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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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公爵令嬢に転生しまして……

作者: マルコ

 マジかー


 朝起きた時に前世を思い出した。

 物語でよくある、頭を打っただとか、高熱を出したということも何もなく。


  いつものように過ごし、いつものように就寝し、夢は見たのか見なかったのかは分からないが、いつもと同じように目覚めた時、何の脈絡もなく、前世を思い出したのだ。

 

 とりあえず、顔を覆ったシーツを外して天井を見上げる。


 知らない天井だ。


 いや、知ってる。何せ、毎日寝てるベットだ。

 それまで使っていたベットでは小さくなってきたので半年ほど前に買い換えたが、既に見慣れた天蓋の天井。

 

 天蓋付ベット。っていうと高級ポイだろ?

 実態はただの埃避けとか蚊帳とかなんだぜ。

 いや、高貴な方の寝姿を見せない。とかいうのもあるんだろうけどさ。ベット目視できる場所に入られている時点でアレだし。


 まぁ、とりあえず言ってみたかったセリフを言ってみただけだ。


 つか、目覚めて最初に見るのが天井。って普通なの?

 今世も前世も、起きて最初に見るのは天井じゃなくてシーツや枕なんだが。


 ああ、そうだ。前世だ。

 前世の俺はまぁ、普通のサラリーマンだった。

 中の下程度の大学を出た割には大企業に就職できた。

 当時は俺凄くね? とか思ったけど、違う。

 

 大企業だから、「使えねー」人材でも飼っておける体力があるから、俺みたいなのでも滑り込めたんだ。

 

 そっからは、まぁ普通に仕事をしてた。

 失敗もしたし、プロジェクト完遂したりもした。

 同期が部長になったのを人事通知で見た俺はまだ平社員だ。……だった。

 

 とはいえ、出世には興味はない。非モテをこじらせていたので、一生独身のままだろうと思っていたし、その前提であれば、今の給料でも老後の心配は無かった。


 死んだから老後の心配もクソもなかったけどな。

 得意先に出向いて、約束の時間まで喫茶店でくつろいでたら、例のアノ車(ミサイル)が店に突っ込んできたんだ。多分即死。

 特に痛みに苦しんだ記憶が無いのが幸いだ。


 あー、どうせアラフォーで死ぬなら、もっと豪遊しとけばよかったかな?

 つっても、そこまで金かかる趣味は無かったケド。

 車なんかにも興味は無かったので、経費的な方面でも大きな買い物も無かったし。

 趣味といえば、魔法学の講義動画をMagiTubeで漁って、密かに練習するくらいだった。

 ……魔力ほとんど無かったから、いつも30分くらいでヘバってたけどな!


 それに比べれば、今の俺は魔法の才能はかなりあると思う。前世とは扱える魔力量が違うし、魔力を動かす感覚もスムーズだ。

 

 これは趣味的にも、実益的にも喜ばしい。

 何せ、野生の魔物が普通にヒトを襲ってくる世界なのだ。

 前世では動物園くらいでしか見たことがなかった魔物が、普通に近場で出現した。って知らせがあったくらいだしな。

 

 ……まぁ、前世でも田舎の方に行けば出てきたらしいのは、TVとかで見たけどさ。

 とにかく、危険が身近にある世界なので、護身用にそれなりの魔法が使えた方が良い。


 そういえば、この世界。前世とは全く別の世界であるらしい。

 文明も中世?近世といったところだろうか? ……歴史方面は詳しくないので、イメージだが。

 

 過去トリップの可能性もあると思ったけど、国も聞いたことない国だし、世界地図ぽいの見たことあるけど、大陸とか全然違ったし。


 ラノベかよ!


 と思うが、だいたいのパターンでは、魔法の無い世界に転生して無双する話ばかりだ。

 だけど、この世界では魔法も普通にあるから、ラノベみたいな事はできないだろうな。


 とりあえず、異世界転生したことまでは、良い。

 いや、良くはないが、こっちの問題よりは大した事はない。

 俺は、念のために手を股の方へと持っていく。

 

 ……よし、オネショはしていない。

 

 いや、違う。

 そっちも大事だが、それではない。


 そこには、無かった。


 水気も無かったが、アレも無かったのだ。


 俺は、女の子に転生してしまったのだ。


 あー、ショックなのとホッとしたのが混ざった変な気分だわー。


 転生前は男だったから、女の子になってショック。

 今生は女の子としてずっと育ってたんで、生えたりしてなくてホッとしたんだ。


 コレ、折り合いつくんかな?


