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ドラッガーのネジ   作者: 北見颯太
1/2

解散



どれだけ時間が経っただろうか。

野球部が、この廊下を8回走って行ったということは、きっと20分くらいは経ったのだろう。付き添いとはいえ、職員室の前で待つのは気が引ける。

すると、ようやく関口が出てきた。


「んで、どうだった?」

腰に手を当てながら関口に聞く。

「三澤の野郎、角で叩いてきやがった」

頭頂部付近に手を当て、しかめた顔で言ってきた。どうやら、出席簿の角で叩かれたようだ。


「そりゃそうだろ、どこの世界に公民の授業中に、競馬のラジオ聞く奴がいるんだよ。三澤もさすがに怒るわ」


「しかも、ラジオ没収しやがった」

「そりゃそうだ」

教室に戻ると、すでに誰もいない。


「17時20分か、、帰るか」

関口は、まだ頭を抑えながらカバンを背負う


「あ、俺このまま生徒会行ってくるわ」

机の中から、ポケコンと電子基礎の教科書をカバンに詰め込み、慌てて背負った。


「おう、待ってくれたのに悪いな」

「あ、TETSUYAに新作あるか見ておいて」

「わかった。お前の好きなスピッツな」

そうして関口は教室から出て行った。


私も教室から出ると、

廊下に、旋盤の切り子が落ちていた。ひとつひとつ拾い上げ、実習室に寄り屑籠に入れた。


「やばい、もう10分遅刻だな」

その足で生徒会室に向かった。

栄工業高校生徒会長総選挙が間近に迫っていた。



栄工業高校は、全校生徒600人の公立高校だ。

ひとつのクラスは40名で成り立ち、学年200名、3年生までの学校だ。

工業高校は、一般的な教養を学ぶのと併せて、専門分野に特化した学科授業と、実習を必須としている。


学科には、機械科、電子機械科、情報システム科、環境エネルギー科、土木科の5つがある。私は、電子機械科に所属していた。


工業高校のイメージは男子校と思われがちだが、女子生徒も全校生徒の約5%おり、私のクラスにも1人いた。高嶺の花と思うかもしれないが、逆の立場だったら3年間クラスに同性がいない環境は、なかなか居にくいと感じてしまうかもしれない。


工業高校の生徒は、制服よりも作業着で生活する方が多い。全校集会や行事などは制服だが、それ以外はTシャツの上に、薄緑柄の作業着を羽織って学校生活を過ごす。実習の授業では作業着を着て整列し、指導教員が号令をかけ、生徒は「1、2、3」と大声で点呼を取っていく。当時は、3の倍数でアホになるネタが流行っており、点呼中にふざける生徒もいた。


私は出席番号が11だから、ふざける余地はない。




生徒会室は校舎の3階、薄暗い廊下の端にある。

すでに、10名ほど集まっていたが、肝心な生徒会長と顧問の姿が見えない。


「遅くなってごめん。山吹さんは?」

山吹さんは、第46代栄工業高校の生徒会長だ。


「まだ来てないよ。小山さんのところに行くって、さっき廊下ですれ違ったときに言ってた」

加藤は、ルービックキューブを回しながらそう答えた。加藤は土木科で、同じ2年生だ。


小山さんは生徒会の顧問で、機械科の先生。

鬼のような教師が多い中、身長は小さく、絵に描いたようなおじさん体型から、よく生徒からイジられることが多かった。


「富田くん、これ目を通しておいて」

新山さんは、生徒会活動報告書を目の前に置いた。新山さんは3年生で、この学校の数少ない女子生徒の1人。情報システム科で、吹奏楽部でホルンを担当している。


外は薄暗く、雨の音に混じって校内で部活を行う生徒の掛け声が響いていた。


すると、山吹さんと小山さんが入ってきた。


「あー遅くなってわるかった。」

小山さんは、額に汗をかきながらワイシャツの袖をひとおりした。

「欠席者いるか?」

山吹さんは、長机の真ん中に着くと、深くパイプ椅子に腰を下ろして言った。


「田島が休むってさ」

新山さんが答えた。田島さんは生徒会副会長だ。


「あいつ、またバイトに行ったのか」

山吹さんと田島さんは3年生で、どちらも剣道部だったがすでに引退をしている。田島さんは、駅前にある喫茶店でバイトをしていた。


「まあ、とりあえずはじめよう。いよいよ解散だ。そして、新しい生徒会を決める選挙がはじまる」

山吹さんは、黒板に役員を書き始めた。



解散予定:10/31

生徒会公募: 11/1-11/15

選挙:11/18


役員:

生徒会長

生徒会副会長 2名

執行部 6名

議事録 1名

会計 1名

生活委員長 1名

体育委員長 1名

広報委員長 1名

応援団団長 1名


以上



山吹さんは、チョークで汚れたら手のひらを黒板で大きく音を立てて払うと、また椅子に深く腰を下ろした。


そして、腕を組み、深く息を吸って言った。

「俺らはこの1年よくやった。他校に存在感を見せつけ、栄工業高校の精神を知らしめた。俺は満足だ」


そして、また深く息を吸って


「解散!」

と高らかに宣言した。


外を見ると、いつの間にか雨は止んでいた。



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