召喚時のあれやこれや
前回のあらすじ
・正気か?
・コッチは『テール(物語)』じゃなく、蛇足の方の『テイル(尻尾)』だぞ?
・召喚のときに、創剣がn徹目だった場合(n>4とする)(注1)
「異世界を救う……なるほど、よく、冒険小説で読むものだな」
創剣はそう言いながらもうきうきした気分が隠しきれなかった。召喚場所がよほどの……それこそ、火山の火口の真上であったり、深海であったりしない限り、生き残れる自信があったため、緊張感よりも先に期待が沸いていたのだ。
『あのー、創剣様、準備を……』
「しておるだろうが、たわけぃ」
創剣はそう言いながら、自室にある物品を適当に倉庫の中にねじ込み、逆に、倉庫の中に入っていた、執務に必要そうなペンやら印鑑やらを仕事用のデスクに置いていく。
「ベッドはどうするか……いや、王たる俺様を呼び出すということは、それこそ王城に呼び出されるか、そうでなくとも貴族程度の扱いは受けるだろう。いらぬか__だが、寝具が肌に合わぬのは……よし、とりあえずシーツごと持っていくか」
創剣は鼻歌交じりにそう言いながら、天蓋付きのベッドを虚空の倉庫にねじ込み、ついでと言わんばかりに部屋にあった家具のほぼすべてを倉庫にしまい込んだ。
余談ではあるが、創剣は寝るときは全裸派である。寝具をつけると息苦しいとのことだ。
しばらく徹夜続きでテンションがおかしくなっていた創剣は、何故か満面の笑みで荷物を倉庫に消していくと、少し考えてから鎧に着替える。召喚されてすぐに攻撃されても面倒だと判断したのだ。ついでに、召喚した人物に勇姿を見せつけたいというところもあった。
「しかし……俺様を召喚するか。怖いもの知らずか、どうしようもない阿呆か、といったところか? あと、こういう時に呼び出すのは、美しい姫君だと相場が決まっているからな。ちょうどいい、今は妻がいない故、気に入ったら娶ってやっても構わんな」
『……あのー、創剣様。呼び出す召喚士は、選ぶことはできないのですが……』
「構わん。俺様の豪運を舐めるな」
なお、創剣はこの後、卯月に召喚されることを知らない。
創剣は本棚の前に立ち、いくつかの本をもっていこうか悩んだ後、そのまま放置していく。どちらにせよ、向こうに行けば本を読んでいる暇などないだろう。何せ、世界の危機だ。
「異世界と言うくらいだ。文化的なものはあまり期待しないほうがいいだろう。神の手違い程度で危機が訪れるということは、それなりに荒廃している可能性も、そもそも文化的に貧弱であることも考えられる」
『すさまじく失礼なことを言っていますね』
「何、ただがた神の手違いだぞ? 異世界の住人たちの中に神殺しを果たしたものがいないあたり、おおよそ予想できるわ」
『神を殺せるほうがイレギュラーですけどね?』
ツッコミを入れる天使に、創剣は肩をすくめて、虚空の倉庫からフランベルジュを取り出し、鞘に納めると腰につける。何かと便利な剣であるため、エクスカリバーを使うほど敵を確殺する予定がない時にはよく使っているのだ。
……そう、確殺する予定がない時には、エクスカリバーは使わないのだ。
軽く体を動かし、創剣は天使に聞く。
「さて、これから行く異世界、言語はどうなっておる?」
『会話、読文ともに問題ないように調整しております。ただ、廃棄物に関してはどうしようもないですね』
「なら問題ないな。俺様の国の言葉を広める必要がないのは、少々残念ではあるが」
『文化侵略はちょっと……どちらにせよ、廃棄物の影響で、もともと地球……創剣様の行く予定の異世界に何らかの影響があることは予想されていますが、あまり世界をめちゃくちゃにされると、我が神が世界の巻き戻し案件にしてしまう可能性があるので……』
「むぅ……やはり、神は自分勝手だな……いっそ殺すか?」
『天使の前で神を殺すとか言わないでもらえますか?!』
思わず突っ込む天使。
鎧を着こんだ創剣は、天使に言う。
「ともかく、全ては異世界に行ってからよ! 何、俺様はほぼ不死身だ。そう簡単に死にはせん」
『はぁ……そうですか。まあ、とにかく行きましょう』
「よかろう!」