 そんな風に思ってたら、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 反射的に「どうぞ」と応えると、「失礼します」と少女が入って来た。


 俺より2才ほど上の見習いの使用人だ。

 将来的には俺専属のお世話係になる予定の少女で、使用人としての勉強の傍らで俺のお世話や話し相手になってくれている。

 名前はマーシャ。ウチの派閥の男爵令嬢というやつだ。


 うん。ウチの派閥。

 今生の俺の名は、リリアンヌ・ドゥケ・マルキオーニ。

 公爵家のご令嬢なのだ。

 

 公爵家ともなると、使用人も平民や奴隷だけでなく、格下の貴族家の者だったりする。

 流石に、全員じゃないけど、家族と直接接したり、お客様の対応をするのはそういう上流の者だ。

 なので、俺専属(予定)の使用人は男爵家のご令嬢なのだ。

 

 ……むしろ、もう少し上の身分が普通らしいんだけど、派閥の娘で、適当な年齢なのは彼女だけだったらしい。


「おはようございます、お嬢様。既にお目覚めとは、まさか……」

「してないよ! ほら!」


 いや、うん。

 彼女が来るまでに目を覚ましてる時って、だいたいがそそうした時だったからね。

 疑うのはわかる。わかるけどさぁ……


「まぁ、良かったですわ。……では、お着替えを」


 マーシャが外に合図を送ると、着替えを持った使用人が入ってくる。

 ……シーツを持った者が戻って行くのがチラッと見えたのは、極力気にしないようにする。


 とりあえずは、いつもの様に姿見の前まで行き、寝着を脱がされる。

 下着とかつけて無いので、それでスッポンポンである。

 

 鏡に映った全裸の幼女。

 ……あー、うん。何の感慨もないわ。

 

 俺、前世はロリコンもあったと思うんだけどなー。二次元限定だったからか、それとも毎日見てる自分の裸だからか、なーんも思わん。もうちょっと成長したら、何か変わるんだろうか?


 うん。大分自惚れ入ってるだろうけど、俺可愛いと思うんだよね。

 ちょっと顔がキツ目だけどさ。

 10年後とか、超美人だと思うのだよ。

 ……とりあえず、前世みたく不摂生で腹が出ない様にしよう。せっかくの素材なんだし。


 そんな事を考えている間にも、俺の着替えは着々と進んでいく。


「今日の予定は、どうなってるの?」


 そういや、この世界……というか、国の言葉。日本語じゃないんだよね。当たり前だけどさ。

 言語理解のスキルとか無いから、言葉も文字も、習った範囲でしか分からない。我が家が「公爵」っていうのも、「王様の次にエラいんだぞー」って父親の言から、そう理解してるだけだ。

 

 まぁ、何が言いたいかというと、どこかの物語みたいに勝手に本を読んだりしても、内容が理解できない。って事だ。

 つまり、そんなに天才とか云われてるわけじゃない。

 まぁ、前世の記憶で計算とかはできるようになるかな?


 そんな事を考えてると、マーシャが今日の予定を告げてくる。

 どうやら、今日は午前中に文字の勉強。そして、午後はドレスの採寸らしい。


 ……ふむ、ドレス……ね。


 俺はマーシャの格好を見ながらちょっと考えた。

 彼女たち使用人の格好は、動きやすい私服だ。

 残念ながら、メイド服とかじゃないんだ。

 せっかく、本物の使用人なのに。


 今までもなんとなく彼女たちに対して、言葉にできない不満があったのだが、記憶を思い出した今、ハッキリと自覚できる。


 そう。


 メイド服を着せてみたい!


 ちょうど、今日はドレスの採寸で馴染みの服飾店の者が来るのだ。

 ちょっと相談してみても良いかもしれない。



 ◇



 さて、俺が記憶を思い出して1ヶ月。

 ある日突然性格が変わった俺を家族は怪しんで──いなかった。

 

 というか、俺の性格は特に変わったわけじゃない。元々こういう性格だった。

 うん。ぶっちゃけ、男の子ぽいじゃじゃ馬娘。

 

 これ、まだ子供だから許されてるんだろうなぁ……むしろ、淑女ぽくしていった方が良いかもしれない。


 そんな俺が今居るのは、従兄(いとこ)の誕生会の会場だ。

 1ヶ月前のドレスの採寸は、このためのものだったわけだ。

 

