14.笑う『緑の杖』
「何?」
「わらかん!油断するな!」
私の問いに、周囲に警戒の目を向けながらレイトが鋭く叫ぶ。
警報音は止まらない。
「まさか――『緑の杖』?」
「少なくとも何か近くにいるで!」
私たちは背中合わせになって四方を見渡した。
隣にいるミーマの肩が震えているのが分かる。
だが、視界には木々が時折揺れるだけで、何も入ってこない。
次の瞬間、突然、警報音が鳴り止んだ。
いきなりの静寂が訪れる。だが、先ほどのまでの警報音が耳に余韻を残している。
「今のは何だったの?」
ミーマの震える声に、誰も答えられない。
やがて、皆の緊張感が、解けるのを感じたとき――それを待っていたかのように、再び警報音がけたたましく鳴り出した。
緩みかけた心が、ドキッと跳ね上がる。
そして、頭上から瘴気が降ってきた!
「上や!」
レイトが叫び、私は頭上を見た。
……こ、これは……『緑の杖』!!
そう、まさしくそれは『杖』だった。
先端が軽く円を描いたような牧羊で使う杖の形。
長さは1メートルぐらいか。
どこにでもありそうな『杖』。しかし、それは禍々しさと乾いた恐怖を纏っていた。
頭が痺れ、身体が動かない。それが放つ恐怖から目を逸らしたいのに逸らせない。
目もなく口もないのに、『杖』が明らかに私たちを――いや、私だけを見ているのが理解できた。
そして『杖』が笑った!
その笑いに私は絶叫する。
大気が揺れ、世界が動転し、私の意識は闇の中に吸い込まれていった……
◆◇◆◇
正面には、『巨大な緑』の杖が浮かんでいた。
私は、右手をまっすぐに上げ、ゆっくりと何度も弾いて十重のパルスを作る。
パープルのパルスが巨大な円盤を指の間に形どった。
それを確認した私は、左手を右手の下に添える。
すると、パルスは装置の影響を受け、収縮し、次の瞬間はじけた。
そして、私の指の間には、白く小さなコロナを巻き上げる日輪が現れた。
それは、まさしく小さな太陽だった!
『緑の杖』の足元を暗黒が蝕みつつある。
「ラン!」
レイトの、私の肩を握る力が強くなった。
『緑の杖』が持つ無機質な雰囲気が、よりその密度を濃くする。
思わず、その雰囲気がパルスを弾こうとしていた私の手を一瞬、止める。
しかし、意を決した私は次の瞬間、パルスを弾いていた。
日輪は球状に形を変え、まさしく太陽となって『緑の杖』に向かった。
『緑の杖』は、暗黒の穴に今まさに落ちようとしていた。その姿を、日輪が包み込み――
『緑の杖』は日輪を纏ったまま暗黒の穴にその姿を没していった。
「やったか!」
レイトが叫ぶ!
息が止まる一瞬……大気中に煌く緑のフラッシュがひときわ大きく輝き、暗黒の穴から虹色の光が拡散する。
無機質な声が頭の中に響いた。
『スター・リピート』
次の瞬間、無音のまま足元の大地が裂けた。
「!!」
悲鳴すら上げられない。
そして……地球はまばゆい光の中で四散した。
私は、時流の狭間に落ちて行くのを自覚した。
「レイト!!」
しかし、すでに周りは光しかない……
もう一度私は叫んだ。
「レイト!!」
激しく渦巻く時流の中で意識が暗転した……
次話は、明日投稿予定です。
ランが気が付いたとき、緑の杖は姿を消していた。
そしてトスティも――
次回 「15.気が付くと……」 です。




