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19.クリスマスの夜




「わあ……きれい!」


見晴台に上がってみると、街の点滅する色とりどりの明かりが、まるで宝石のように煌めいている。


私は小さな歓声を上げた。


時間も遅いせいか、見晴台には他に誰もいない。


私とレイトは、しばらく、そのまま夜景を見ていた。


さっきまでの身を引き裂くかのような孤独感は、いつしか嘘のように消えていた。


凍った心が、ゆっくり、ゆっくりと溶け、そして温まっていく。


「ねえ、レイト一つだけ聞いていい?」


「うん?なんや?」


町の明かりに目をやったまま返事をするレイト。


本当は、聞いてはいけないのかもしれない。最初に会ったときに聞いたときも、答えてはくれなかったし……しかし、聞くなら今しかないような気がした。


「レイトが未来に残してきた、守りたいものってなんなの?」


だが、レイトは沈黙していた。


「……ご、ごめんレイト、無理にはいいから」


私が慌てて謝りながら見上げると、レイトは遠い目をしていた。


「……あの時、俺が過去に向けて出発する直前、宇宙船の中で師匠、いや、ゴーリーは『幸運を……』と呟いたんや」


ポツリと話し始めたレイトの声は澄んでいた。


「俺が師匠と再び会える確率が、すごく低いことは、最初からよくわかっとった。

けれど……けれど、あのままでは確実に世界は崩壊を迎える。もしその崩壊を防ぐ方法があるのなら……それを見つけること自体がわずかな望みであったとしても……希望があるんなら、それに賭けたかった」


……やっぱり……


たぶん、レイトが守りたいものは、ゴーリーだっていう気はしていた。


レイトは、ゴーリーのこと師匠って呼んでるけど、もしかして育ての親なのかもしれない。


「ゴーリーが、どういう意味で『幸運を』と言ったのかはわからへん。

再び会えることを指していたのか、俺の安否を気遣っていたのか、無事スター・リピートの秘密を得れることか……

おそらく全ての意味を込めて言ったんやと思う」


私は黙ってレイトの顔を見つめる。


「……彼女は、全てを許容しとるような人やった」


私の目がまん丸になった。


「か、彼女!?」


「ああ、そうか、まだ言ってへんかったかもな。ゴーリーは女性や」


……う、うそ!


「ゴーリーは、偉大な科学者であって、不思議な予言者であって、俺の師匠で、そして……俺が……」


最後の言葉は口にしなかったが、私には、何を言おうとしたのかは、痛いほどよく分かった。胸がチクリと痛み、わずかな孤独感が再び忍び寄ってくる。


「で、でも、ゴーリーはあなたの師匠だったわけでしょ?……しかも、最後は……?」



……あ、いけない!


つい、言わない方がよい言葉を口にしてしまった。


そう、私の知っている歴史によると、予言者として、発明家としてあまりに才気を発揮しすぎたゴーリーは、やがて周囲から次第に疎まれはじめた。


そして、最後は賊にさらわれ、宇宙船ごと太陽に放りこまれて、原子すら残さず消滅したのだ。ある説では、その賊とは、連邦軍の特殊部隊だったとも言われている。


しかし、彼は苦笑しただけだった。


街の灯りが一斉に点滅を始めた。


何かイベントが行われているのだろう。


波のように揺れる色とりどりの灯りは、美しく温かかった。


「もし、この時代でスター・リピートが防げたなら、それは歴史が変えられる証拠になる。

だから、俺はこの時代にやってきた。スター・リピートを防ぐために……ゴーリーと俺の歴史を変えるために……」


ゆっくり振りかえったレイトが、私の顔を見つめた。その顔には深い決意が現れていた。


私は何も言えなかった。


「それとな、ゴーリーは確かに俺の師匠やけど、そんな年じゃないんやで」


不意に、レイトはにっこり微笑んだ。


「本当の年齢は俺も知らんかったけど、おそらく30歳ぐらいやったと思う」


レイトの微笑みを見た瞬間、私は決心した。


今は、レイトが過去を変えることに成功するよう、私にできる精一杯のことをやろうと。


レイトが誰かを好きであっても、そんなことは関係ない。


自分が好きな人の力になれること、今はそれだけを考えよう。


ついさっき、再び私を襲いかけた孤独感が、薄れていくのがわかる。


レイトと出会ってまだ一週間ぐらい。でも何年も昔から一緒にいるように感じる。


そしてあと一緒にいれるのは約一ヶ月ぐらい。


スターリピートが防げなかったらどうせ終わりだし、防げたらレイトは未来へと戻っていくだろう。


どちらにしろ先に待っているのは「別れ」だ。


でも、それで構わない。


私が満たされることより、レイトを満たしてあげたい。


どんな形でも、いつか必ず別れはやってくる。


その時間の長短を気にするよりも、その時間の密度を、そしてどう過ごしていくのかを気にしたい。


私は残された時間、自分の想いに素直になろうと決めた。


「師匠は本当に不思議な人やった。強く優しく、そして面白い人やった。

俺も、今回の旅を思いついたとき、死ぬほど悩んだし辛かった。

師匠と離れ離れになるわけやしな。しかも再び遭えるのかどうかもわからんかったし……

でも師匠は今回のことを話したとき悲しそうにしとったけど、最後は黙って頷いてくれた……」


レイトの吐く息が、白く夜空に吸い込まれていく。そして展望台の手すりに二歩ほど近づくと、小さく呟いた。


「本当は、今回の旅の結末も……」


途中で止めたその言葉は、自分に言い聞かせていたものだろうか……


「ねえ、レイト。師匠ってきれいな人なの」


私は何気なく聞いたつもりだった。


――――!


レイトが、はっきり息を呑むのが感じられた。


バリバリバリバリ……


突然、エア・カーの音が響き渡る。


そして、街の方から飛んできたエア・カーのライトが、正面から見晴台を照らした。


エア・カーが近づいてくるのに合わせて、ゆっくりとレイトが振り向いたが、ライトのせいでシルエットしか見えない。


しかし、なぜか私には、レイトが哀しく微笑んだのがわかった。


「……さあな」


そっけなく言うレイト。


エア・カーが上空を飛び去り静寂がもどる。なんとはなしに見つめ合う二人。


……しばしの時が流れ、レイトが言った。


「そろそろ、帰るか」


「……うん」


それは、2999年、クリスマスの夜。


地球の滅亡を目前にしているにもかかわらず、なぜか私のこれまでの人生の中で一番幸せなクリスマスだった――




次話は、明日の投稿予定です。



次の『緑の杖』の姿を求めて、ランたちはカーリー・アイランドへ向かう。

エア・トレインからは、三日月型の島が見え隠れしていた――


次回 「20.カーリー・アイランドへ」 です。

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