 前世ではパーティなんて、結婚式か会社主催の新年会くらいしか出たことが無かったし、今世でもこれが初めてだ。

 

 ……まぁ、初めての練習としては、従兄(いとこ)の誕生会というのは、ちょうど良いのだろう。

 パーティといっても、子供ばかりが集まるお茶会レベルだし。

 しっかし……


「結構、目立ってるねぇ……」

「そりゃぁ、目立ちますよ」


 俺の呟きに応えたのは、俺のお付きのマーシャだ。

 料理を取ったり、毒味したりする役目。

 マーシャも男爵令嬢なのに、毒味でどうにかなったらどうすんねん!

 って思ったけど、そういうモノらしい。えー……


 とりあえず、今世の第一目標は解毒魔法の取得にしたよ。

 前世では生物(ナマモノ)とか食べる時にチョコッとおまじない程度にやってた程度だから、ガチの毒薬に対抗するようなのはTVで見ただけなんだよね。二日酔い対策でアルコール分解までは、やったことある。動画知識でも、ちゃんと勉強すれば、何とかなる……と、思いたい。


 ああ、そうそう。何が目立ってるかといえば、マーシャの衣装だ。


 うん。メイド服。

 

 あの時に相談して、1ヶ月で作ってもらった。

 アキバで見るような、バッタモンじゃないよ。ちゃんと機能重視のヴィクトリアンなロングドレスタイプ。

 

 ちゃんと機能面も考えて作ってるから、エプロン部分をトレーや籠代わりに使えたりする構造。

 

 ……間違ってスカート持ち上げちゃっても良いんですよ?


 とまぁ、機能重視のメイド服でも、この世界では新規デザインのドレス。

 10倍くらいの値段で作らせた俺のドレスより思いっきり目立ってた。


 で、そんな新デザインのドレスを着てるのが、公爵令嬢の俺じゃなくてお付きの男爵令嬢。

 

 公爵令嬢と直接お話しできるような身分の子は、たかがお付きの男爵令嬢のドレスを話題にするわけにもいかず、もっと下の身分の子は公爵令嬢のお付きに何か聞くわけにもいかず……

 

 で、遠巻きに見て、誰かがそれを話題にしないか、聞き耳を立ててる。って状況。


 いや、キミタチ俺と同年代だよね?

 お子様だよね?

 前世だと幼稚園児?小学生とかだよね?


 何でそんな遠慮してるの?


「遠慮……というか、どちらかというと、お嬢様に怯えてるのかと」

「あー、そっちかー」


 うん。

 俺、元々目が吊り目がちでキツい。

 それに化粧すると(倍率ドン)、さらに倍。


 いやー、中身が俺だから、残念令嬢のつもりなんだけどねぇ……


 その親譲りの怖い顔×(かける)化粧に、従兄(いとこ)のとはいえ誕生パーティーなのでお嬢様モードで頑張ってるから、どこぞの悪役令嬢みたいな仕上がりになってるわけだ。


 マーシャは自慢したいけど、下手に喋ったらボロが出るから話しかけられたくない。


 そんな複雑な心境なので、まぁこうやって遠巻きに羨ましがられる。ってのは悪くないかもしれない。


「おひとりですか? お嬢様」


 おう、色々考えてたら、声をかけられた。


「ええ、は……い」


 なんだ、お前かよ。

 という言葉を飲み込んだ自分を褒めてやりたい。

 声をかけてきたのは、今日の主役の従兄(いとこ)だった。


 従兄妹(いとこ)兼、幼なじみ兼、悪友。といったところだ。

 

 ぶっちゃけ、俺のじゃじゃ馬っぷりを知ってる相手だし、こっちも似たような感じで接してる相手だ。


 で、パーティの最初に()()()()の態度でお互いに挨拶して、お互いに吹き出すのをこらえるのに苦労したのだ。

 

 せっかく、あの時にこらえるのに成功したのに、何故にまたヨソイキモードで声をかけてくるか、この従兄(いとこ)殿は!?


 せめてひとりで声かけてきたなら、ちょっと吹き出すくらいはできたのに、ゾロゾロ取り巻き連れやがって!

