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09.タイン・マウンテン、嘆きの谷へ



「おい、どうしたんや?、ボーッとして」


朝食に向かおうと廊下を歩いていると、後ろからレイトに声をかけられた。


「……おはよう」


あまりこんな姿を人に見せるのはいやなのだが、今日はすぐに出発になるから、いやでも行動するしかない。


目は三白眼で、髪の毛も少し寝癖が残っていて、肩を落として暗い雰囲気をあたり一面に巻き散らかしている。


……もしかすると背後霊がいくつか見えても不思議はないかも……


十分、ウザイ存在かもしんない。


そう、私は寝起きがダメなのだ。


特に昨夜は、あの変な夢のせいで寝つきが悪く、いつもに拍車をかけた状態らしい。


それでも、いつもの朝なら、人に声をかけられても不機嫌なだけで何も気にならないのに、今、レイトに声をかけられると、何故か自分の姿が気になった。


「……あ、あまり見ないで……」


声までしわがれている。


レイトに見られていると思うと余計に暗くなってきた。(つ、つらい……)


その時、ポンと頭を軽く叩かれた。


「かめへん、かめへん。気にせんとき。

師匠もえらい朝が弱い人やったから、そんな姿は十分見慣れとるし」


特に私に視線を送ることなく、前を向いたまま軽口を向けてくるレイト。


あまりジロジロ見られていないことに気づき、私はホッとした。少しだけ元気が出てきた。


たぶん背後霊も見えなくなったに違いない……



◆◇◆◇



朝食の場で先に来ていたミーマ曰く「今朝はましね」、トスティ曰く「…………」(彼は私がパンダの着ぐるみで登場しても何も言わないだろう)と軽く受け入れてもらえ、なじみの二人のありがたさに感謝しながら朝食を終えると、もう出発の時間が迫っていた。


天候は回復していたが、いつ急変するか分からず、私たちは早めに行動することにしていたのだ。


一度部屋に戻り準備を整えて、ホテルの玄関前に皆が集合したとき、ようやく私はシャキンとしていた。


「ようし、復活!」


軽く伸びをしながら元気に言う私の姿を見て、ミーマがクスクス笑う。


昨日見た夢は、食事が終わった後、レイトだけには伝えていた。何しろ、ゴーリーの予言のこともある。


話を聞いたレイトは、何か考え込んでいたようだが、「あまり気にするな」とだけ言った。


また、新たな夢を見たら教えて欲しいとも言った。私は素直にうなづいた。


空は澄み渡り、冬らしい透明感が溢れている。太陽の日差しも柔らかく、空気の冷たさもどこか心地よい。


「ほな、行こか」


レイトの明るい声で、私たちは山への冒険に出発した。



◆◇◆◇



タイン・マウンテン東側中腹にある峡谷、通称「嘆きの谷」。


さほど広い谷ではない。霧が出ると、風が通り抜けるときの音が嘆く声に聞こえるために、そのような名前がついたようだ。


目撃者の話では、緑の流星が落下したのは、この嘆きの谷らしい。


私は、峡谷の東端の平らな部分に磁場カーを停止させた。


磁場カーとは文字通り地球の磁場を操って動かす全方位に動く車のことで(もちろん空中もOK)、ほぼ全自動で動く。


ミドルスクールに入ればその運転免許をすぐにもらえるぐらい、操縦は簡単だ。


各自が、リュック一個ずつの荷物を持って磁場カーを降りると、辺りにはうっすらと霧がかかっていた。


広場は、地上500メートルぐらいの高度にあり、ものすごく寒い。


ただ不思議なことに、昨夜、あれほど降ったはずの雪が全く見当たらなかった。


ミーマがぶるぶる寒そうにしているのは、いつものことだが、これぐらいの気温だと私もかなり応える。


広場の端に一人で向かったレイトも寒そうに見える。


全く平気なのはトスティだけ。


彼は普段、冬でも半そで短パンといういでたちなのだが、今回は体調が悪かったせいか、あるいはさすがに山は寒いと思ったのか、昨日から長そでの薄いモスグリーンのシャツに細身のジーンズだ。


しかし、トスティを除く三人は、ダウンベストを着るなど、かなり重装備だから、トスティの服装は異常といえるだろう。


「ちょっと、寒いな」


私はトスティの言葉に、蹴りを入れたくなったがなんとかこらえた。


……この、いつでも天然夏男!


さすがにミーマも、変な目でトスティを見ている。


なぜ、年中寒がりのミーマと、天然夏男のトスティのカップルがうまくいくのか、すごく謎に思えて仕方がない。


「おーい、こっちや」


先に広場の端を一周していたレイトが、私たちを呼んだ。




次話は、明日、投稿予定です。



嘆きの谷で、捜索を続けるランたち。

そして、谷の嘆きが消えた時、突然、現われたのは――


次回 「10.谷の嘆きが止む時」 です。

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