外れスキルでうおおおおおお!!
俺、不幸越棚! 蛇としての生涯に幕を閉じたところなの! 今回は何年も生きたから大往生と言えるのではないか。
この青空も久々だと目を開けてから思う。今日は雲もそこそこ。このまままどろみに落ちたいが、目の前に知人がいる。俺は起き上がり件の幼女と目が合う。彼女は変わりなかった。最初に出会った頃の男装をし、背丈は伸びず、胡座をかいていた。
「お主にとっては久しいのう」
「貴方にとってはすぐのことなんですか」
言って、自分の声に驚いた。こんな声だったか。前世では声を発することは全くなかった。
「わしらにとっては時間なぞあってないようなものじゃ。しかし、それでもお主は長く生きれた。お陰で楽ができたわ」
幼女は口角は上がっていなかったが目は喜びを抱いていた。前までとは違い、何か作業をしながらの会話ではない。それが新鮮で、俺もどうも畏まってしまう。
「それは良かったです」
「おう、良かった。じゃから、次も長く生きてもらうよう計らってやろう」
幼女と青空が消え、暗黒と交じり行く。これも久方ぶりだ。過去への哀愁を感じながら意識を失った。
目を開けることはなかった。その代わり耳からは多数の音が聞こえた。不思議と親しみを覚える声。知らない人の声。そして自身のものと思われる赤子の泣き声。
ようやく目を開けることが叶った。見れば、周りは巨人ばかり。俺は布に包まれ天井を仰いでいた。泣き止み、周囲に目を配れば木の家であることが判る。そして人は俺を見て歓喜に湧き可愛い可愛いと連呼している。
なるほど、合点がいった。俺はとうとう赤ん坊に転生したのだ。
しかし恐怖も心臓を撫でる。この世界が今まで目にした異世界ならば、赤子の俺は死にやすいのではないか。しかも貴族などの生まれではないようだ。農民かそれと同等の者か。不安が顔に出たか、よしよしと体を揺すられた。
まぁそんなことはなかった。俺はフッコウ=オチータナとして、この村で育てられた。俺は不幸越棚という名前から逃れられないらしい。そのほうが憶えやすくていいけども。
俺の家はよくある一農家の家系。世界は何度も見てきた中世ヨーロッパ風の世界。俺の家は村の中ではそこそこ大きい。藁葺きには違いないが貧しいというほどではない。
俺の知り合いは大抵俺のことをターナーと呼ぶ。転生し始める前はあだ名なんてつけられなかった。少し感慨深い。
ある日、俺が家の仕事をサボって近所の子と遊んでいると、見知らぬ女がやって来た。フードを被って水晶玉を手に持ち歩いていた。
「そこのおねーさん、誰ですか?」
俺が呼び掛けると、フードの下から微笑みが返ってきた。俺達に近寄り、素性を話し始める。
「私は街の鑑定士。この水晶玉を使って、人が持つスキルを鑑定するのが仕事なの。どう? 坊や達。私に鑑定させてみない?」
とても魅力的な相談だった。この世界におけるスキルとは、イコール才能を表す。己の持つスキルを知れば、それを生かした生活ができる。例えば、剣士なるスキルがあれば、文字通り剣士の才があるということだ。
「でもねーさん。お金かかるんでしょ?」
友達の一人が言った。スキルは鑑定されないと何のスキルを持っているのか判らない。そして鑑定というのはお金がかかる。それ故に、自分がどんな才能があるか知ることなく死ぬ人間も多い。
俺達は全く期待せずに返答を待った。
「いいえ、私はお金を貰わないの。自分のスキルを知ることができないで死ぬ人が出ないのが私の理想だから」
周りの子はみな目を輝かせた。しかし俺は警戒して鑑定士を睨む。もしかしたら詐欺かもしれない。そう考え、一計を案じることにした。
「おねーさんがホントに鑑定士なら、俺達ガキじゃなくて大人から話を通しなよ」
「あら、賢いのね」彼女は少し驚いたようだ。警戒は解かない。
「じゃあ、お言葉通り村長さんに会いにいこうかしら。坊や達、案内してくれる?」
俺達は彼女を案内し、村長の家に通した。途中村人達も部外者に注目して着いてきた。村長は鑑定士を見るや、優しく笑いだした。