 

 ……いや、今日の主役がひとりでうろつくワケないが。


「お仲間に入れてくださいますの?」


 そう問うと、従兄(いとこ)本人より後ろの取り巻きの顔が引きつるのが見えた。

 

 ……そんなに嫌か? ちょっと悪役令嬢顔だけど、美人だろ? 男にモテたいとは思わんけど、流石に傷つくぞコノヤロウ。


「いや、今日の連れにはキミは毒だからね。止めておくよ」

「あら、つれない」


 ヨソイキモードでも容赦ねーな、コイツ。まぁ、変に優しくされても気持ち悪いけどさ。


「そんな事より、キミの付き人のドレスさ。もしかして、最近作ってたドレスは彼女のだったのか?」


 あー、そういや2週間くらい前にウチに来た時に服作ってる事言ったっけか。

 あの時はマーシャに着せるとは言ってなかったから、そりゃぁ俺が自分で着る用だと思うわな。


「ええ、お付きだと分かるように、ね。彼女も、私より地味なドレスを毎回選ぶくらいなら、制服がある方が都合が良いと」


 そう。

 お付きは主人より目立たないドレスを着るのは常識。かといって、ランクが下のドレスを仕立て続けるのは、結構な苦痛なのだ。せっかくのパーティなのに。

 

 それなら制服で毎回同じものを着ろ。と命令されるほうがマシ。

 というのが、マーシャ他我が家の使用人の意見だった。

 じゃぁ、普段から制服にしようぜー。と話を持って行った。

 

 実用重視のメイド服なので、可愛さと実用性のバランスはこれからマーシャを中心に実施試験だ。


 そんな事をお嬢様言葉で従兄(いとこ)……レオンに伝える。もっとぶっちゃけた話はまた今度ウチに来た時にでもすれば良いだろう。


 ……そういや、俺の方からレオンの家に行った事無いんだよな。

 今日だってお城の中庭借りてのパーティだしさ。


 ……伯父さん、俺のアレな性格も笑い飛ばしてくれる豪快なヒトだから好きなんだけど、弟の父さんに家督譲って何してるんだろう?


 一応、こうやってお城の中庭貸してもらって、息子の誕生会できる程度には貴族やってるんだろうけどさ。


 ……あ、もしかしたら自分で勝ち取った男爵位とか名乗ってるのかも?

 男爵でも、元公爵家長男で自力で勝ち取った爵位ってなら、それなりの影響力はあるだろうし。

 よし、今度会ったら自慢話を聞かせてもらおう。



 ◇



 あの後日、伯父さんに爵位聞いたら、大笑いされた後に「ナイショ」だと言われてしまった。

 しかも、レオンにも我が家の使用人にも緘口令発動。

 なんでやねん……


 ちょっとした武勇伝でも聴けないかと思ってただけなのに、こうも秘密にされると気になって仕方ない。

 つーか、レオンにアホの子を見る目で見られたのがクソ悔しい!


 あー、でも家人(マーシャ含)は伯父さんの言うこと聞いて全然喋らねーし。他の人に聞いたら俺がアホだと思われるらしいし……

 

 うん。一緒にバカやってるレオンですら「コイツバカじゃねーの?」とか思ったのなら、赤の他人なら余計だ。


 さて、そんな風に伯父さんの身分はどうにも知れないので、気にはなるけどそればっかり気にしていてもしょうがない。

 そんな事よりやらなければいけない事、やりたい事は多いのだ。


 先ずはやらなければならない事。

 無論、勉強だ。淑女教育や語学、歴史、魔法学、数学などだな。


 数学はともかく、他は結構大変だ。魔法学とか、前世と別の理論が主流だったりして、ど素人の俺にはどっちが正解か、この世界ではそれが正解なのか分からないから、イチからの勉強だし、歴史なんかは前世と全然違う。まぁ、こちらはラノベの歴史設定のような感じで楽しく勉強できるのが救いだな。

 

 一番キツいのは、淑女教育というやつだ。

 歩き方、言葉遣い、食事の作法とか超細かい!

 とりあえず、前世で見てた物語のお姫様とか、今世の母さんの言動を真似したりして何とかこなしてる。


 その合間にやりたい事もやっている。

 主にオシャレだ。

 せっかくの美少女なのだ。好き勝手に着せ替え人形にできる素材が自分自身(+お付きのマーシャ)なんだぜ?