__なんかテンション高いな……
ややあきれている天使によって、創剣は異世界__地球へと送られた。
創剣「……男ではないか!!」
卯月「突然なんだ?!」
・召喚のときに、卯月がn徹目だった場合(n>1とする)
「召喚……か。安須に見せてもらったことのあるラノベだと、大抵綺麗な女の人が召喚されるよな。それか、ドラゴンとか、最初は弱いけど、育てるとありえないくらい強くなる生物とか、そう言う感じか?」
『……あのねえ、召喚に夢を見るのは勝手だけど、そんなのが簡単に呼べたら、召喚士なんて制度、作っていないからね?』
あきれたように言うルマエル。
卯月は肩をすくめて「それもそうか」と言い返すと、ふと思い出したように口を開く。
「そういや、希少生物とかを召喚しちゃったときって、食事とかどうすればいいんだろう? 肉食の生物を召喚するだけで食費がひっ迫しそう」
『考えることがみみっちいな。倒した廃棄物でも食べさせておけばいいじゃないか』
「スライムとか、可食部皆無だろ。ってか、そんなものを食わせたくないし」
腹壊すだろ、と思いながら、卯月はふと、思い出したことを口に出す。
「ラノベでスライムのゼリー部分を食べて、美味しいとか言っているやつがあったけど、地球で再現しようと思ったら、めちゃくちゃ中和すれば何とかなるのか?」
『知らないって。少なくとも、いい感じに中和したところで、大量の塩が生成されるから、それどころじゃないでしょ』(注2)
「うーん、そうか……夢が無いな」
少しだけ残念そうに言う卯月。ルマエルは面倒くさそうにふわふわと宙を漂うと、あっさりと言う。
『そもそも、廃棄物を食べようとしないでくれる? どんな病原菌を持っているのかわからないんだよ?』
「ああ、うん、確かにそうだな」
あまりにも常識的なことを突っ込まれた卯月は、決まり悪そうに肩をおろす。とにかく、早く動物のパートナーを召喚しなくては。
なお、卯月はこの後、創剣を召喚することになることを知らない。
卯月「せめてそこは、可愛い女の子とかじゃあないの?」
創剣「普通に不敬」
・召喚のときに、ルマエルがn徹目だった場合(n>20とする)
『はいはいはい、さっさと召喚するよ!』
「何でそんなに焦っているんだ……?」
『うるさいな、こちとら召喚術式の構築やら設定やらで休む間もないんだよ! しかも、営業課のやつらに召喚士の勧誘の仕事も押し付けられるし……!』
心なしかふわふわの毛玉がしおれているようにも見えるルマエルが、卯月に向かって言う。どこかやけくそ感もあるその言葉に、卯月は少々引きながらも召喚術式を展開する。
召喚されたのは……
「……なあ、ポーションだけなんだけど?」
『またバグか!!!!』
発狂するルマエル。その様は、プログラムで『 }』の書き忘れのせいで再度プログラムの書き直しをしなければならないプログラマーそのものである。しかも、『for』ループと『while』文を多量に使っている箇所の……(注3)
星3以上でも星3のポーションが出てきた卯月は、頭を抱える。とりあえず、ルマエルは少し休んだ方がいい。
卯月「この場合、どうするんだ?」
ルマエル『再召喚を許可するよ』
(注1)
論理和。大なり小なりのあれ。なお、天使は基本的に睡眠をとらなくていいため、休憩なしで働いた日数と換算しても構わないものとする。
(注2)
中和反応した後に出るあれ。『しお』ではない。『えん』である。
ちなみに、スライムはアルカリ性のもので中和できると分かっているが、塩の検出をしても、何の成分が入っているのかわかっていない。怖いね。
なお、小説を書く際、『えん』と入力するよりも、『しお』と入力したほうが手っ取り早いのは言わない約束。『えん』だ『えん』
(注3)
真面目に発狂案件。
防ぐには、横着せずにきちんとプログラムを書くことなのだが、何分面倒になったり、そもそもソースのコピペミスだったりするため、とにかく面倒くさい。作業時間何時間の直後の『}』が足りませんは本当に苛つく。
良い子の皆は、タブキーを有効に使おうね! あと、実装前のデバックは忘れずに!