10.谷の嘆きが止む時
側に近寄って、谷をそっと覗いて見る。深い霧のため谷の底は全く見えなかった。
その時、強い風が吹いてきた。顔に当たる冷気が痛い。
ウォオオーーン……
……谷が嘆いている!
確かに、人の声に聞こえないことはない。
「ここから、谷の下に降りれそうやで」
レイトが、広場から数メートル下の、足場となる突き出た平らな部分を指差した。
そこから、崖にそって谷の底に向かって降りている道が見えた。ただし、人一人がようやく歩けるような幅だが……
「そうね。細かく周りを見ていく必要があるし、気流が激しそうな谷を降りるのに磁場カーは向かないから、歩いて降りてみようか」
私の提案に、レイトとミーマが頷いた。
トスティは横を向いているが、もちろん異論は無いはずだ。
レイトは、辺りを見まわすと、少し離れたところに生えていた背の低い太い木を見つけ、あらかじめ準備していたロープをしっかりと結び付けた。
そして戻ってきたレイトは、崖からロープを垂らして長さが足りているのを確認する。
「よし、じゃあミーマ、強度を確認したいから、木が平気か見といてくれんか?」
「わかったわ」
そう言うと、ミーマとトスティがロープを結びつけた木のところ向った。
レイトは、ロープを軽く何度かひっぱる。
「どうや、木の方は平気そうか?」
「ええ、問題無いみたいよ」
ミーマの応えにレイトは「良し、OKや」と頷いた。
広場を薄く覆っていた霧もいつしか消え、澄んだ青空と谷を覆う濃い霧が、何か幻想的だ。
……何だろう?
その時、私は違和感に気がついた。
「レイト、何か変な感じがしない?」
「変な感じやて?……そう言えば、谷が嘆かなくなったな」
レイトが言った言葉に、私は違和感の正体を理解した。
さっきまで、ひっきりなしに「嘆いて」いた谷が、いつの間にか静かになっていたのだ。
「まあ、ええやろ。ミーマ、トスティ、ほな、行こ――」
レイトは軽く言うと、木のところに居た二人を呼ぼうとしたが、急に表情を変え、辺りを見回した。
「ラン!、やっぱ変やで!」
同時に私も、何か良くない「モノ」の気配を感じた。
ヴォオオーーン!!
重低音の咆哮とも聞こえるような音がお腹に響く。明らかに谷の嘆きの声ではない。
「ミーマ!トスティ!気をつけて!」
ヴォオオオオオーーーーン!
もう一度咆哮が聞こえる。しかも、さっきより近づいている!
「まさか……杖の下僕か?」
レイトのつぶやきに「え!何?」と聞いたとき、谷の中央付近の霧が突然、盛り上がった。
「来るで!」
次の瞬間、私たちは空中に浮かぶ「そいつ」と正対していた。
「何、これ……?」
私は、震える声でつぶやいた……
それは「龍」だった。
いや、龍など実在するわけが無い。
しかし――蛇のような細長い体一面に分厚い鱗を持ち、角の生えた獣の顔。まさしく昔話に出てくるような龍の姿だった。
体長はおよそ20メートルぐらいはあるだろうか。
かなり離れているはずなのに、すぐ目の前にいるように感じるぐらいの巨大さだ。
その口が大きく開き、光芒が生まれる。
「あかん!」
突然、レイトが私を突き飛ばすようにして横に跳んだ。
次話は、明日の投稿予定です。
突然の龍からの襲撃に立ち向かうランたち。
ランの攻撃が外れた時、龍に向かったのはレイトが放った光の矢だった――
次回 「11.龍の襲撃」 です。