 色々作って着まくったさ。


 お茶会は毎回新作デザインで参加してたら、ちょいちょい俺のデザイン真似たドレスの令嬢が出てきた。

 

 うん、良いねイイね。

 

 前世の中世の流行がどうだったかは知らないけど、この世界のドレスって、どうにも野暮ったいんだよ。

 せっかくみんな可愛いんだから、もっと良いデザインのドレス着たら良いんだから。


 え? 俺のドレス代?


 んなの、デザイン料は俺がデザインするんだから、タダ。材料費とちょっとした手間賃で済むんだよ。

 

 一般人用の作業着とかも作らせて売ってるから、その売却益だってあるし、魔道具のアイデア出してそっち方面でも収益上げてるし。

 

 ……口が悪い奴からは浪費令嬢とか呼ばれてるけどな。

 レオンとか。

 

 お前、俺の個人資産からドレス代とかアクセ代とか出してるの知ってるだろうが!


 まぁ、レオンなんかは冗談で言ってるだけだけど、派閥違うトコとかは本気で言ってくるから、始末が悪い。


 いや、まぁ、俺だって自分の事じゃなかったら、コムスメが自分で稼いでるとか信じないだろうけどさ。

 

 流石に敵対派閥の攻撃材料にされるんなら自重したほうがいいかな?


 とか思ったら、父さんから「むしろもっとやれ」と言われた。

 自分で稼いで使ってるのを攻撃する道化に仕立てたいんだと。


 まぁ、そんな風に過ごして10歳になったある日、とんでもない大事件が起きた。



 ◇



 俺は今、お城の謁見の間に居る。


 何でかって?


 王子様の婚約者になったからだよ!


 ……いや、正確にはこれからなるんだけどさ。

 王様から打診きたら断れるワケないじゃん!


 いやー、貴族に産まれたからには政略結婚とかあるんじゃないかとは思ってたけど、思ったより早かった。


 でも、俺、前世男なんだぜ?


 子作りとか絶対嫌なんだけど!


 あ、でも、王族との結婚なら、仮面夫婦で子供は妾とかに産んでもらう方向に話持っていける気がする。


 今の王様、妾居ないらしいけど、法律上は妾オッケーらしいし。


 ていうか、なんで王様妾居ないんだよ!?

 子沢山ならともかく、王子様ひとりだけなんだよ?

 血筋がピンチにならない!?


 とりま、王子様には妾を何人か迎えてもらおう。そうしよう。


 なんてひとりで結論を出したところで、王様と王子様が謁見の間におなりになった……らしい。

 

 らしい。ってのは、俺と父さんは平伏してて見れないから。「国王陛下、王子殿下の御成」という合図を聞いただけ。

 

 それでも、真下の地面を見てるワケではないので、玉座に王様が座ったのは見えた。


「皆、(おもて)をあげよ」


 ここでやっと顔を上げて王様の顔を……


「………………」


 そこに居たのは、伯父さんとレオンだった。


 そーだよ。

 勉強したじゃん。

 

 公爵って、王家の血筋に連なる家系じゃん。

 

 伯父さんが父さんに家督譲ったんじゃなくて、父さんが公爵家に臣籍降下したんだな。

 あー、そりゃアホの子扱いされるよな。──ちくせう。


 謁見の間では「リリアンヌをレオンの婚約者とする」「ははー! 有り難き幸せ」なんて儀式を親同士でやってるのを見せられただけで、当の本人は一言も喋らずに終わった。



 

「──で、何でこうなったんです?」


 謁見の間の隣の応接間。ここに居るのは、伯父さんとレオン、俺と父さんだけだ。

 

 いや、マーシャとか城のメイドとかもいるけど、居ないものとして扱うものだ。


 言葉遣いが不敬?

 

 この部屋に入ってきた時に、いつも通りで良いって言われたから、良いんだよ。


「何でもなにもなー、お前、自分の価値分かってるのか?」


 そんないつもの調子で伯父さんが言う。

 

 でも、王様の衣装でジュースの氷噛み砕きながら言うのはヤメレ。王様のイメージ崩壊がヤバい。


「ふむ、氷を噛み砕いてくつろぐなど、王のやることではない。──とでも考えているのかな?」


 あんたエスパー?