「ターナー、お前はその歳でもう純粋さを失ったのか。このお方は間違いなく鑑定士じゃ。どれ、この子達を鑑定してくだされ」
彼女は頷いて、俺達のスキルを水晶で調べる。一人は、炎魔法。一人は、染め上げ。一人は、農業。
そして、俺の番が来た。彼女は微妙な表情をする。
「ターナーくん、貴方のスキルは、歩行よ」
「は?」
周りの人々が嗤う。嘲笑だ。だかその評価は当たり前だろう。何せ歩くことなんて誰でもできる。鑑定士も哀れみの目で俺を見る。
「大丈夫よ、こんなこともあるわ」
彼女はそう励ましたが、そのほうが恥ずかしかった。
後日、俺は考えを改めた。歩行、というスキルだが、一体なんの効果があるのか。それも聞かずにいると鑑定士は去ってしまった。彼女の反応から考えるにいいものではなさそうだが、試してみなければ始まらない。
まず、歩いてみる。ただただ歩く。村を十週したくらいで気づく。一切疲れてない。振り返ればこの世界で疲れを感じたことがない。なぜそれに気づかなかったのか。
この歩行というスキル、無尽蔵の可能性を秘めているかもしれない。
俺は戯れに空を歩行してみようと考えた。もちろんできるとは思ってもいない。まずは地面を歩いて、階段を登るようなイメージを描く。すると、何もない空中で足が着地した。よく踏みしめても、確かに空中を踏んでいる。もう片方の足を一歩進めるとついに、空中に立った。
駆け足でどんどん空中へ登っていく。俺は空を歩いている! 空中で村を眺めるのが面白くて空を駆け回った。地上では、畑仕事をしている村人が俺を見て騒いでいた。
地上に戻ると、大人達に囲まれた。
「ターナー! あれはいったいなにをしたんだ?」
「ターナー! 魔法でも覚えたのか?」
「ターナー! すごいじゃないか!」
称賛や疑問の嵐。俺はしかし得意気にならず、あえて謙虚に事を説明する。
「俺のスキルを使っただけだよ」
それからは世界が一変した。俺は理論上どこでも歩けるのだ。水の中空の上どこでもござれり。深い川の中に物を落としてしまったという人を助けたり、飼っていた鳥が逃げてしまったというので空を走って捕まえたり。俺がスキルで何かするたび、周りの評価はうなぎ登り。最初嘲笑していた人も手の平を返した。
ある時、俺はこのスキルの不便を発見した。どう足掻こうと、所詮ガキの足で移動していることに違いはないのだ。すると、どこを歩こうが速度は変わらない。これこそ不便だ。どこへでも行けるならもっと速く向かいたい。
そこで、ワームホール理論を思い出した。無論詳しいことは知らない。だけど簡単にいえばワープだ。この歩行というスキル、異空間も歩けるのではないか。
俺は必死にイメージした。途中、母親から畑を手伝えとの声が聞こえた。しかし母親は集中している俺の様子を見ると黙って畑に戻った。父親も励ましの言葉を残してくれた。
そしてついにそれはなった。イメージを研ぎ澄まして一歩踏み出すと、景色がスライドするように変わった。たった一歩で村の入り口まで行けた。それも物体の干渉もなく。これで移動の不便はなくなった。
それを家族に伝えると、
「ターナー、お前は凄い子よ」と母。
「お前は我が家の誇りだ。そのスキルを腐らせてはいかん。いつか村を出て成功するんだぞ」と父。
俺は感激して涙がでた。なんていい両親なんだろう。俺は語彙の限り感謝し、家族と並んで寝た。
次の日。俺はあることを思い付く。このスキルがあれば、かの幼女の下へ生きたまま向かうことができるのではないか。もしできれば、最早生死さえ俺の脅威ではない。死後の世界に行けるのだから。
俺はあの青空をイメージした。それはとことん容易で、彼女のいる場所をありありと思い浮かべた。そして、一歩歩く。
そしたらそこは外宇宙だった。球体でない星々や宇宙規模の巨大生物がいた。俺は恐れおののいた。それでもあの青空の下へ行きたかったので再びイメージする。そして一歩歩む。
しかし、俺が向かいたい世界は死後の世界だということを忘れていた。生者のままでは入れず、そのまま世界の法則に則って死んだ。