15.気が付くと……
どこか遠くで呼ぶ声がする。
「……ン、……ラ……ン!」
泥の中でもがいていた意識が、少しずつ自由を取り戻す。
「ラン!」
私は、ゆっくりと目を開けた。
定まらない視点の中、男性の顔が少しずつ輪郭をハッキリさせ始めた。
「――レイト?」
「気がついたか?ラン!」
「大丈夫?」
これはミーマの声だ……そして、突然意識が戻った。
「み、『緑の杖』は!?」
肘をついて上体を起こした私の問いに、レイトが首を横に振った。
「わからん。俺らも意識を取り戻したばかりや」
辺りは薄暮に包まれており肌寒い。
樹海の切れ間から見える空は、オレンジに彩られていた。
あの『緑の杖』は何だったのか……
本当の出来事だったのだろうか……
それに、何か大切だけどイヤな夢を見たような気がする。
中身は全く思い出せないが……
そして私は、ミーマが泣きそうな表情でいるのに気がついた。
「どうしたの、ミーマ」
すると、ミーマは両手で顔を覆って泣き出した。
「……トスティがおらんのや……」
レイトの声が暗い。
「え?」
体の強張りを感じながら、何とか立ち上がり、周囲を見回すが、確かにトスティの姿はどこにもない。
レイトとミーマに話を聞いたが、二人とも『緑の杖』を見た瞬間、意識を失ったとのことだった。
私が見た『緑の杖』が笑うところや、世界が歪み回ったような感覚については、全く気がつかなかったようだ。
そして、レイトが最初に意識を取り戻した時には既にトスティの姿はなく、私とミーマを起こそうとしたが、ミーマはすぐに気がついたのに、私がなかなか起きずに心配したらしい。
私たちは、それからしばらくの間、付近を探したが、トスティは見つけられなかった。
気がつくと、陽は完全に落ちていた。
満月の明かりが何とか完全な闇を防いでくれてはいるが、これから樹海を抜けて、さらに崖を登って磁場カーまで戻るのは難しいと判断した私たちは、救難発信装置を作動させることにした。
レイトが持っている磁場探査装置は、特定の磁場を探るだけの装置で、帰りの道を指し示してはくれない。
それに、どうやら『緑の杖』は、この地にもう留まっていないようで、あれだけ暖かったのが、上着を着ても寒さが凍みてくる状態になっている。
もちろん夜だから寒いということもあるだろうが、何より、レイトが持つ磁場探査装置が、何の反応も示さなくなっていたのだ。
私たちは、捜索の途中で見つけたエア・カーが降りれそうな小さな広場で、救難発信信号装置を起動させた。タイン・シティからの距離を考えると、救難隊が来るまでには、約30分ぐらいはかかるだろう
落ち込むミーマを慰めながら、私は、頭の中に重くしこりのように残っている「イヤな夢」のことを思いだそうとしていた。
だが、その記憶が確実にあることが分かっているのに中身が思い出せない。
イヤな夢だが、思い出さなければならない大事な夢だったような気がする……
ゴーリーの「日輪に囚われず、悪夢の中から真実を見付けなさい」という予言を思いだし、記憶の引出しを開けようとするが、どうしても取り出せない。
それに日輪という言葉にも心に引っかかるものがある。
私はもどかしさに小さくため息をついて、広場から西の方角を見上げてみた。
ちょうど、タイン・マウンテンの雄大なシルエットの右上に、真円の月が浮かんでいる。
レイトが、少し離れたところに座っている。少し赤みがかった月の光りが、その横顔を淡く照らしていた。
バリバリバリバリ……
やがて、反重力を利用した駆動装置特有の音を立てながらエア・カーが近づく音が聞こえ、レイトが信号弾を上げるために立ち上がった。
次話は、明日、投稿します。
一週間の捜索も、トスティは見つからない。
そうした中、カーリーアイランドで撮影されたクラーケンの映像と共に映っていたのは――
次回 「16.トスティ」 です。