「心を読みましたか?」


 そういう魔法でもあるのかも知れない。


「はは、鉄仮面令嬢相手でも、こうした場では表情が読めるだけだ」


 ああ、さいですか。

 

 俺、パーティとかじゃ、鉄仮面とか呼ばれてるんだよな……

 愛想笑いとか苦手なんだよ! 上品に微笑むとか苦手で、無理に笑うと悪役スマイルになっちゃうから。


「さて、今一度問おう。自分の価値を分かっているか?」


 自分の価値って……


「美少女公爵令嬢?」


 とりあえず、思いついた事を言ってみる。

 

 おい、レオン。「自分で言うな」とか言うな。事実だろーが!

 

 そろそろ体型だって、出るとこ膨らんできてるんだぞ。


 ……鏡見ても、未だにエロい気にならんのは、やっぱ自分だからだよなー。

 けど、これほどの美少女で、しかも公爵令嬢ともなれば、十分な希少価値だろう!


「……やっぱり、分かってないんだな」


 伯父さん、ため息吐きながら言うな。

 じゃぁ、何だっていうんだよ。


 そう問うと、伯父さんはジュースのグラスを持って言う。


「冷えたジュースに、氷ぶっ込んで飲むと美味いよな」

「はぁ……」

「冷えた部屋なら、なおサイコーだ」

「夏場限定だけどね」


 ちょうど夏で、この部屋は冷房が効いてて涼しい。


「何でこんな事ができるんだろうな?」

「え? そりゃぁ、製氷機とか冷房があるからでしょ?」


 あとは、冷蔵庫もかな?

 そう言うと、伯父さんは変な顔で言う。


「それを作ったのは?」

「魔道具職人」

「元のアイデアはお前だろうが!」

「ひゃぁっ!」


 なんか怒られた。

 いや、それはそうなんだけど、俺はマジでアイデアしか出してない。

 

 気化熱とかそういう知識や、魔道具回路のなんとなくの知識を伝えたら、チートな魔道具職人が頑張って作ってくれたんだ。


「はぁ、そのアイデアが重要なんだ。お前の、前世の知識がな」


 俺は転生の事を家族には話していた。もちろん、伯父さんやレオンにも。

 

 その方が、コソコソやらずに、父さんのアイデアとして魔道具作ってもらえるし。


 いや、服のデザインみたいに絵で説明できるモノならともかく、魔道具のアイデアなんて、ラノベみたいに職人さんを動かせる信用なんか公爵令嬢とはいえ、コムスメには無いんだよ……


「夏場の氷なんて、本来は超高級品なんだ。それを砕いてジュースに入れるなど、ましてや冷えた部屋で噛み砕くなど、考えられない事なんだ」

「はぁ……」


 前世では普通にやってました。つか、できない事の方が考えられねー。


「つまり、冷えた部屋で氷を噛み砕くなんて事、国王くらいにしか許されない贅沢なんだ。しかも、意味のない贅沢をする愚王(アホ)の部類だな」


 それが、魔道具のおかげで誰でも……とまではいかないけど、それなりに裕福なら庶民でもそういった事ができるようになったとか訴えてくる。


 うん。まぁ……そう言われれば、そっち方面の価値があるの……か? でも……


「だからといって、何で婚約!? 俺、前世は男だった。って言ったよね!?」

「ほっといたら、際限なく婚約の打診がくるからな」


 俺の疑問に答えたのは父さんだった。

 

 いくら表向き父さんのアイデアで魔道具作ってても、どうやらその元は俺らしい。というのは貴族連中には漏れているとか。

 

 それでなくとも、新しい魔道具を作り出す公爵家のご令嬢。というのは魅力的らしい。

 

 いつまでも突っぱね続けるワケにもいかないので、レオンの婚約者ということにしたらしい。


「……子作りとかはやんねーからな!」


 それだけは絶対条件にして、俺は婚約を受け入れた。



 ◇



 婚約から数年後。

 俺たちは学園に通うことになった。


 俺たちは表向きは仲の良い婚約者同士ということになっている。

 

 うん。普通に遊んでるからね。

 公式行事も、基本的に一緒に出てるし。


 さて今、俺はその婚約者様を探している。

 今度のパーティの打ち合わせとかしたいんだけど、どこに居るんだ? あの王子様は……


「何をやっている!」


 おう、ちょうど声が聞こえてきたけど、穏やかじゃないな。お前こそ何やってるんだよレオン……


 声の聞こえた方に向かってみると、何やら向き合ってる集団が。

 

 一方はご令嬢数人。

 もう一方はレオンと彼に庇われている風な……というか、実際に庇われているのであろう座り込んだご令嬢。


 突き飛ばされたとか、そんな感じかな?

