え隠れしていた。
「あれが、カーリー・アイランドか……」
レイトがポツリと呟く。
私は、昨日、ホテルのロビーで見たテレビの映像を思い出していた。
……そういえば、昨日の映っていた場所は、あの辺りかな……
記憶と実際の地形を重ね合わせてみる。
ふと、気がつくと、ミーマが食い入るようにカーリー・アイランドを見つめていた。
……ミーマ……
……そうだよね、トスティのこと心配だよね。
……さっきは冷やかしちゃってごめんね。
そっと、私は心の中で謝った。
アナウンスが聞こえてくる。
「マモナク、カーリー・アイランド二到着シマス。オ降リノ方ハゴ準備下サイ」
トレインは、わずかに右側に車体を傾け、カーリー・アイランドに向けて降下しはじめた。
次話は、明日の投稿予定です。
エア・トレインを降りたランたちの前に現われたのはナック。
ナックが所有するエア・シップで、カーリー湾に向かう――
次回 「21.エア・シップ」 です。




