創剣「異世界人って大豆食わないと死ぬのか?」
前回のあらすじ
・本編に合わせて前回のあらすじを入れているが、特に書くべきことはない
・多分最初の門の破壊の前くらい?
・どうせイフ時空だから、あまり気にしなくていい
創剣が卯月と仮契約をした後。
何度か食事をする機会があったが、創剣は大抵卯月に食事の材料を聞いた。
異世界人であり、食に不安を持つのは当然だと思っていた卯月は、創剣の質問にきちんと答えていた。そんなある日のことである。
「創剣、今日の朝食は味噌汁と納豆、ご飯と肉みそだ」
「ふむ……? 泥水か?」
「味噌汁だ。味噌って言う大豆から作る調味料に、今日はわかめっていう海藻と豆腐、それにネギを入れている」
さりげなく失礼な創剣を正しつつ、卯月はさっさと配膳する。そして、付け加えるように創剣に言う。
「初心者に納豆はきついだろうから、駄目そうだったら食わなくてもいい」
「ナットウ……なるほど、この腐った豆か」
「発酵って言ってくれ。大豆を発酵させて作った食事だ。醤油をかけたりして食べると美味い」
創剣の言葉を訂正しつつ、卯月はさっさと食事を始める。真っ先にパックの中に入った納豆をかき混ぜ、たれと辛子を混ぜ、そのままご飯に乗せる。生卵を乗せようかと一瞬迷ったが、ねばついている豆の時点で十分創剣がドン引きしているため、自重した。
卯月が食事をしている姿に、一応毒は入っていないと判断したのか、創剣は恐る恐る味噌汁に手を伸ばす。そして、器に口をつけ、そっと飲み込む。
熱かったのか、一瞬顔をしかめるも、白い立方体に首を傾げ、卯月に聞く。
「この白いのがトウフというものか?」
「ああ、そうだ。大豆とにがりで作った加工食品だな。夏場は、冷やしたそれにネギだとかショウガだとかの薬味を乗せて、冷奴っていう料理にしたりもする」
「ふむ……」
口の中でほどける豆腐の触感が気に入ったのか、創剣は普通に味噌汁を食べると、次は肉みそに手を伸ばした。
卯月は、ひき肉を多めに買って、古くなりそうになったときは大抵キーマカレーにして冷凍か、肉みそにして長期保存かハンバーグである。
スプーンを使って小皿に肉みそを取り分けた創剣は、箸で少しだけつまみ、口に含む。
「……なるほど、このミソシルとやらに使っている、『味噌』とほかの調味料で味を調えているのか」
「ああ。俺は基本的に、味噌と酒と醤油、それに砂糖だな」
「醤油と言えばアレか。大豆で作った調味料か」
そこまで言ったところで、創剣は一瞬箸を止め、困惑したような表情を浮かべる。
「貴様、コレ、ご飯以外すべて大豆を使っていないか?」
「ん? あ、そう言えばそうだな。加工されているから、あまり気にしていなかった」
「何? 異世界人って、大豆食わないと死ぬのか?」
「どういう偏見だ、それ」
首をすくめて言う卯月に、創剣はツッコミを入れる。
「たわけ。よくよく考えてみれば、調味料に使っているのであれば、毎食大豆を食っておることになろうが! よく飽きぬな!」
「んなこと言われたって……」
「大豆でできた酒があれば、おおよそすべての料理に大豆を使ったフルコースができるのではないのか?」
そんなもの、あるわけなかろうがな、と鼻で笑いながら付け加える創剣に、卯月は納豆ご飯をかき込みながら言う。
「大豆で作った酒、あるぞ? 何なら、大豆ご飯とか、炊き込みご飯に大豆を入れることもあるし」(注1)
その言葉を聞いた創剣は、一瞬真顔になると、哀れみの色を瞳に混ぜ込み、口を開く。
「……やはり貴様ら、大豆を食わねば死ぬのか……」
「変なところで哀れみを感じないでもらえるか?!」
なお、日本人はかつて、動物性たんぱく質縛りの食事をせざるを得なかった時期が多く、大豆を食べなかった場合、たんぱく質不足で普通に死んでいる可能性があった。
つまるところ、創剣のセリフは、遠からず近からず、と言ったところだった。
ちなみに、創剣は納豆を食べられるが、基本的に肉や魚の方が好みであるらしい。
「旅の最中には、腐ったものを食わざるを得ない時もままあったからな」
「……倉庫持っているのに?」
「たわけ、俺様とて、生まれつき万能であるわけがなかろう。倉庫を持っておらんかった時期だ」
「へぇ、そんな時期あったんだ」
「まあ、気にするな。人には誰しも暗黒時代と呼ばれる時期があろう」
「根が深いな、おい!」
(注1)
大豆のお酒→本当にある。
大豆ご飯→あるにはある。炊き込みご飯の方が一般的
ちなみに、創剣はよくワインを飲んでいるが、地域的にコメの栽培に向いていない場所なので、アルコールが基本的に麦やブドウから作られているものが一般的。北国で降雨量が少ないところで米なんて作っていられんのよ……
あと、創剣は舌が肥えているが、めちゃくちゃ差別されていた時期には食事どころではなかったため、不味しい食事も全然いける人。いろいろ文句はいいつつも、卯月の作る食事を完食しているあたり、それなりに食事には満足している……と思う。