 双方知ってる顔だ。


 片や貴族派のご令嬢方。

 国王派の俺の家とは敵対派閥の娘たちだな。


 で、座り込んでるのは男爵家の娘さんだ。元は平民だけど、魔法の才能があったとかで、領主の男爵家の養子になって、この学園に通ってる子だ。


 平民で魔法の素養があるのは10年にひとり。とかの珍しさなので、結構目立ってるらしいけど、正直あんまり興味が無かったので、今はじめてマトモに顔を見た。


 ふむ。可愛いとは思うけど、俺の方が上だな。

 ああ、でも、貴族派の令嬢どもよりは上かな?


 あ、令嬢ズが逃げていった。


 残ったふたりは……おお、レオンが女の子を立たせてあげて、土で汚れた部分を払ってあげてる。

 

 あ、お尻のとこやる時、ちょっと躊躇したけど、そのまま触りやがった。スケベめ!


 さて、男爵令嬢(平民ちやん)の顔が赤いのは、お尻を触られたからか、王子様に見惚れているのか……

 

 まぁ、後者だろうなぁ……。奴は顔は良いし。

 性格イケメンだし。


 ん? おやまぁ、怪我をしてたぽいな。


 そんな彼女を、レオンはお姫様抱っこでどこかへ連れて行く。……って、保健室だろうな。まさか、体育倉庫とかで18禁展開ってことはないだろうし。


 うーむ、なんというか、「ザ・乙女ゲー」って展開だな。


 いや、あの平民ちゃんの身の上話を聞いた時も、「それ何て乙女ゲー?」って思ったけど、残念ながらというかなんというか、該当するような乙女ゲーなんか知らないんだよね。

 攻略対象ぽいのも、レオンくらいだし。


 とりあえずは、レオン本人がどう思ってるのか、ダヨネー。




 「で、ああいうのが好みなのか?」


 その日の夜。

 早速レオンを問い詰めてみる。


「な、ユリィはそういうんじゃぁ……」


 ぉぅ、語るに落ちるとは、こういうコトをいうんだな。

 俺、別に個人名出したワケじゃないぞ。


 とりあえず、問い詰めてみたら、最近結構ヨロシクやってるらしい。

 

 ……そういや、学園内で一緒に行動する事減ってたな。

 何だよ、俺に黙って女の子とイチャイチャしてたのか。


 とりあえず、婚約者を放って別のご令嬢に傾倒していたお詫びとして、俺に娯楽を提供してもらおうか。


「マテ。一体何をするつもりだ?」

「ん? 乙女ゲーごっこ。又は悪役令嬢ごっこ?」


 いや、こんだけ材料揃ってたら、やりたくなるじゃん?

 

 あのユリィって平民娘をいぢめて、レオンが俺との婚約を破棄して、あの娘とゴールイン!


 うん、完璧だね。



 ◇



「リリアンヌ・ドゥケ・マルキオーニ。お前をユリィの後見人に任命する! これよりはユリィを妹として見守るように」

「ははー!」


 学園の卒業パーティ。

 そのクライマックスで、ユリィと並んだレオンからの下名を受ける俺。


 あっるぇ? 何でこうなった?


 いや、あの後に乙女ゲーがどういうのか説明(ただし俺の独断と偏見で)して……


「そんな事をしたら、王族の信用が地に落ちて国が滅ぶ事になるんじゃないか?」


 なんて言われた時、


「ああ、そういう()()()()()がそれなりにジャンルになってて……」


 って言ったら殴られた。


 うん。冷静に考えたら、国が滅ぶ可能性あるような作戦はダメダヨネ……


 結局、普通に俺が公爵令嬢として彼女を保護して、王子の婚約者として妾に誘ったりしたんだよ。


「お姉さま、一緒に幸せになろうね!」


 俺の腕に抱きついてくるユリィ。


 ……うん。色々世話を焼いてたら、懐かれた。レオン以上に。


「ユリィはこれより俺の妾候補となる!」


 レオンのその宣言は、どっちかというとユリィに向けられてるような気がする。


 ……うん、頑張れレオン。

 いや、本当に。


 最近、ユリィは女の子同士でも子供ができる魔法を本気で研究してるから。

 しかも、俺に産ませる気になってるし。


 マジで頑張ってくれ……




 その後、リオンは多くの子宝に恵まれたが、それらが本当にリオンの子だったのかは……ここでは語るまい。

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